夢を追いかけ夢と共に
「それじゃカフェ、ちょっと会議に行ってくるよ」
「分かりました、トレーナーさん」
そう言ってトレーナーは部屋を後にした。
「静かですね…」
静かになったトレーナー室のソファに横たわり1人カフェは呟き横を振り向く。しかしそこに誰がいるのでもなく只々部屋の風景だけが映る
「………」
あの日、あのレースを最後に自らに入り込むようにして見えなくなったカフェのお友達…
普段ならば振り向けばそこにいる筈だった存在…
「もう見えない…分かっている事なのに…」
返事無き静寂が彼女の寂寥感と不安を逆撫でする。疲れていたのだろう、そのままカフェは微睡みながら目を閉じた。
「ここは…夢の中?……! お友達!」
夢の中、あの時見えなくなったお友達を見つけたカフェはその姿を追いかける。それを見たお友達は逃げる様に走り出した。
「待って下さい!待って!」
カフェはレースの時の様に速度を上げていく。あの時のレースの様にどんどんその差は縮まっていき、遂にその肩に手をかけようとした時、お友達の姿が消え、変わる様に大歓声が響き渡る。
「これって…あの時のレース…?」
———おめでとう、カフェ
「!?」
普段聞き慣れた声が聞こえカフェが振り向くとそこにはトレーナーの姿がそこにいた。
「トレーナーさ…ん?」
———僕が出来る事はここまで
「え…?な、何を…」
———でも大丈夫だよ
「待ってください…トレーナーさん…」
———カフェなら一人でも歩いていけるから
「待って…待ってよ…お願い…待って!」
トレーナーの姿が光に包まれていく。よろめくような足取りで近付き手を伸ばそうとするカフェ。微笑む彼の顔に手が届く瞬間、眩い光が放たれてカフェを包み込んだ…
「トレーナーさん!」
物凄い勢いでカフェが跳ね起きる。我に帰り辺りを見回すと普段のトレーナー室。しかしそこにいるのはカフェ一人、その事実が先程の悪夢を嫌というほど思い出させる。
「わたし…ひとりぼっちになっちゃったよぉ…」
「あいたい…あいたいよぉ…う…ううっ…」
力無く座り込み子供の様に大声で泣き出すカフェ。
幸いトレーナー室は防音の為外にその声が響く事はなかったがそれは逆に誰にも気づかれないという事でもある。それ故に泣いた。泣いて泣いて泣いて泣き続けた。
その時である———
「ただいま……カフェ!?どうしたんだ!?」
「あ…ああぁ…トレーナーさん…トレーナーさん!」
急足で近寄るトレーナーに抱き付きまた泣き出すカフェ。
「辛かった…寂しかったぁ…どこにも行かないでぇ…お願い…」
「大丈夫だよ…どこにも行かないから。……だから好きなだけ泣いて良いんだ」
そう言って部屋の扉を閉めたトレーナー。そんな彼に抱きつき胸元に顔を押し付けながらずっと泣き続けたカフェであった…
「成程ねぇ…」
先程の夢を聞いたトレーナーは腕を組み真剣な面持ちで思考を働かせる。
「もしかしたらお友達はカフェの夢や目標の道標になってくれていたのかもね」
「道標…?」
「そう、カフェが迷わない様に…道を見失わない様に…ずっと前に居て見ていてくれたんだよ」
肩を振るわせ涙を流しながら無言で頷くカフェを見てトレーナーは続ける。
「だからさ、カフェの夢や目標がまた出来たらきっと会えるよ絶対に」
「私の…夢…」
そう呟くとカフェは深呼吸をしてトレーナーの方へ向き直る。
「私は…一緒に居たい!トレーナーさんと!お友達と一緒に!ずっとずっと!」
「それが甘えと言われても構わない!あの子は目標や夢の道標だけじゃない!私の大切な"お友達"だから!」
———アリガトウ…
叫び終わった瞬間、声が聞こえた。
その声を聞いた二人が振り向くとそこにはカフェのお友達が微笑んでいた。
駆け寄った二人を抱きしめるお友達に驚くカフェとトレーナー。それは正しく二重の意味での奇跡であった。
そして時は過ぎて———
朝早く目が覚める。朝日が少し顔を出す様な涼しく薄暗い中、体を伸ばして新鮮な空気をその身体に取り入れる。
いつもの様にコーヒーを用意し、いつもの様にトーストでパンを焼く。
手慣れた動きでベーコンを焼き、その上に卵を落として目玉焼きをあっという間に作り上げる。そうすると後ろでトーストが焼けた知らせを音で伝えてくる。
コーヒーをマグカップに淹れて目玉焼きとトーストを皿に盛り付ける。
すると後ろから香りに釣られてか足音が聞こえてくる。
「おはようございます"二人共"。朝ご飯出来てますよ」
その声にありがとうと二人が応え、そして三人で椅子に座り「いただきます」と合図をする。
そんな何気ない一日…しかしある少女がいつか願った夢の様な一日が今日もまた始まるのである———