夢をみる
神殺しの数日前ぐらい 二人は航海してます キャメニキに懸賞金かかってます
「ーーーーーうーーーーたい」
小さな弟が小さな声で何か言っている。
「ーーーーーうに⋯なりたい」
自信がないのだろうか。声が震えている。
「おれは⋯おれは⋯か⋯」「起きろアニキ。メシ冷めるぞ。」
また随分と懐かしい夢を見た。。ありがとうクロ、と弟の頭を撫でようとした手は三年前なら頭に届いた筈だ。夢の中の小さな弟はなんと言っていたか。思い出せない夢は一旦置き机から身を起こすことにした。
朝食の義務汁を飲みながら新聞に目を通す。「〇〇海賊団一夜で壊滅 犯人はあの狂犬か?」「△△聖の御遊覧、いよいよクライマックス。◇⋯」一面の記事は退屈だが大事な記事だ。今を知るために頭に流し込む、この義務汁の様に。
食事を終え最低限目を通した読み終えた新聞を置こうとした矢先「せかいいちのおかし」の文字が目に留まった。引き寄せられる用に6面を開く。世界一のパティシエを夢見る少女による『私の夢』と題された文と絵はデザートだ。なになに⋯マカロンの⋯タワー!?
「アニキ、次どこ行く?」デザートを味わっていると弟が声をかけてきた。「私は特に。クロは?」「食糧は余裕があるうちに補給しておきたい」ここら辺の島は治安がいいから⋯と続ける弟の声色はまだ幼さがあるもののとても落ち着いている。
「本当に大きくなったなァ⋯」思わず言葉を漏らす。聞いてなかったのかと言われたので正直に途中から聞いてなかったと答えた。
しばらくはこの辺りの安全な島で過ごすことが決まり二人だけの船内会議は終了した。会議が終わり机から離れようとして開かれたままのデザートに気付く。弟にもおすそ分けしてあげよう!と呼びかけた。⋯残念ながらマカロンタワーも虹色の飴もあまり賛同は得られなかった。
「そういえばクロの夢は何だい?クロは何になりたい?」弟の表情が途端に変わった。目が泳いでいる。
「いくら今とかけ離れててもいいからなりたいものを言ってごらん。」
弟が閉ざしていた口を開く。
「今のままじゃ絶対に無理だけど⋯⋯⋯⋯⋯になりたい。」
もう一度言ってくれと言おうとして遮られた。
「海賊王に⋯なりたい⋯!!」
緊張している様子なのはあの頃と変わらないが目は少しも泳いでない。この子は私とは違う。野望がある、作りたい世界がある。
「そうか、厳しいがクロなら可能性はあるな。」そう言って嫌がる弟の頭をわしゃわしゃ撫でながら一つ名案を思いつく。
「次の目的地は◇◇島にしよう!」
あの島で生産される革は極上のものだ。
未来の海賊王の頭を飾る帽子に手抜きは厳禁である。逃げようとする弟を捕まえて頭に巻尺を巻いた。
「なあアニキ。アニキの夢ってなんだ?」
「うーんパタンナーをしながら海賊かなぁ⋯。」
「なんかアニキにしちゃあマトモだな⋯。」
「いやー見つからないんだ。何もかも投げ出してでもとかそういうの。」「そんなのを知ったら普段が退屈になっちゃいそうだよ。」