夢の終わり
『色んなものを見てね。こっちに来て、また会えた時にたくさん色んな話を私たちに聞かせてよ。』
『色んな美味しいもん食って、美味しかったもの教えてくれよぉ、約束だぞ兄者!』
『……壊相、血塗……』
景色から情報がひとつずつ消えていくのがわかった。何も無い空間になっていく。夢が終わってしまうと、直感的に理解した。木々や花々が消え、真っ暗な空間に一人取り残され、蹲った。喪失感と虚無感に襲われ、目頭が熱くなったのを感じると同時に大粒の涙が頬を濡らしていく。
「っ……あ、あああ……!置いていかないでくれ…!なぜ、なぜ…、俺が生きて、お前たちが死ななければならなかった!なぜ、遺体を好きなようにされなければならなかった!お前たちが、お前たちが一体自分で何を決められたんだ!お前たちはっ……なにも、してない、何も出来なかった……!」
身体を丸めて小さくした途端に、弟たちから抱きしめられた感覚が脳を過った。あの温もりにもう触れられることは無い。
現実で、一度でも抱きしめてやればよかった。そんな後悔ももう意味をなさないのだ。真っ暗な世界がさらに光を失っていく。
「いやだ……ひとりに、しないでくれ……お願いだから……。」
小さく呟いた声は掠れていたのに、空間に大きく響いた。
「う、うう……!」
「そんなに泣くなよ、お兄ちゃん。」
突如どこからか落ちてきた自分以外の声に顔を上げた。強い光が差し込み、逆光となって顔は見えないが、それが誰かなんてことは考えなくても分かった。
「……私の弟子をよろしく頼むよ、あれでいて純粋でいい子だから。」
「……!!……九十九……っ、」
光が強くなり、目が潰れるような痛みを受けて瞼をきつく閉じた。それでもと、手を伸ばした。
伸ばした手を掴んだのは、女のものでは無い大きく厚い手のひらだった。