夜の一幕
あの後。補習授業部のみんなで合格祝いのちょっと豪華な夕食を食べに行った。コハルとミハルが何回も入れ替わっては会話に参加したり、ご飯を食べていたり、いつもよりも賑やかで、とても楽しかった。
そして、寝る支度を整えて。サオリへの報告もトラップを仕掛ける必要もない、ただ寝るだけでいい夜。安心してゆっくりと寝られる……はず、だったんだけど。
(上手く、寝れない……)
目が冴えてるわけじゃない。眠気もあるし、瞼も落ちてきてはいる。ただ、何故か、妙に寝苦しい。身体の中で、満たされたいと主張するような、そんな欲求が小さくもやもやと蟠っているような。これに似た感覚を、私はつい数時間前に体験していた。
(…………えっちなこと、したい)
明確にそれを自覚した瞬間、ぶわっと顔が熱くなった。今日は一体何回顔の温度が上がったんだろうか。自分で望んだことだけど。
えっちな事は何も悪い事じゃない。けどえっちな事は恥ずかしい事で、恥ずかしいと思われるような事で、はしたないと思われるような事で。ミハルに教え込まれて芽生えた認識が、今の私はいやらしいことを考えてるんだ、と嫌でもわからせてくる。そんな羞恥心に私が悶えそうになっている間にも、欲求の燻りはより一層増してくるような気がする。
(これ、ミハルが言ってた……)
ムラムラする、なんて言い方をすることが多いらしい。ふとした時に身体がえっちな事をしたくなる、そんな気分になるんだとか。
対処法は……当然というか、えっちな事がしたくなったのだから、えっちな事をすれば欲求は治る。具体的には、少しムラムラしたくらいなら一回くらいイけば満足してスッキリできる、らしい。
ただ、もうみんな寝静まった頃だ。今からミハルとコハルを起こすのは申し訳ない。いや、例え起きていたとしてもこんな夜遅い時間に付き合わせるのは申し訳なかったし、何よりやっぱり恥ずかしい。こういう、他の人を頼れない、頼らないときはどうするか。ミハルはそれも教えてくれた。こういう時は、何か別のことをして気を紛らわせて欲求が引くのを待つ、それか────
「…………ん……♡」
そっと、下着越しに"その場所"に触れる。今日知ったばかりのあの感覚が淡く生まれて、身体が小さくぴくっと反応した。
(自分で、する……)
えっちな事を、自分1人でする。自分で自分を気持ちよくする。ミハルが私にしてくれたのと同じ事を、自分で自分にする。教わった事を反芻しながら、その場所を刺激していく。傷つけてしまわない様に、指の腹で、慎重に、慎重に。
「ふ、ぅ…………♡」
ほのかに感じ始めた"気持ちいい"を、ゆっくり自分の中に受け入れていく。少しずつ、少しずつ、身体の中に溜め込ませていく。
生まれて初めてする行為だけど、お手本はある。記憶の中にある、ミハルとした時の事、してもらった事、その時の感覚を手繰り寄せる。こうやって、優しく、優しく、私を気持ち良くしてくれて────
「みは、る……ぅ……♡」
ほんの小さな声で名前を呼ぶ。優しく教えてくれた顔を思い浮かべる。あの時、すごく気持ちよかった。すごく幸せに感じた。ミハルがくれたあの感覚に少しでも近づけたくて強く思い浮かべながら、指を動かす。
「ふっ…………ぅぅ…………♡♡」
波みたいに押し寄せてくる"気持ちいい"をうまく捕まえて、どんどん増やしていく。みんなを起こさない様に、みんなに気付かれない様に、息を潜めて声を殺しているから、思ったよりも上手く"イく"ところまで持っていけなくて、少しもどかしい。けど────
(気持ち、いい……♡)
ぴくっ、ぴくっ、と身体が小さく、何度も何度も反応する。身体をざわつくような、甘美な感覚が堪らない。気持ちいい。思考の中で自然とその言葉が浮かんだ途端、一気に膨れ上がってくる。荒くなりそうな息も、ついつい出てしまいそうになる声も出来うる限り抑えて。
(気持ちい、気持ちいい……♡)
その代わりに、頭の中で何度も何度も喘ぐみたいに思い浮かべる。無意識の内に指の動きが追い込んでくるみたいに早くなっている。気持ちよさが一気に強くなって、あの時味わった"イく"時の感覚が近づいてきた。
「ふぅ、ふぅ、…………♡」
(イ、く……イっちゃ、う……♡♡)
予兆を感じて、直ぐそこまで迫ってきてる感覚を堪える様に、布団の中で背中を丸めた。私自身を弄る手とは逆の手を、今回は握ってくれる手がいないから、ただきゅっと握り込む。そして──────。
「──────………………っ♡♡」
身体の中に溜まった甘い感覚が、全部身体中に広がっていって。ひときわ大きくビクッと震える身体。その後も二度、三度と身体が小さく跳ねた。