夏祭り 2

夏祭り 2


 夏祭り。色んな食べ物やおもちゃを売っている屋台があって、踊ったり花火を見たりするのだとさくらから聴いて、花は密かにこの日を楽しみにしていた。

 浴衣を初めて着て。さくらと、友達と、一緒に出掛ける。楽しみ…!

 祭り会場へ向かうなかそう思いながらも、なにか…なにかが少し気に懸かる。何故か、どこか淋――


 「どうしたの、花?なんかちょっと淋しそうな顔してるよ?」

 「ぇ、そう?」

 内心 自分でも思っていたことをさくらに指摘されて動揺する、けれど、なにが引っかかっているのか、淋しい気持ちがどこからくるのか、花自身もわからなくて。

 「…私の気の所為かも」

 ごめん、と言うさくらに花は曖昧に笑い返す。(さくらに<花、自分で気づいてないんだ…>と思われていることを知る由もない。)

 「もうすぐ着くよ。ほら、見えてきた!」

 さくらが指差す方に目を向けると、提灯の連なった空き地のような場所が見えてくる。

 その入口に見知った人が佇んでいた。


 「大ちゃん!」

 さくらがその人を呼ぶと大二は手を上げた。

 「花、よかったね」

 ―――え

 さくらにこっそり言われ目を白黒させる花を気に留めることなく、さくらは一輝達と大二に駆け寄って行った。

 「大二、来れたんだな」

 一輝が声を掛ける。

 「うん。仕事が一段落したからさ」

 「そっか」

 兄弟でそんな遣り取りをし、大二が一輝の隣の人物に視線を滑らせた。

 「こんばんは、大二くん。逆に待たせちゃったね」

 さくらの幼馴染が申し訳なさそうに言えば

 「いや、先刻 着いたところだよ」

 大二は気にする必要ないと返す。

 「兎に角、逢えてよかった!」

 さくらが安堵の声を上げ、折角だから皆で浴衣を着たよーと話した。

 「大ちゃんも着て来たらよかったのに」

 「着替える時間なくて直接ここに来たんだ」

 「そうなんだぁ…

  あ、そうそう、花も ね…」

 そこでさくらに手を引かれ。花は大二の前に押し出される。


 突然に引っ張り出されて、花は戸惑う。大二を前にし、どうしよう…なにを言おう…と僅か身構えて、

 「幸実さんに…着せてもらったの…」

 それだけ、告げた。

 なんて返ってくるだろう…。――何故だか緊張する。ドキドキしながら、大二の言葉を待つ。

 「そっか、よかったね。

  そう言えば、花さん夏祭りは初めてだって…」

 「うん」

 小さく頷くと

 「じゃ、楽しもう」

 大二はにこやかに笑い掛けてきた。

 ―――!……っ、

 瞬間、胸がきゅっとなって…。――上手に返事ができない。


 「大ちゃーん、花ー、行くよー」

 自分と大二を呼ぶさくらの声。

 「あぁ」

 応える大二に、行こうと促されて、花はひとつ肯いてさくらの側(そば)へ走った。



 どうしてだか、いまは大二に顔を見られたくなかった。

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