夏祭り

 夏祭り


 ○○との買い物帰りに私は、掲示板に貼ってあるポスターに目を付ける。

“どうしたのサラ?”

「○○、このポスター……夏祭りだって」

“行きたいの?”

「うん、花火もあるみたいだし……○○も偶には息抜きが必要だよ」

 私がそう言うと○○は考えるようなしぐさをする。やっぱり急に言われると予定が合わないかな?と心配する私に○○は頷く。

“いいよ行こうか。私も、サラと一緒に過ごしたいしね。1週間後か待ち合わせはどうする?それとも、1週間私の家に泊まりに来るかい?”

「そうする。あ、泊っている間は家事の手伝いをするよ」

“それは遠慮しようかな……”

「一緒に並んで作れば流石に味が悪くなることはないかなって思うんだけど……」

“まぁでも、将来のために教えながら作るか”

 将来のため、それはつまり私と○○の将来の事だろうか?私はあるかもしれない○○との将来を予想して頬が緩む。その後、○○の家で夕飯を作る手伝いをする。少し焦がしてしまったが、○○のサポートもあり味は問題なかった。ただ食材を切るのに私の手に○○の手を添えられたため、ドキドキして○○が教えてくれたことのほとんどが頭に入ってこなかった。寝る時は寝る時で、1週間後の夏祭りデートが楽しみでなかなか寝付けないせいで昼夜逆転の生活が続くことになる。これが、夏季休暇の間でよかった。もし学校のある期間だったら、授業中に居眠りをしてしまいただでさえギリギリな勉強についていけなくなってしまう。そんなこんなで1週間が経過して約束の日になる。私はコスプレの技術を用いて、浴衣の着付けをして○○の部屋に訪れる。

「見て○○」

“浴衣なんて持ってたんだ”

「コスプレで色々と買ってるからね。メイド服でご奉仕もできるよ」

“サラのご奉仕は遠慮しようかな”

「確かに私よりも、○○に執事服を着てもらって私が奉仕されるほうが家事の能力的には合ってるか……(あれ?これって普通にまずい状態じゃないかな?やっぱりもっといろいろできるようにならないと)」

“それにしてもまだ時間があるのに着ててしんどくならない?”

「待ち時間も楽しいものだからね。でもほんとに大丈夫?昨日夜遅くまで何かやってたみたいだけど。もし忙しいなら祭りはまた来年でも」

“気にしなくていいよ。それに祭りだって毎年開催できる訳じゃないだろ?学生のうちは色々楽しむべきだよサラ。だからもっと我がままを言ってくれて構わない”

 その後、私たちは時間より余裕をもって祭りの会場である神社に到着する。開始前だというのに神社にはそれなりに人がいる。カップルや友達同士でやってきてるようだ。

「まだ時間があるけどどうする?」

“どんな屋台が出てるか見て回って時間をつぶそうか”

 ○○はそう言って私の手を握って歩き始める。それだけでも、私の顔に熱が集まるのを感じる。屋台は食事や射的などのゲームがある。色々な種類の食べ物があり楽しみである反面、祭りなどのイベントでそんなに食べることのできない自分の胃を恨めしく思う。それとお化け屋敷まであったがあれには絶対行かないと心に決める。流石にこの姿でお漏らしなんてしようものなら色々な人に見られるし、それなりに気に入ってる浴衣を汚してしまうことになる。それだけは絶対に避けたい案件だ。そうして、色々と見て回ってる内に時間となり、屋台も営業を開始し始める。

「最初はどうする?」

“軽く食べてゲーム系の屋台を回ろうか。何か食べたいものはある?”

「焼きそばとたこ焼きが食べたいから一つずつ買って食べよ。後、飲み物でラムネを買おう」

 近くの屋台で買い物をすると、近くにあるベンチに腰かけて買ったものを食べることにする。普通に考えれば店で売られているのとそれほど味は変わらないのだろうけど、好きな人とこう言った場所で食べるというスパイスが加わることで美味しさは増す。

「○○多めに食べていいよ。他にも食べたいからさ」

“なら、ありがたく頂くとしようかな”

 私は買ってもらったイチゴ味のラムネを飲む。ビンの中ではビー玉が転がって心地いい音を奏でる。軽く腹ごしらえを終えた私たちは、ゲーム系の屋台に行く。まずは射的をやることにする。その屋台の景品にはミスターニコライのビッグぬいぐるみが置いてある。他のモモフレンズも結構好きだが、私は特にこのミスターニコライが好きだ。私はワンプレー分の金額を支払い挑戦するもミスターニコライぬいぐるみを狙うが揺れるだけで終わる。全弾命中させるも、獲得には至れなかった。私が落ち込んでいると、○○が挑戦する。二回分の代金を払い○○はミスターニコライを狙い撃つ。体勢が変わったところで、もう一つの射的用の銃の引き金を引きぬいぐるみを倒す。後は残った弾を適当な景品を倒すのに消耗して終える。全弾命中させたうえでそのすべてで景品を倒してるのだから屋台泣かせの人だと思う。○○は獲得したミスターニコライのぬいぐるみを私にくれる。

「いいの?」

“サラのために取ったんだから貰ってくれないと困るかな”

「ありがとう○○」

 私はミスターニコライのビッグぬいぐるみを抱きしめる。ふわふわとした手触りに抱き心地のよさを感じる。

「それにしてもよく、簡単に倒せたね」

“サラの特別なパワーがあるように、私にも特別な目があるんだよ。どこを狙えばいいかってのが分かる目をね……なんて冗談だよ。ただの偶然さ”

「偶然あれだけ、景品を取られてたら屋台の人は商売あがったりだよ」

“屋台の人には悪いことをしたかもしれないけど、ぬいぐるみを受け取ったサラが嬉しそうだったし私は満足かな”

 その後も色々なゲームに挑戦して、追加で色々な食べ物を購入して時間を確認する。そろそろ花火の時間だ。

“時間だし少し移動しようか”

 ○○にそう言われて、私は○○に手を引かれて人目の付かない場所へと連れていかれる。人目に付かない場所に連れていかれてもしかして、この後色々されるのかもと、考えてしまう。更に進むと開けた場所に辿り着く。

“ここ花火を見るのにちょうどいいスポットなんだ。昨日調べてたらヒットしてね”

「夜遅くまで調べ物をしてたのはこれなんだ」

“そうだよ。折角だから一番いい思い出になるといいなって思ってね”

 そう言って○○は地面に座ると、私を引き寄せて膝に座らせてくれる。

“折角の浴衣が汚れたらいけないからね”

 ○○の膝の上にはそこそこ座ったりしているがこんな状況で座るのは初めてで胸の鼓動が早くなるのを感じる。私はその鼓動を誤魔化すようにミスターニコライのビッグぬいぐるみに顔をうずめる。このままでは心臓がもちそうにないので早く花火が始まって欲しい。ドキドキが収まらない中過ごしていると、ヒューと言う音が響きその後、上空で破裂音が響き夜空に綺麗な花が咲く。それに続き次々と色鮮やかな花の光が夜空を照らす。永遠に感じていたい時間ほどあっさり終わるもので、花火の予定時間は終ってしまう。

「綺麗だったね」

“こういうのも悪くないな。いや、サラと一緒だからより楽しめるんだな”

 不意打ちのその言葉に私は○○の膝を軽く叩く。しかし、軽く叩いてるだけなので○○には大したことがないのか笑いながら私の頭を撫でる。私は反撃を諦めて、されるがままの頭を撫でられてぬいぐるみを抱きしめる。

“さて、花火も終わったしそろそろ屋台も閉まり始めるだろうし、このまま帰ってもいいんだけど少し散歩でもして帰ろうか。それともこのまま帰るかい?”

「もう少しこの時間を感じてたいな。だから少し寄り道して帰ろ。それと帰ったら、○○の料理が食べたいな」

“なら、24時間営業のスーパーで何か買って帰らないとな。今日の夜は祭りで済ませるつもりだったから明日の朝の分しかないから”

 そう言われて私たちは寄り道をして24時間営業のスーパーで買い物をする。○○は果物やお酒も籠の中に入れる。

「お酒飲むんだ」

“それなりにね。最近飲んでなかったから久しぶりに飲みたいと思ってね”

「私も早く飲めるようになりたいなぁ」

“飲めなくてもいいだろ”

「○○と同じものを飲みたいの」

“それで何か食べたいものはあるかい?”

「○○が作るものなら何でもいいよ。だって美味しいもん」 

“それが一番困るんだがね。まぁ軽く食べるものならなんでもいいか……時間も時間だし豆腐ハンバーグでいいか”

 材料を籠に詰めてレジで会計を済ませるとそのまま○○の家へと帰宅する。

“風呂は予約してたから準備してる間に入っててくれ”

「一緒に入らない?」

“入らないから。バカなこと言ってないで先、入って来なよ”

「はーい」

 私は一度部屋に戻り、ミスターニコライのビッグぬいぐるみをベッド横の棚に置きパジャマと下着を取り出して脱衣所に向かう。浴衣を脱ぎ浴室に入ると身体を洗い湯船に浸かる。しばらくゆっくりして私は一人で過酷を行い、お湯を汚しそれを追加でお湯を入れて混ぜることで隠ぺいする。○○の家に泊まるときはいつも気持ちよさから出してしまうが、○○に指摘されてないからバレてない完璧な処理のはずだ。そして、風呂から上がり着替えてリビングに向かう。リビングに入るといい匂いが鼻腔をくすぐる。その匂いで私のお腹が音を立てる。

“ちょうどよかった今できたところだから。お米はいるかい?”

「少しだけほしいかも」

 私がそう答えると○○はご飯を用意してくれる。普段と違った時間に食べる夕飯も美味しいものであっさり完食する。○○はお酒を飲みつつ豆腐ハンバーグをつまんでいるためまだ食べきっていないようだ。しかし一人だけ特別なものを飲んでるのは羨ましく思える。大人になったら一緒に飲もうと心で決めて私は食器を片付ける。私は、しばらくテレビを見て過ごすも面白い番組はやっていない。

「○○なんか面白いものない?」

“無茶な質問だな。録画でも見てればいいんじゃないか?”

「○○の録ってる番組ホラー系多いじゃん夜眠れなくなるもん。それとも私がお漏らしするところ見たかったり?」

“大体やらかしてるのにいまさら何を……なら動画でも見たらどうだ?テレビよりは面白いのがあるだろうし、好きなものを見られるだろ?それかゲームでもやるか?色々あるだろサラが置いて行ってるゲームもあるし”

「私は○○に構ってほしいの。お酒がそんなに好きなの○○?」

“人並みだよ。しかし構ってほしいならそういえばいいじゃないか。そうすればいくらでも構ってたさ。それで何をする?レースゲームか?格闘ゲームか?”

「協力できるゲームで……私○○ほどゲームは得意じゃないし。ゾンビゲーは嫌だ」

 ゲームの準備をすると○○が隣に座る。私はその膝の上に座り、コントローラーを握る。気が付けば日付が変わる前まで時間は経っていた。

“もうこんな時間だな、サラはそろそろ寝な”

「どうせ休みだしもうちょっとぐらい」

“しっかり寝ないと身体に悪いよ”

「健康と身体の強さには自信があるから大丈夫……まあでも、今日は少し疲れたからもう寝るね。○○も仕事や飲酒で夜遅くまで起きてないで早く寝てよ」

“善処しよう”

 これは治す気はないんだろうな。と思いつつ、私は歯磨きをして部屋に戻るとミスターニコライのビッグぬいぐるみを抱きしめてベッドで横になる。

「夏祭り楽しかったなぁ。今度は普通のデートでいいかなぁ……デートどこがいいかなぁ」

 私は次のデートを考えながらぬいぐるみに顔をうずめて眠りにつく。今日の眠りはいつもよりも深い眠りにつけた気がする。

 


Report Page