夏の終わり・体育祭・ハンターズ
映画のエンドロールが流れる。
禿頭で彫りの深い精悍なルックスの洋画俳優が仲間に裏切られた強盗を演じるクライムアクション作品である。
夏休みが終わりに近づく頃、フユが映画を見に誘ったのだ。自分にルールを課して生きるプロ意識の高いアウトローの報復劇。見応えのある作品だった。
(面白い映画だったけど、銀行強盗なんてやってたら人を平気で裏切る人と出会う可能性は高いよね…)
ロッジ宿泊やバーベキューの材料費で球場警備の報酬が半分吹き飛んだので、自分一人なら行こうと思わなかった。いっそ2人で楽しんで来て、と言おうとすら思ったが、2人が中止にする可能性を考えると言い出せなかった。
(断らなくてよかった…)
倹約志向に加え、デビルハンター部に入ってからは学校帰りに軽く何か食べる事が習慣になってしまっている。強い身体を作る為でもあるし、活動中はよく動くので食べないと元気が出ない。
「はあああ…!面白かったよ!」
「気に入ってくれたなら何より」
「主演の人、他にはどんな映画出てるの!?」
映画館を出たユウコは主演俳優が気に入ったらしく、フユに他の出演作を尋ねている。確かにカッコいい俳優である。がっつり禿げ上がっているのだが、よく街中にいる禿頭男性とは違い、貫禄がある。
「冬休みも何かないかな!?球場警備みたいな依頼!」
「あ〜…何かあったっけ?」
デビルハンター部に入って奨学金が貰えるようになったのでアサの懐は以前より豊かになったが、頻繁に遊んで帰る程の余裕はない。
「バイト解禁したらいいのにね〜」
「そしたら、今より志望者減りそうじゃない?デビルハンター部」
「えっ、まさかそういう…!?」
「違うと思うけど…」
2人と別れ、アサは自宅に帰る。
一人になると学校の再開が間近に迫っている実感が増し、気分が落ち込む。
(部活に行けば2人とも会えるし…)
夏休み明け、体育祭の出場種目を決める事になった。クラス毎にチームとなり、各競技に挑む事になるが、そのクラスに馴染めていないアサにとってはストレスの溜まるイベントでしかない。
(勉強してる方がマシ…)
アサは憂鬱になるが、リレー競技の出場者には選ばれなかった為、少し気持ちが上向く。昔、リレー競技のゴール目前で転倒した事があるのだ。
活動日に部活に顔を出すと、部長のハルカから通知があった。体育祭において、デビルハンター部も警備に参加するので、当日は競技中以外はこちらで行動するようにとの事。
(やった…!)
表情にこそ出さないが、アサは嬉しかった。馴染めないクラスにいるより、部活に顔を出している方がマシ。なによりユウコやフユと当日過ごす事ができる。
(デビルハンター部に入っててよかった…)
今回の体育祭警備も日当が支給されるらしい。閉会式終了まで活動して、日当6000円。例によって、悪魔出現時は避難誘導や悪魔との戦闘といった業務が発生し、報酬に危険手当が付与される。
「夏休みの球場警備より日当が安いと思った部員に残念な知らせだ。当日の部活動は全員参加。教職員方にも通知されているので、競技にだけ出場して部活はサボろうなどとは考えないでくれ」
部長の通達が済むと、部員達はそれぞれトレーニングを開始。
「当日はよろしく!」
「うん」
そして体育祭当日。
アサ達を含めたデビルハンター部員は競技に出ない間、校舎内や会場の巡回などをして過ごす。悪魔発見時は各チームに貸与されたトランシーバーを使い、体育祭運営スタッフに場所を知らせる。
「文化祭もこんな感じなのかな?」
「ああ〜、そうかも。見て回る時間あるかな…?」
文化祭、と聞いてアサは少し暗くなる。ユウコ達とクラスの出し物を見て回るのは楽しみだから、警備に時間がとられるかもしれないのは不安だ。しかし、1番の問題はそこではない。
(みんなで文化祭の準備とかやるよね…
また、クラスで一致団結とかそんなノリが求められたりするんだろうな…。
私に何か手伝わせるとは思えないけど、サボったらサボったで責められる気がする…)
フユやユウコなら、文化祭の準備や自クラスの出し物も楽しめるんだろうが、アサには出来そうにない。
アサの暗い気分を、ユウコのトランシーバーから流れてきた音声が払った。別の場所を巡回していたチームが悪魔と遭遇したらしい。
「美術室前に悪魔…」
「ああああア!なんでこっちにィっ!?」
「うっせぇよ!東山!!」