夏の入り・デビルハンターズ
中間テストが終わり、第四東高等学校は夏のシーズンに入った。近づいてくる夏休みの足音を聞きながら、アサ達はトレーニングに精を出す。
「夏休みどうする?」
「私はトレーニングしてるかな。夏休み中もトレーニングルームは開放されてるって聞いたし」
ランニングマシンの回転するベルト上を走りながら、アサ達は夏休みの予定を相談する。
夏休み中、デビルハンター部は活動こそしないが、トレーニングルームは開放されている為、訓練するのに不都合はない。
「フユちゃんは?」
「8月のお盆に帰省するよ〜、青森」
「青森!ならその前か後に、またどっか行きたいね!」
「海か」
「海か〜!」
「えぇ…海…?」
横で聞いていたアサはゾッとした。アサのイメージするサマーシーズンの海といえば、開放感で頭が緩んだ男女とか、家族連れでひしめき合っているビーチだ。近隣の店も、そんな顔ぶれが席を埋めるのだろう。
不特定多数の前に水着姿で出ていくのは抵抗がある。盗撮のリスクがあるし、ナンパされたら断るのが大変だ。
「山にしない…?」
「山もいいね!キャンプとか一度やってみたい!」
「山か〜。一回、水着見に行こうよ」
アサが躊躇いがちに山を行き先に進めると、フユが水着を話題に上げた。
「なっ、なんで水着!?」
「なんでって…山行くなら、川で遊びたいし」
「じゃあ、川の近くがいいかな」
ユウコは水着選びに乗り気のようで、アサも付き合う他なかった。それにどうせ、夏休みより先にプール開きがある。アサは内心ヤケクソになり始めていた。
(川で遊ぶなんて、田舎の子供くらいじゃないの?)
釣りやバーベキュー、川下りくらいは理解できるが、高校生が川に入って遊びたい物だろうか?疑問に思うアサだったが、口には出さないでおいた。
梅雨の時期のある日、部長のハルカが新入部員を集めた。
「例年のことなので上級生から聞いている者もいるだろうが、僕からも説明しておく」
ハルカの話というのは夏に行われる、全国高等学校野球選手権大会に関する事だ。
7月の頭から始まる地方大会、その東東京大会、西東京大会の際、球場警備員として活動してほしいとデビルハンター部に声が掛かったのだ。
期間は夏休みの始めから地方大会決勝当日の30日までの間で、都合のいい日。活動日の朝、指定の場所に向かい、そこから送迎のバスで球場に向かう。
「報酬は1人あたり日当3万、出場校の野球部全てが球場を出ていくまでが活動時間だ。悪魔が出現した場合は、避難誘導や悪魔の駆除を手伝ってもらうが、その日は危険手当がつく。
これは大会の主催者側から出された、我が校のデビルハンター部への依頼でありバイトとしては扱われない」
アサ達の通う第四東高等学校は校則でバイト禁止である。
「出動できる日にちをこの用紙に書いて、部室の僕の机にあるBOXに入れて提出してくれ。
予定の途中変更は2日前まで。前日、当日の変更は、事情があったとしても内申にペナルティが加わるものと思ってくれ…何か質問はあるかな?」
フユは挙手をして、チームのメンバー同士で離れる事はあるのかとハルカに尋ねた。
「記入用紙に組んでいるチームの名前を書く欄があり、そこに書かれている部員同士は同じ球場に割り振られる。
よって、チーム単位での参加が望ましい。出来る限り、仲間同士で意思の共有を図ってくれ」
フユがきっかけになったのか、質問は続いた。
「僕らだけで警備するんですか?」
「球場側が雇っている警備員、民間のデビルハンターがいる。指揮系統は違うが、悪魔出現時は彼らの指示に従って動いて欲しい」
質疑応答が終わると、上級生からアサ達に、活動可能日を記す用紙が配られる。
日当の受け取り方法は8月2日に希望する口座に振り込んでもらうか、同日以降に高校の生徒会室で直接手渡しの2種類。
「ねぇ、何日に行く!?」
「う〜ん…」
期間は1週間。全て入るのは厳しいが、1日も入らない選択肢は無い。2〜3日も入れば、8月2日にまとまったお金を受け取って、お盆前にフユと遊べそうだとアサは考える。
選択した活動日、アサ達が指定の場所に向かうと大勢のデビルハンター部員の姿があった。戦闘せずとも日当3万円。高校生にとっては魅惑的な報酬額だ。それぞれチームごとに分かれて、担当する球場へバスで向かう。
アサ達は3日入り、初日と二日目は平穏に終わった。最終日の午後、球場内を巡回していると、3塁側のチケット売り場付近で悪魔と遭遇。
巨大な右足の姿をした悪魔であり、指がパンプスやスニーカー、ローファーやサンダル、革靴になっている。
「インカム入ります!3塁側のチケット売り場付近に悪魔出現!」
悪魔を発見したユウコは、事前の指示通りに貸与されたインカムを操作して事態を周知する。フユとアサは悪魔の出方を警戒しつつ、デビルハンター到着を待つ。