士冴SS③
「俺にベッドで跨られたきゃ公式試合で10点は決めて来い。1人でな」
「ヒュ〜! かっこい〜!! その内ぜってぇ決めるからケツ洗って待っててね♡」
冴が笑みをお母さんのお腹の中に預けてきたような澄ました顔で宣うと、士道はツボに入ったのか機嫌が良さそうにまた笑った。足して割ると丁度いい割合だ。
親しげに肩なぞ組んで、身をよじりながら破顔する姿はここが歌舞伎町なら私服警察官の職質対象になり薬物検査まで漕ぎ着けられることだろう。
気安いを通り越した馴れ馴れしさだが、冴に声をかける度胸もなくチラチラと視線を向けてくるだけの気弱な犬に比べればまだ接しやすい。奴らはこちらから話しかけて欲しそうにしているくせに、本当にそうしてやれば緊張して吃るし赤面するしで会話が成り立たないから。
「……オイ、そろそろ離れろ。歩きづれぇ」
いつまでも肩を組みっぱなしの士道がいい加減鬱陶しくなり片手で払いのける。あんまりしつこいと投げ飛ばされるのを身をもって知っている士道はすぐに離れた。いつぞやのように芝生ならともかく、コンクリートやアスファルトはマズい。
「つれないね〜冴ちゃんってば。せっかくのデートなのにさ」
「俺にとっちゃハットトリック決めた男とデートなんざ珍しいもんじゃねぇんだよ。先月もバルセロナでホテルの予約制ブレックファーストからスタートして、劇場だのプールだのと散々っぱら連れ回された」
スペイン中の『高級』と頭に付くホテルやレストランはあらかた奢られた確信がある。デートスポット系も網羅した。
それにスペイン人は家族のクリスマスパーティーだとかにまで秒で恋人を呼ぼうとするから、一回のデートで冴の恋人になれたと思い上がるタイプのストライカーには家族まで紹介されたことがある。
なんなら友達の集まりにも恋人を呼ぶ。慣れない内は意味がわからなくて大変だった。懐かしい思い出だ。
「……だが、この俺にデートプランを考えさせるなんて馬鹿はお前が初めてだ。誇って良いぞ悪魔くん」
「マジ? 俺もう冴ちゃんのハジメテ奪っちゃった?」
「言い方がキショい。くたばれ」
湖面のような静けさを保った真顔で士道の背中に強めにチョップを入れるも、やはり彼の表情には笑顔が焼け付いていた。