塗りつぶして埋めつくして
私の頭が🤯した結果できたものです
🐉❄️→🕺🤴→ロゴ→パド→←🌙となっております
翠の瞳、ダイヤ型の星、三つ編みを混ぜた一つ結び。いっとう目立つ銀色のインダストリアルピアス。そんな派手な見た目をしている割に、意外にも所作は丁寧で控えめ。
ずず、と氷が多くなってきた飲み物が音を立てた。
「何か意外だよな。その見た目で色々落ち着いてんの」
「ああコレ?仕草は父さんに似せてるダケ。……オレの好きなひとさァ、父さんが好きでさ」
失恋したかもしれない。目の前の後輩が、知らない目をしている。
「へー。真似とか好かないかと思ってた」
「イヤ、完全なコピーはする気ねェよ?
父さんじゃなくてオレに惚れてほしーワケだし」
───────訂正、普通に失恋した。
「父さんには恋人居たんだけどさァ、母さんと割と仲良くて。イチバン上の姉さんは父さんの同期ダシ」
「へえ」
曖昧に返した。無くもない話というのもそうだが、今は考える余裕が無い。
「ハナシ聞きたいって顔してんね、センパイ」
翠の瞳が見上げてくる。
俺は断らない。断る道がない。最初からそれは許されていない。
「そうだな」
「……マァいいけど」
その目は、全部分かっているくせに。
*
自分の心を疑った。いくら似ているからと言っても、彼とパドは違うのに。
それでも離れられなかった。
パドが唯一残したものから離れるなんて、それこそ自分の脚を捥いでしまうのと同じくらい。
父親の代わりになれたら、隣にいることは許されるかと思った。彼を通してパドを見ていること、想っていること、それは到底赦されなくても。
いつの日、だったか。パドの────彼の家で、2人きりになった時があった。それ自体は珍しくない。けれどよく来る郵便も、おそらくパドが生前上手く対応出来ていなかったであろう宗教勧誘も、お節介なところがある近所のひとも来なかった。
「オレ、そんなに父さんに似てます?」
「え」
開いた口が塞がらなかった。なんで、どうしても言えないまま。
1歩近づかれた。それだけでひどく動揺してしまう。
キラリと証明を反射してインダストリアルピアスが光る。
パドと、顔の造りはよく似ている。目の色はちがうけれど、長い睫毛だとか、ハッキリした下睫毛もそうだ。すっと通った鼻も、首筋、少し分かりやすい血管も。
「もっと近くで見る?」
ロゴタイプの、星のまたたく黄色の瞳が見開かれて、閉じられて、また開いて、苦しそうに歪んで、それでもごまかせない熱を持って─────
*
一目惚れだった。父さんを見つめるソノ目が、家族愛なんてモノの範疇に収まりきらないことくらい分かってた。
頭が良く産まれて良かったなと思う。
ロゴさんは父さんの代わりになろうとしてる。JBCが終わった後、オレの頭をヤサシク撫でて。
オレは父さんに自分を近づける。ロゴさんの目をこっちに向けるタメに。
オレ達は二人とも、父さんの居た場所になろうとしてる。
美しくて悲しい話? 違うね、どうしようもない愚かなハナシだ。
コピーじゃなきゃ意味がナイって言うのはソノまんま。父さんのハチミツみたいな目の色とは違う目の色、母さんから貰ったものだから好き。
オレの好きな物を、あのひとにも好きになって貰いたい、それだけ、では無いけど。
……変なトコで鈍いのは同じだワ。郵便物も届かない日に都合良く招いてたとか、その上家に長くいさせる口実がたまたまあるとか、そんなコトなんて、偶然でできるワケねーのに。
イヤー頑張ったわオレ。回せるとこに回せるだけ手ェ回したカイ有りってトコかな。アノ日宗教勧誘でも来てたらうっかりするトコだったかも。
まあだからオレは、あの時
*
「もういい」
「ンぐ」
割と雑にストローが口に当てられる。見やった先、芦毛は不機嫌そうだった。
「……練習行ってくるわ」
「ハーイ、頑張って」
「それ、残りやるよ」
ほとんど残ってないのに?とは口に出さなかった。それくらいは受け入れてやるべきだろうと思うから。
知っている。
その目は自分があのひとに向けているもの、あのひとが自分と父親に向けているもの、父親が恋人に向けているもの、向けられているもの、それと同じである事は。
ただ、自分の気持ちに嘘をつく理由も無いだろうと、そう思っているから。だから電話をかける。ちゃんと応答があって。
「もしもし、ロゴさん」
そう、声は、なるべく似せて。
「いーえ、ベツに。問題ナイですよ」
それでも、自分を完全には消さずに。
「ツギの休み、どこ行きましょうか」
父親を自分に塗り替えていく。