執念の実
「ふひゅ…ひゅ…」
山海経高級中学校、錬丹術研究会。
俗に「サラダ事変」と呼ばれる出来事が起こるまでは、薬子サヤ率いる不老不死の霊薬作成の為、数多くの霊薬を作成していた。
ただ今は、その部室ごと「サラダ」に占拠されてはいるが。
「これを…ひゅう…ひゅう…」
その部室の中。「サラダ」にやられ、腹を大きく膨らませ倒れ込む人々。淫乱臭のする緑色の地獄絵図の中。一際丸く、なおまだ抵抗を続ける1人の生徒が居た。
錬研に所属しているとある部員であった。
平たく言って仕舞えばモブの1人。地味なヘイローにオレンジ色の髪。
しかし、彼女は根性があり、プライドが高かった。故にこの状況を是としなかった。
友人も、帰る家も、おそらく部長でさえもこの「サラダ」に侵略され尽くして尚、快楽に溺れ、ただ「出産」しているだけという状況を是としなかった。
大きく腹を膨らませながらも、いつものように机に向き合い、霊薬を作っていく。
これさえ出来上がれば窮地は脱する、と希望を持つ。
材料は消化を助けるようなものから、1歩間違えれば毒にもなるようなものまで多種多様。
「ひゅう…これさえ、完成させれば…!」
膨れた腹が肺を圧迫し、歪んだ呼吸の中でも慣れた手つきですり鉢の中の物体をすり潰す。
「ん…また…!」
「サラダ」もこの状況をただでは済まさない。体内に侵入するなり、増殖するなり、「出産」するなり。まだ立ち上がる気力か、それとも単純にその大きすぎる腹のせいか。彼女は他の犠牲者より、「サラダ」に狙われていた。
ムクムクと膨らむ。ボールのようなその腹は、臨月を超えている。
「ひゅ…さ、流石にげんか…」
流石に気力にも限界が来たか、それとも押し寄せる快楽に精神が白旗を上げかけたか。ふと後ろによろける。バランスを崩して床に転がってしまっては、2度と脱出は不可能だろう。「サラダ」を詰め込まれたその重い腹を抱えながらも後ろの机に背中を預けてなんとか立て直そうとする。
そして彼女の目に映ったのは、「超強力吸収剤・改」とラベルの貼られた液体であった。
思い返すと、ミレニアムに輸出した物だっか。胃腸の働きを助けるとかなんとかで、食事の手間を省きたいとかそんな感じで。そんで欠点とかも見つかって、それで改良してる途中で…
快楽などと格闘し、疲労困憊に陥った彼女の脳味噌が思考する。
このままだと、完成する前に身が持たない。アレでなんとか時間を稼げるのではないか。
それが彼女の出したファイナルアンサーであった。姿勢を崩し、手繰り寄せ、摂取する。
苦い味だが、四の五の言ってられない。調合に戻…?
彼女の全身に強烈な違和感が走る。
何かがおかしい。下を向くと、私の、乳が、いや、手足が、いや、身体が。風船みたいにーーー
「ーーーー〜!?」
認識した。認識してしまった。急激に全身が性感帯になっていくような。
膨れる。膨れていく。彼女の身体が、ムクムクと、ぎゅむぎゅむと音を立て膨れていく。
「ーーっあっ!イっーーー」
脳味噌がキャパオーバーするような快楽。意識がホワイトアウトして、まるでコマ送りかのように途切れ途切れになる。
バランスボール、いや大玉か、もはやアドバルーンか。加速度的に膨れ上がる身体。
腕や脚は膨れ、四肢の動きを阻害する。
乳や尻は、まるで空気を入れるかのように膨れ上がる。
「ーえ、あ、ひゃ、し、死ぬっ」
大玉のスイカのような乳から、母乳が噴出する。先程まで心血を注ぎ完成させようとしていた霊薬諸共机を汚していく。
彼女はこのまま、哀れな犠牲者の1人として快楽に身を委ねるしかないのだろう。
山海経高級中学校、錬丹術研究会。
その部室の中。「サラダ」にやられ、腹を大きく膨らませ倒れ込む人々。淫乱臭のする緑色の地獄絵図の中。一際丸く、天井にまで届かんと異様に膨れ上がる、まるで果実のような物体が存在する。
この騒動が収束するのは明日か、明後日か、それとも永遠に来ないのか。
その日が来るまで、その物体…いや、彼女は他の犠牲者と同じく「サラダ」に身を委ねるしかないのだろう。