地下の決闘:1
崩れ往く地下神殿、倒れる柱や落ちる天井。その景色を覆う様に立ち上る白煙。
耳障りな轟音を遠くに聞きながらクロコダイルは喋りだす。
「分からねえな。」
額から滲んだ血が皺の寄った眉間へと流れていく。
口に咥えた葉巻から立ち上る白煙から視線を正面の青年へと落とす。
「何故あんな甘ったれた小娘共に力を貸す?」
それは、この国の崩壊を止めようとしているビビと対峙する青年が船長と呼ぶ少女の事。
クロコダイルは心底理解ができないといった表情で訊く。
「…あぁ、そうさ。あいつは…あいつらは甘ったれだ。」
その問いかけに青年、ルフィは荒れた息を整えながら答える。
人は死ぬ、その事を初めは受け止めきれずに――けれども、仲間として己と自分達の命を懸けた少女、ビビ。
人と人が殺し合う戦争、それを目の当たりにして――それでも、己の歌声で"新時代"を作ると謳う少女、ウタ。
「こんな時代に、甘ったるい幻想を…信念を貫こうとしている奴らだ。」
そう語るルフィの言葉だけを聞けば彼女達を揶揄するものだろう。
けれども、声に揶揄など一切宿らず、ただただ甘ったれと言った少女達を想い語るその横顔には笑みがあった。
「…俺は、その甘さに賭けて―この航海を続けてきた。あいつらが、新時代を作るって。」
ルフィのその言葉を聞いてクロコダイルが笑いだす。
しかし次の瞬間、咥えていた葉巻を手に持ち握りつぶす。
「クハハハハハ…堕ちたもんだな――"英雄"。心が折れて一度は逃げたお前が、夢見る聖者にでもなったつもりか!!」
クロコダイルがルフィに躍りかかりフックを突き出す。ルフィはそれを横に飛びのきかわす。
フックが突き刺さった岩は砕かれず、まるで氷が融ける様に煙を上げながら溶解していく。
強力な毒、あんなものをもし身体に打ち込まれでもすれば、命を落としかねない。
しかしルフィは何も口にせず、ただフックを一瞥した。
「…一端の海賊ではあるようだな…。海賊の決闘は常に生き残りを賭けた戦いだ。」
そんなルフィの様子を見て、クロコダイルは静かに告げる。
海軍を辞め、海賊として王下七武海と称される頂きにまで迫ってきたルフィをここで初めて認める様に。
「そんなん知ってるさ。卑怯なんて言うつもりもねぇ――」
ルフィはクロコダイルの言葉に応え、その瞼を閉ざしながら拳を前にして構えを取る。
「―クロコダイル、これが最後だ。」
見開かれた目、それと同時に放たれる覇王色の覇気。
「あぁ…決着をつけようじゃねェか!!モンキー・D・ルフィ!!」
しかし、負けじとクロコダイルも覇王色の覇気を放つ。
2人から放たれる覇王色の覇気がぶつかり合い発生した黒い稲光が崩れ落ちてくる岩と砂を吹き飛ばす。
崩壊する地下神殿、ここで海賊と海賊の最後の決闘が始まる。