在りし日の追憶 中編
ウタに手を引かれてお風呂場までやってきたルフィ。
お風呂はあまり気乗りはしないがここまで来たら仕方ないとルフィは腹を括る。
遠慮なくTシャツを脱ぐルフィを斜め下から見上げるウタ。
「ルフィの体ってすごいムキムキなんだね。」
「あぁ。昔からずっと鍛えてきたからな。」
「背中もすごい大きいね。これは嫁として流しがいがありそう!」
「だから嫁にした覚えはねぇ。」
そう言うと、ぷっと頬を膨らませて不機嫌になるウタ。
「っていうか早くお前も脱げよ。風呂冷めちまうぞ。」
そう言われるとカァーと顔を赤くするウタ。
「もしかして裸見られる恥ずかしいのか?」
「ち、違うもん!私はルフィのお嫁さんなんだからべ、別に…。」
そう言ってそそくさと衣服を脱ぎ始めるウタ。
無い胸を張って顔を赤くしながら「どうだ!」ともするような態度に、羞恥心をちゃんと持ってて安心するルフィだった。
「うふふ!じゃあ早速お背中流してあげますね、旦那様♡」
「旦那じゃねぇけどな、じゃあ任せる。」
ボディタオルに石鹸をつけて一生懸命背中を流すルフィ。まだか細い腕で精一杯擦る感覚は思ったよりも心地良くて素直に楽しんでしまう。
「どうルフィ?気持ちよかった?」
「結構良かった。ありがとな!」
「えへへ♡ルフィに褒められた。これからもルフィの背中は私が流してあげるね♡」
「おれがウタを子ども扱いしなくなったら一緒に入らないぞ。」
「私今子ども扱いされてるー!?でもだからお風呂入れてるし…ウーン…。」
などと、至極どうでも良いことを真剣に悩むウタに思わず吹き出してしまった。
「ルフィのお背中流してあげたからじゃあ今度はルフィが私の頭と体洗ってー!」
「まぁ別にそれくらいなら良いけどよ。」
洗面器を椅子代わりにしてルフィの前にちょこんと座るウタ。シャンプーを手に取り大きな手の中で広げウタの長く綺麗な髪に溶かすように泡立てる。
「ルフィ〜もうちょっと左。」
ウタの要望通り髪の毛を洗うルフィ。左右で紅白に分かれている髪色、艶もあり子供とは思えないほど美しい髪の毛に息を呑む。
「ウタの髪の毛ってすごい綺麗だな。」
「えへへ、綺麗でしょ?」
「あぁすげぇ綺麗だ。」
「…そんなに素直に褒められると思わなかった…。」
シャワーをかけてシャンプーを洗い流す。続いてボディタオルにボディソープをかけようとしたら
「私そのタオルあんまり好きじゃない。なんか痛いし。ルフィの手で洗ってよ!」
いくら子ども相手とはいえ異性の子を素手で洗うのは気が引ける。
「おいウタ、流石にそれは…。」
「今日だけでいいから…ダメ…?」
何かを訴えかけるようなか細い声で言うウタ。
いつも元気溌溂な娘(子)からは想像もできず、思わず答えてしまう。
「…今日だけだからな…。」
ボディソープを素手に取り、先ほどと同様でに伸ばしていく。程よく泡だてウタの背中から柔らかい手つきで洗う。背中からまだそこまで伸びてない手脚、僅かな膨らみのない胸部、毛も生えてないツルペタな陰部。未成熟だが、将来性に溢れたウタの体を満遍なく洗う。
シャワーをかけて石鹸を落とすと。
「ルフィが優しく洗ってくれたからとても気持ちよかったよ、ありがとう。」
と、純粋な笑みで言われた。
「じゃあ湯船に浸かるか!」
あまり大きくはない湯船に先にルフィが浸かり、ルフィの太腿の上を背中向きで座り、脱力するウタが湯船に沈まないようにルフィが後ろから抱き締める形で入る。
二人とも能力者であるため、通常よりも八割程度の量で済ませてルフィは半身浴、ウタはしっかり肩まで浸かるようにした。
「うへーちからぬけるー。でもあったかいしルフィに抱きしめてもらってるからきもちいいー。」
「お互いに難儀だなぁ…。」
湯船に浸かる間、ウタはいつもみたいに「嫁としてとうぜん!」には騒がず、静かだった。
しばらく浸かってると静かに言った。
「ルフィって私のこと好きじゃない?」
「どうしたんだいきなりよ。」
「だって私が何度もルフィのお嫁さんになるって言っても断るし、私なんてまだ子どもだし…。ルフィは私と結婚したくないのかなって…。もしかしたらルフィにイヤイヤ付き合ってもらってるだけで本当は私のこと嫌いなのかなって…。」
元気も無ければ、覇気もない。掠れた涙声で聞くウタ。
「なぁウタ、おれは別にウタのこと嫌いになったことなんかねぇし、むしろウタの歌ってるところとかいつも元気いっぱいなところとかおれは大好きだぞ。」
「でも…!」
「ウタはまだ子どもだけどこれから大人になるし、それまでにたくさんの出会いだってあるんだ。それまでに同い年ぐらいの良い男なんていっぱいいるしよ、おれだけを見てほしい訳じゃねぇんだ。」
子どもで未発達の身体は時期に大きくなり、美しい女性になるだろう。四肢は健やかに伸び、あの日惚れ込んでしまった歌声はさらなる勇気と力を与えられるようになる。
「私はルフィのこと好きだよ!初めて会った時から怖いおじさんたちに助けてもらってそれからずっと!」
「わかったわかった。じゃあウタが大人になって新時代を作り、"夢の果て"を叶えた時にまだおれのことが好きだったらおれがウタを嫁にもらってやるよ。」
パッと声に力が戻る。顔は見えないが笑顔になっていることわかる。
「ほんと!?じゃあ私絶対新時代を作ってルフィのお嫁さんになる!ルフィも手伝ってね!」
いつか大人になればひと回り近くも歳の離れたルフィのことなんて忘れてもっと素敵な男性だって現れるだろう。だからいつか訪れるその日まで、ウタが海賊王と呼ばれるその日まで、ウタの作る新時代を見るまではおれがウタ立派な大人にしてやろう。
身体の上で小さく跳ねる愛らしいウタをギュッと力強く抱き締めるのだった。