國雪ピロートーク

國雪ピロートーク


(※いきなり始まりいきなり終わる)

(※これは雪宮の嘘がバレなかったルートの行為後)

(※雪宮に秘めたるセックスの才能と演技力がありすぎて見事に騙しきったと思って欲しい)


 スピーカーの声の主にOKが出されるまで雪宮のナカで何度も精を放ったことへの罪悪感により、性行為が終わってからの國神はずっと目を閉じていた。

 目を開いて涙なんてこぼそうものなら、いくらなんでも雪宮に失礼すぎる。

 ただでさえブルーロックの面々に枕営業の経験があるなんて知られて、あまつさえ自分のようなセックスのイロハもろくに分からない相手とスムーズにヤるために騎乗位で雄を咥え込んで喘ぐ姿を晒すハメになったのだ。

 この上穢した側の分際で被害者みたいに泣きじゃくったら、國神は雪宮に申し訳なさすぎて、自分で自分が許せない。

 ……雪宮はきっと、あの底の読めない穏やかな微笑みで許してくれるのだろうが。


「國神くん、お疲れ様。ごめんね。俺“お偉いさん”には褒められたから上手いほうだと思い込んでたけど、もしかしてヘタクソだった?」

「え、あ、いやいや! 全然! んなワケねぇだろ!?」


 掛けられた言葉に驚き、思わず目を開けてしまった。幸い瞼を下ろしている間に引いたのか涙は落ちなかったが、雪宮の懸念を否定する傍ら、彼の過去を思うと苦い気持ちになる。

 お偉いさん……に、褒められた。上手だと。十中八九そういう行為が。どんなシチュエーションでそんな台詞を掛けられて、それに雪宮はどう返したのだろう。事務所に強制されたと語った以上は望んで股を開いた訳ではあるまい。先程まで國神の上で喘いでいたのと同じで、きっと断ることのできない状況の、仕方のないセックスだったはず。


「良かった。じゃあ気持ち良かった?」

「うっ……まあ、そうだな……うん……」


 首元にじっとりと粘つくような冷や汗。喉はからからに渇いている。視線は泳ぎまくった。

 正直、それはもう気持ち良かった。流石は経験者。本当に上手だった。國神は終始雪宮の尻に陰茎を挿入したまま好きにされ、喘がされ、何度も射精した。力の入れ具合でキツい締め付けとユルい締め付けをコントロールして物理的な快楽を与えつつ、表情や嬌声も國神が萎えずに興奮できるよう意図的に艶やかに振る舞ってくれていた。

 自分はあまりエロ本やアダルトビデオを見るタイプではなかったが、恐らく淫魔がテーマの作品を愛好するような性癖の持ち主ならしばらくは夢に見るくらいの破壊力だったと断言できる。AV女優が撮影スタッフの存在に気を散らさずプロ意識でもって痴態を見せつけられるように、雪宮も周囲からの視線などものともせず文字通りの性的魅力(セックス・アピール)を振り撒いた。

 國神の勘違いでなければ、次にヤることになる奴らが少しでもヤりやすいようにと体を張ってエロいムードを作り上げる心遣いまで織り込まれていた気がする。まさしく経験豊富なお兄さん。百戦錬磨。だからこそ、ここでハキハキと「ああ、気持ち良かったぜ!!」と返すのは躊躇われる。卓越したテクニックを得るに至るまでに、彼の尊厳と純潔を蹂躙してきた芸能界の闇の数々を思えば。

 だってこれだけ男を気持ち良くさせるのが上手いってことは、それだけ男に気持ち悪い目に遭わされてきたってことだ。


「ハッキリしないなぁ。ちゃんと目を見て言って?」


 煮え切らない返事でまごついていると、雪宮の白い指先が國神の両頬を包み込み、強制的に目線を合わされる。

 情事の名残に潤んだ橙色の双眸。目尻がオルガズム由来の涙でやや赤らみ、扇情的かつしどけない。

 目病み女に風邪ひき男──昔からある常套句に、いやいや目を病んだ男だって色っぽいぞと教えてやりたくなるようなアンニュイな婀娜めきを感じる。

 雪宮の表情は決して不機嫌ではない。むしろこちらを揶揄うような、余裕ありげで大人びた稚気で構成されている。俗な言い方をすると年下の童貞を軽く弄ぶエッチなお姉さんの微笑みだ。


「あの、本当に大丈夫……めちゃくちゃ大丈夫だったから……!」


 何がどう大丈夫だったのかはこの際置いておく。嘘は吐けないけど気持ち良かったとも白状しがたく、國神は雪宮と目を合わせたまま顔を真っ赤にして答えた。

 こんなやり取りも天蓋の無いベッドでは周囲から丸見えで、誰かの「あいつ自分が闇堕ちしてること忘れてないか?」なんて囁きが聞こえてくる。

 うるせぇ闇堕ちしたくらいじゃセックスに耐性なんてつかないんだよ。闇堕ちはそこまで万能じゃねぇんだぞ。

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