因果応報とは言わないが

因果応報とは言わないが


脱獄正史ミンゴによるポーラータング襲来時の話

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Part28

>>41「正史ミンゴってさぁ脱獄するぞってなって無事に成功してすぐに正史ローの所に行ったら(中略)全力で攻撃してくる正史ローがいると思うんだけど、この場合正史ミンゴだと分かっても正史ローって攻撃止めないよね」

>>44「初手クルー人質とかやって目も当てられないことになるかもしれないぞ」

>>49「シャチが(中略)失敗した笑顔でダラダラ泣きながら舌噛もうとした」(自レス)

>>50「自死を図るシャチに多分焦ったろうなぁ」

より





 義理堅い集団ではある。

 なにせスネに傷持つ者ばかり。仲間ぐらいは大事にしなきゃと、肩組み酒飲み馬鹿笑い。トップたるローを絶対に据え、その他は同列横並び、最下位ドベはおれわたし。

 だから。

 相手が能力者だろうと元国王だろうと元七武海だろうと、そんなことはハートの海賊団の何の足かせにもならず。

 むしろ、仲間という人質は、彼らを絶対零度のまま怒り狂わせるという稀有な事態を作り出していた。


 ポーラータング号の甲板で、男二人が対峙する。

 片や“天夜叉”。片や“死の外科医”。二人が互いに差し向ける能力は、相手に届く前に吹き飛ばされて。

 だからドフラミンゴはこの場の全員を縛りつけることができず、ローは彼の手中の仲間を取り返すことができず、怒髪天をついていた。

「……もう一度だけ言う。そいつを離して帰れ」

 ローが喋る度に空気が揺れる。ドフラミンゴは珍しく笑みを刷かず、先ほどから「話を聞け」の繰り返し。

 鬼哭の切っ先が糸に弾かれて火花を散らす。ローが吐き捨てる。

「……どこまで行っても腐ってやがる。所詮、お前はどこでも同じか」

 糸が天を覆うこと適わずほどける。ドフラミンゴが眉を寄せる。

「だから何の話だ。再三言ってるだろう……おれァただ、最近の世経についてお前と語り合いたいだけだってのに」

 口頭の鍔迫り合いは、ドフラミンゴの手元からの水音で中断された。

「ろー、さ」

 ドフラミンゴの腕を首に回された音源──涙どころか鼻水まで垂らしたシャチは気が気でない。

 ドフラミンゴの襲来は予想外で、誰にとっても青天の霹靂で。あちらのローをローがシャンブルズで隠したのは、ドフラミンゴがシャチを能力で縛り上げた後のことだった。

 だって、シャチが能力を行使されて初めて、招かれざる来襲者が「彼」だと判明したのだから。

 あのローを避難させられてよかった。このドフラミンゴはどうやらあちらのその人ではないらしいけれども、因縁深い相手なのは変わらない。

 今シャチに涙を流させているのは、全員の足かせになっている不甲斐なさだ。

「おれ、ズビ、も、おれごと」

「黙れ」

 ローの左手が帽子のつばに触れた。シャチは十三年間叩き込まれた反射で、潤む視界を右に向けた。

 瞬間。

 海面から打ち上がったペンギン、その振り下ろした槍先はファーコートをかすめすらせず。

 ベポの足はシャチの帽子のみを弾き飛ばし、ジャンバールの拳は空を切り。

 三者三様の舌打ちと裂帛の声を出し、すぐにローの元に飛びすさって再びの臨戦態勢。

 こうまでしても届かない。

「聞かん坊が……」

 苛立ったようなため息を落としたドフラミンゴから、王の気迫が放たれた。

「ご、め」

 ドフラミンゴが覇王持ちだとはローしか知らなかったが、この程度で腰を抜かす軟弱者はこの船にいない。

 それは、たった今怪鳥の腕の中に囚われているシャチすら例外ではなく。

 気絶できる「恥知らず」なら、そもそも。

「お、れ」

 ドフラミンゴが興味深げに見下ろしてきたのにも気付かないまま。

「みんな、と、もっと、一緒にいたかった」

 シャチが口角を上げた。失血死寸前のシバリングじみた震えを伴って。

 ローとベポと他の全員が目を見開いて、ジャンバールは既視感に凍りつく。

「ごめん、……いままで、ありがと」

 それでも、真意に一番早く気付いたのは、ずっとずっと一緒だったペンギンで。

 下手くそな笑顔を見抜いて小突いてやるのは、いつだってペンギンの役目だったのに。

「バ、」

 バカなこと言ってんじゃねえとペンギンが伸ばした手は、爆弾を振り上げたあの時と同様に、届かず、


 糸がシャチの舌と顎を絡め取った。


「……え?」

 噛み合わされる歯が不自然に止まったことに気付いたペンギンは呆けた声を上げ、しかし突進の勢いは止まらず、いかにも単純なドフラミンゴの足払いで盛大に転んだ。

 沈黙。ローですら黙り込んでいる。シャチに至っては、唐突に泣き止んだ赤ん坊のように目をパチパチさせていた。

「……そう急(せ)くな。これだから若ェのは血の気が多くていけねえ」

 そう言ったドフラミンゴの背に浮いた汗は、誰にも気付かれていなかった。

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