因果はめぐるゴム車・前編
ー聖地マリージョア
その上に聳え立つパンゲア城のある一室にてー
「全く…ムカつくったらありゃしないえ〜!!」
独特の髪型、醜く肥え肉に埋もれた目鼻、その鼻から鼻水を垂らすおおよそ知性という文字からかけ離れた容姿と性格の持ち主、チャルロス聖は憎々しげにぼやいた。
お気に入りの歌姫を妻にしようとしたら下々民に止めるどころか殴られ、現在も逃げられている。
しかもつい先日には革命軍と組み、無敵奴隷を奪いに来た。その時チャルロスも(出しゃばり)捕まえようとしたが逃し、更に殴られてしまった。
それらの事も相まって彼の機嫌は一向に治る様子がない。そもそもの発端は彼自身であり、身から出た錆でしかないのだが彼にはその発想は微塵も無かった。なぜならわちきは天竜人だから。
「なぜわちしが謹慎しなくてはならんえ!?わちしは偉いのに…大体アイツらのせいで…」
革命軍との戦闘で出しゃばり、結果的に無敵奴隷を取られてしまったという事で彼はパンゲア城内で謹慎処分となっていた。それのせいで不満も悪口もたらたらである。
もう何回目か分からない罵詈雑言を口にしたそんな時、ある者が彼の視界を横切った。
「…ん?あれは五老星の連中だえ。
…あんなに集まって何処にいくえ?」
パンゲア城は世界会議にも使用されているものの五老星以外はあまり長居してはいけないというルールが存在する。そしてパンゲア城には何か大きな"秘密"が存在している、と以前聞いた話をチャルロスは思い出していた。
「気になるえ…そもそも奴ら普段は何してるえ?ちょっと探検するえ!おっと、お菓子に加えてお父上様から連絡が来た時の為に電伝虫を…」
勇気かはたまた蛮勇か、チャルロスは彼らに気付かれないように尾行する事にした。普通の天竜人であればまずしない行為であるが彼の幼児性と好奇心はそれを後押ししてしまったのだ。
ーレッドラインの近くのある海域ー
神が住まう地である大陸のレッドライン、その下の下のある海域に一艘の船が浮かんでいた。
その船には…
「今日も異常なし…と!!」
「確かに返ってこっちの方が安全だったね。上からは見えない訳だし…。」
「トーダイ下暮らしってヤツだな!!」
「それを言うなら灯台下暗し、でしょ?」
現在世間をお騒がせ中の"逃亡海兵"、ルフィとウタが乗っていた。彼らは灯台ーレッドラインの下の海域で息を潜めていたのだ。先日の革命軍との共同作戦で世間が騒ついているというのもあり、敢えて近くにいた方が身を隠せるだろうという父の助言に沿っての事であった。
長年革命軍のリーダーとして身を潜めていた確かな経験からの助言は正しく適切なものであり、ルフィとウタは束の間であるが安息の時を過ごしていた。
「…こんな生活が続けばいいんだけどなァ」
「っつ…ごめんねルフィ、私のせいで…わぷっ」
何気なく漏らしたルフィの言葉にウタは心が張り裂けそうになっていた。そう、全ては自分のせいでルフィまで逃亡生活を余儀なくされているのだから、そんな思いで自罰的に謳いだそうとした言葉は彼、ルフィの唇によって塞がれた。
「そんな事言うのはこの口か?そんな意味で言ったんじゃねえよ。」
「おれは"ウタが一緒にいて、安心できる"生活がいいんだ。ウタを見捨てておれだけが安心できる生活なんかいらねぇ!!」
「ウタを連れ去ろうとするヤツは神だろうが仏だろうがぶっ飛ばしてやる!!…だから、あの日あいつを殴ったんだよ」
「ル、ルフィ…」
ーああ、彼には敵わない。世界で一番愛しい人ー
まるで太陽の様に眩しい言葉と笑顔で照らされたウタは自分を恥じると共により一層彼に惹かれていく。そうして彼の言葉に唇で応える…
ー正にその時だった
プポッホーホホホ〜!!プポッホーホホホ〜!!
甘い空気をつん裂く泣き声が響いたのはー