因果はめぐるゴム車・中編
ルフィとウタの間に流れる空気を壊したのは電伝虫の声であった。しかし、それは平常時のものでは無く、誰かが助けを求める緊急信号であった。信憑性は50%以下という危険なものであったが白電伝虫の存在や、何よりルフィもウタも"助け"を放っておける人間では無かったのであった。
「もしもし!?おれはルフィ!!」
「ハア…ハア…だ、誰かそこにいるのかえ…?」
独特の語尾と声でルフィは瞬時に声の主を理解した。愛する人の自由を奪おうとした不倶戴天の存在であり、ルフィ達が逃亡生活を送る羽目になった元凶とも言える人物。
「お前は…チャルロス!!」
「っつつ!?」
ルフィは怒気を込め、ウタは怯え、その声に反応する。こんなムカつくヤツの電話なんで直ぐに切ろうとルフィは考えていた。
しかし、どうにも様子がおかしい。なぜなら今の声色は以前聞いた侮蔑や不快感とはかけ離れた弱々しいものであったからだ。それに加え、生き物の感情を読み取る見聞色で、ルフィは電伝虫越しに酷く衰弱している事を感じ取れた。
「その声…おばえ麦わらの下々民かえ…?丁度いい…わちきを助けるえ…今ならわちきに働いた無礼を帳消しにしてやる…だ、だから早く助けにくるえ…」
「お、おい!お前はどこに居るんだよ!!そんで何が合ったんだよ!?」
「ハア、ハア……パンゲア城の…」
そう答えようとした刹那
ドゴオォン!
大きな爆発音が電伝虫越しにルフィ達の元に飛び込んできた。そして電伝虫から遠ざかってしまったのだろう、途切れ途切れで声が聞こえてきた。
「五老星…わ、わちきが何をしたと…」
五老星!!
その名前にルフィもウタも息を顰める。世界最高権力者であり世界の頂点ともされる人物だ。盤面から察するに"消そう"としてるのだろう。
しかし、二人の頭にある疑問が浮かぶ。それは何故チャルロスを態々消そうとしてるのか?というものであった。
確かに自分達は親の影響力等の点からの広告としては申し分無く、それを逃したと言う点からチャルロスに怒りを向けるのは十分過ぎる理由だ。しかし、チャルロスもまた天竜人であり、"消す"という選択はあまりにも頭に血が昇り過ぎではないか?そう問答を続けていると電伝虫から答えが聞こえてきた。
「ひ、秘密を知りすぎ…地下の帽子の事…あのデカい麦わら帽子が一体何…実の確保…あんなゴムになる能力に…ゴ、ゴムじゃない?…」
「ル 、ルフィ!ゴムじゃないって一体…」
「静かに!おれ達がいると知られたらマズイ!」
ルフィはウタに声を顰めるように言ったものの彼もまた頭の中は疑問符で一杯であった。
パンゲア城にデカい麦わら帽子?おれの実はゴムじゃない?シャンクスも麦わら帽子を被ってたし…そうあれこれ思考を続けていると更に衝撃的な問いかけが飛び込んできた。
「お、おい!!一体誰だえ!?」
本来であれば死に体の状態で大声なんて出せるものではない。しかし、チャルロスは腐っても天竜人由来のズバ抜けているタフさ、そして歳不相応の幼児性の持ち主である。それ故につい大声で疑問を投げかけてしまったのだ。
「"あの玉座"に座っているやつは!?」
「「!!!?」」
ーあの玉座ー
ルフィとウタの経験から座って驚かれる玉座なんて物は一つしかない。誰も座らない事が平和の証とされてる…
"虚の玉座"
そして"誰か"がそこに"座って"五老星、チャルロスを見下ろしているという事は…!!
そして次の瞬間
「ヴォゲァアア!!!!」
一際大きな悲鳴が聞こえ、電伝虫は何も言わなくなった。"彼"と運命を共にしたのだろう。
その次の日、世界経済新聞の号外は人々を驚かせ、同時に歓喜させた。
ーチャルロス聖、事故死!!ー