「回帰、それは時に残酷であり」

「回帰、それは時に残酷であり」


目の前には、倒れ伏した幼馴染。水銀で苦しんで死んだ、私が殺した、かつての幼馴染。


(嗚呼、嗚呼──これが、自由なんだ。)


日常が嫌いだった。自分を偽って、普通の人になって生きる日々は、灰色の砂漠を歩き続けるように、苦しく、無味乾燥で、希望もなくて。

それを、この手で壊せた気がした。小さな頃から隣にいた彼女。私の「日常」と共にあった彼女。それを殺した事で、私は望んだ非日常へ歩き出せた気がして、心の底から歓喜した。


魔法少女になって、街を放浪する日々はとても楽しかった。退屈で変わらない家にも、「日常」の原点だった自室にも縛られなくて良い。毎日が非日常で、世界が輝いて見えた。

でも、楽しさの裏にはずっと、恐れがあった。この毎日も、いつかは終わってしまうんじゃないか、またあの苦しい「日常」に戻ってしまうのではないかという恐怖。

だから私は、戦う事よりも魔法少女としての使命を優先した。他の魔法少女を全員殺して、願いを叶える。そうして、ずっとこの「非日常」が続く世界が欲しかった。

だから、目についた魔法少女を片っ端から殺した。


その末にあいつと出会って。戦って、打ち合って、負けて、私は死んで。


そして目が覚めたら、また、私は「私の部屋(にちじょう)」の中に戻されて──



「────ッッッ!!!!!!!」

ベッドから飛び起きる。目覚めた場所は、自室。

湧き上がる不安、恐怖、絶望。パニックになって、頭を振る。涙が止まらない。


(なんで、戻って、わたしは、また──あ。)


涙で歪んだ視界に映ったのは、立てかけられた木刀。縋るようにそれに飛びついて、握りしめる。

…大丈夫だ、今は「あの日」の朝じゃない。世界は、巻き戻ってなんかいない。道場に行ったら、あいつがいて、打ち合うのは楽しくて、それで…


「…あいつのところ、行くか。」


なんとか落ち着いてきた。

蹴り飛ばした毛布を戻して、とりあえずあいつ…遺の家に行くために、身支度する事にする。


もう世界が戻る事はないなんて、分かっている。それでも、「日常」に戻されたあの朝の絶望と恐怖をたまに、こうして夢に見る。


「……っ」


どうしようもなく不安に駆られて、私はまた、木刀にすがりついた。

どうか、どうかこの、新しい「日常」だけは奪わないでくれと、祈りながら。



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