命を喰らう

命を喰らう


【注意書き】

・残酷描写あり

・書きたいところだけ書いた

・ほんのりとキドホ🥗、キラホ🥗

・🥗ホーちゃんがゴリゴリ戦ってる

以上がOKの方のみどうぞ


***


ユースタス・"キャプテン"・キッド、"海鳴り"スクラッチメン・アプー、そして"北海の魔女"バジル・ホーキンス。この三名が同盟を組み、しばらくだった頃だった。船長三人とキラーが会議を終え、それぞれの船に戻ろうかという、道中の出来事だった。

会議室、もといキッドの隠れ家は、随分と奥まったところにあった。ひとつ歩を進めるごとに枯葉が砕け、小枝が音を鳴らす。大きいムカデが足元を這い、ホーキンスが悲鳴をあげた。

「ねえ、キッド。隠れ家変えない?ここ、不気味なのだわ……きゃあ!」

「だー!もう!うるせェなァ!我慢しろや!!」

「だってぇ……きゃっ!アプー、抱き上げて!もう私ここ歩きたくない!」

今度はGが目の前を横切り、ホーキンスは堪らず隣のアプーに泣きついた。

「嫌だよ、なんでオラっちが!おいキラー、お嬢様が抱っこをご所望だぜ!」

キラーはため息混じりにホーキンスをお姫様抱っこで抱き上げ、腕に彼女を座らせた。

「全く……そんなんでよく野蛮な海賊が出来たもんだな、お嬢様?」

「今まではうちの子たちがなんとかしてくれてたもん……」

目に涙さえ浮かべながら拗ねたように言い、ぎゅっとキラーの首にかじりつく。豊満な胸が仮面に押し付けられ、少し角度が変わる。

「……ホーキンス、くっつきすぎだ。仮面の角度が変わっちまう。前が見えねェ」

「あら、ごめんなさい……」

ホーキンスは慌てて仮面の角度を直す。そんな彼女の背中をポンポンと叩きながら、キラーはキッドにしか見えないように、彼にピースサインを出して見せた。口を金魚のようにぱくぱくと開け閉めし、怒りか嫉妬か、そんな感情で言葉を失ったキッドを見て、アプーは呆れたようにため息をついていた。

――そんなに好きならさっさと奪うなりなんなりしちまえばいいのによ。

と、情緒もクソも無いことを考えながら。


***


森をぬけ、ようやく整備された道が見えてきた。ここなら虫も少ねェだろうとキラーはホーキンスを下ろし、軽く伸びをする。

「ありがとう、キラー。助かったわ。ごめんなさい、重かったでしょう?」

「……いや、羽のようだった」

「ふふ、そういうこと言うんだ」

なんとなく"いい感じ(当社比)"のふたりを見て、なにか噛み付いてやらねェと気が済まねェとキッドが口を開いた時だった。

茂みから、何かが踊り出してはホーキンスに飛びかかった。人間の男だった。男は手にしたナイフで彼女の顔を切りつけた。さしもの超新星も不意打ちには弱い。頬が少し切れ、血が流れた。ホーキンスの口から、小さい悲鳴が溢れ出た。男は続けざまに、さらに切りつけようとしている。

一瞬にしてキッドとキラーの頭に血が上る。どこかから集まってきた鉄クズが巨大な腕の形を成す。手首に装着した刃物が高速回転を始める。

目にも止まらぬ速さで、ふたつの攻撃が男に当たるかと思われた時だった。魔女の腕から藁が伸びた。ふたりの攻撃を留め、縛り上げる。

魔女は、微笑んでいた。この世のものとは思えぬほど美しく、おぞましい微笑みだ。

「ひどいのね、貴方……女の顔に傷をつけるなんて」

ホーキンスは空いている片手で男の手首を捕まえ、素早く腕を裏返した。下から肘を蹴りあげる。男の腕から厭な音が鳴った。ぎゃあと情けない悲鳴が上がる。骨が折れたのだ。男の手を離し、ホーキンスは素早く剣を抜いた。抜いた勢いで首を斬りつける。ゴロリと、キャベツのように頭が転がった。残った身体から鮮血が吹き出した。しゅるしゅると、キッドとキラーを縛り上げていた藁が力を失い、ホーキンスに還っていく。

「……さて、あと……十人……いえ、十二人ね。キッド、キラー、アプー。ここは私に任せていただけますこと?」

彼女の言葉のとおり、茂みからガサガサと十二人のむくつけき男たちが出てきた。身なりを見る限り、どこかの海賊団の船員のようだ。

魔女は笑みを崩さない。三人の海賊は、魔女の言う通り、一歩後ろに下がった。お手並み拝見といこうじゃないか。

十二人の武装した男と、ひとりの血濡れの剣を携えた女が対峙する。言葉はない。あるのはただ、静かな緊張感だ。数秒、時が止まったように思えた。

鳥が飛んだ。その羽音を皮切りに、やっちまえ!と誰かが叫んだ。

一人目の男の首を貫き、続けざまに二人目の男の胸部に突き刺した。同時に突き刺されたふたりの男は、口や鼻から大量の血を吹き出した。

ホーキンスは二人目の男の手から素早く拳銃を奪い、近くにいた三人目の男の顎下の柔らかいところから頭蓋にかけてを撃ち抜いた。脳漿と血液がぶちまけられる。四、五人目も同じようにして撃ち抜き、早くも弾切れになった拳銃を舌打ち混じりに打ち捨てた。

六人目が長物を持っていたので、まだ捨てていなかった一、二人目の男を盾にした。仲間の死体を刺し貫いてしまったことで、六人目の男に隙ができる。それを見逃しすホーキンスではない。素早く剣を引き抜き、六人目の首を切断した。

と。

複数の発砲音。ホーキンスの身体に風穴が空いた。空かなかった。

代わりに、ホーキンスに弾丸を叩き込んだ七人目と八人目の男が倒れた。魔女は無傷である。彼女の腕から、パキパキと音を立てて風穴の空いた藁人形がふたつ、こぼれ落ちた。

「クソッ……なんなんだよォ!!」

引き攣った声で九人目の男が叫んだ。震える手で手斧を握り込む。

「……来ないの?相手は女ひとりよ?」

透き通るような美しい声で、魔女は囁く。

「このッ……魔女がァ!!」

絶叫とともに、九人目が襲いかかってきた。絶叫はすぐに止んだ。ホーキンスの剣が、九人目の眼球と眼窩を貫き、脳に突き刺さっていたのだ。剣を捻りながら引き抜く。大きく痙攣し、九人目が地面に倒れた。

瞬く間に、九人の人間の命が奪われた。命を喰らう魔女は、ゆっくりと振り返った。

「キッド、捕虜は三人もいれば充分よね?」

血溜まりの中で微笑む女を、この世で最も美しいと感じた自分は異常なのだろうか。キッドはそんなことを思いながら、こくりと頷いた。


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