呪力の核心へと

呪力の核心へと


呪術高専東京校と京都校の交流戦にて突如出現した呪詛師たちと特級呪霊・花御。


緊急事態が故に観戦側に回っていた五条類はその腰を上げ、帳の効果により侵入を阻まれた五条悟の代わりとして戦場を駆けた。


結果、学友達の救出を無事に果たし、特級呪霊である花御と交戦していた虎杖と東堂を発見し彼らを援護。東堂と類の的確なサポートによって虎杖は順調に花御を追い詰めていき、黒閃の連続炸裂によってタフネスが売りの花御も遂には切り札を使わなけれはならないと判断を下した。


「できることなら使いたくなかった……ですが、そうも言っていられませんね……」


花御は地面に手を当て、周囲の植物から生命力を根こそぎ吸い取り呪力へと変換。だがその呪力が花御へ還元されることはない。その呪力は花御の左肩の花から放出され、攻撃に転用することができる。


しかしただ撃った所で東堂の不義遊戯によって回避されるか類の拒絶防壁によって逸らされるのが落ち。故に後一手を加える。


「東堂!」

「来るなブラザー!とんでもない呪力出力───うおぉっ!?」


東堂が台詞を言い切る前に類は『紅』によって虎杖と東堂の二人を遠方へと弾き飛ばした。"領域"が作られる前兆を察知したからだ。


そしてその予想は的中した。



「領域展開───朶頤光海(だいこうかい)」



花御を中心に展開される結界。それは瞬く間に範囲内に居た類を取り込みながら空間に根を張り、瞬時に大自然の牢獄を形成する。


辺り一面が植物によって覆われた世界。花御の生得領域を広げて作り上げた必殺の空間に、五条類は閉じ込められたのだ。


「寸前に仲間を逃しましたか。敵ながら見事です」

「……予想はしていましたけど、やはり使えましたか、領域展開」

「朶頤光海……私の創り上げた大自然の楽園。ここにおいて私の植物たちは必中必殺の攻撃を行える。貴方の使う煩わしい盾も、最早無意味」


領域内において敵の防御に使われている術式効果は中和される。こと現代最強の呪術師である五条悟の無敵とも言える無下限の壁も、領域内においては消えてしまうのだ。それは類の拒絶防壁とて例外ではない。


強固な盾が消えたことにより活気づいた植物たちが獲物を食らいつくさんと蠢き始める。花御もまた左肩の供花より放たれる呪力放出の一撃により類を葬らんと構え───


「感謝しますよ、特級呪霊」

「?何を……」

「これまで不完全な、縄張りに生得領域を広げただけの領域は何度か体験した事がありますが、完成された領域展開をまともに受けるのはこれで二度目です。……二度も見れば十分参考になりましたよ。これでオレも完成する」


絶体絶命の危機だというのに類は笑みを崩さずゆっくりと両手を合わせて印を作る。それを見た瞬間、花御の身体に走る強烈な悪寒。


今すぐ止めなければならないという衝動のままに花御は全火力を類へと放った。


「疾く死になさい!!!」


だが、




「領域展開」




その全てが届くことは永遠になかった。




「涅槃色天(ねはんしきてん)」



類を中心点として花御の朶頤光海を塗りつぶすように広がる純白の領域。自身へと向かう攻撃全てを文字通り分解しながら類の展開する領域は加速度的にその範囲を広げていく。


「馬鹿な……!?」


領域同士のせめぎ合いはその完成度の高さによって優劣が決まる。当然、五条類はたった今領域展開を会得したばかり。その練度は間違いなく花御よりは下だろう。


にも関わらず朶頤光海は僅かながらの抵抗しかできず、純白の空間に触れた矢先にまるで霧のようにかき消されていく。何故?どうやって?その疑問が解消されないまま花御は一瞬にして形成を逆転され、遂には自分から半径数メートルを残して領域を完全に塗りつぶされてしまう。


「一体何をした!五条類……!!何故私の領域がこんなにも呆気なく……!?」

「どうやらオレの領域は攻性能力に特化しているようですね。領域内に存在するあらゆるものを分解してしまうようです。それも呪力の籠もった対象だけでなく、呪力を持たない植物や無機物も、ね。当然領域も分解してしまうので、せめぎ合いにはかなりの優位性があるんでしょう」

「なんと、いう……!」


そんな殺意しか無いような領域もそうそう存在しないだろう。そして類による術式効果の開示は花御にとっては死刑宣告も同然であり、術式の開示による縛り、そして領域展開に至ったことで更に一段階上がった呪力出力により僅かばかりに残っていた花御の領域の分解は加速していく。


「くっ、う、が……っ!」

「……心配しなくてもいいですよ。消えるわけじゃありません。細かく分解されて砂になるだけ。自然へと還ることは出来るんです」

「…………………」

「改めて感謝を、花御さん。貴方のお陰でオレは更に成長できた」

「……ああ、全く……いけ好かない小僧ですね……」


勝算が消えた事を認めた花御。それと同時に抵抗は無くなり、全ての空間に拒絶の力が満ち───思考することすら出来なくなった一体の自然呪霊はそのまま分子レベルまでバラバラとなり、砂の城が崩れるように消え去った。


反応が完全に消えた事を確認した類は領域を解除。そして遥か遠くの空で自分を見て珍しく驚いた顔をしている義兄に、類は思わず不敵な笑みを浮かべた。


「……これで少しは見返せたか?義兄さん」

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