君は確かな深山幽谷

君は確かな深山幽谷

霧子を幸せにし隊



霧子と結ばれた後、より深くお互いの愛を求めようとした二人は夜天に輝く愛の城へと向かった。

しかし、身を清めている霧子を待つ間、プロデューサーは悩んでいた。

本当に自分が霧子を汚していいのだろうか、と。

プロデューサーとて立派な大人、ここまで来て何も知らない訳などない。

それにここまで来て恋人である相手に対して一体何を考えているのか。

なぜそこで悩むのか、自分でも思う。

しかし、しかしだ。

アイドルとして人々の偶像になった霧子を、自らがプロデュースし苦楽を共にした大切な人を、今まで出会ってきた誰よりも美しいと感じてしまった天使を、果たして自分などという一人の男の欲が触れていい存在なのか?

いいや、触れていいはずが、汚していいはずがない。

霧子という真っ白なキャンバスは、ただそこに白くあり続けることこそが最も美しいのだから。

よしんばそれが許されるとして、もし霧子に痛い思いをさせてしまったら?もし霧子を満足させてやれなかったら?

そう思えば思うほど、ドツボにハマり続ける思考回路。

もういっそのこと、今日はやめてしまおうか……?

そう思った刹那、「プロデューサーさん……」と声がかかる。

そこにいたのはまさしく天使だった。

上気し赤くなった頬、水気が残り下ろされた髪、体にはタオルのみでいつもの包帯は巻いていない、そんないつもとは違う霧子。

包帯の無い今の霧子の体を覆い隠すのはそのタオル一枚のみ。

それに気づいた瞬間、プロデューサーの体は業火に焼かれたように熱くなる。

これは霧子という天使に劣情を催した罪の炎か、はたまた自らのうちに宿る獣性の目覚めか。

興奮と緊張で体がこわばり、小刻みに震える。

そんなプロデューサーを気遣ってか、霧子はプロデューサーの手をそっと握る。

「緊張、しているんですね……安心してください……私も、すごくドキドキしていますけど……きっと2人なら、大丈夫です……」

プロデューサーは、泣いた。

突然の涙に慌てる霧子。

プロデューサーはそんな霧子の手を握り、ポツポツと先ほどまでの自分の想いを霧子に語っていく。

自分がどれほど霧子に特別な想いを抱いているか、霧子がどれほど美しい存在なのか。

プロデューサーの胸に秘められた霧子への想いの全てを吐き出し終えた時、プロデューサーは霧子の顔を見る。

霧子は悲しいような怒っているようなそんな複雑な表情を受かべていた。

「わ、私は天使さんじゃ、ないです……」

「き、霧子……?」

「プロデューサーさん……私を見てください……」

そう言うと霧子は立ち上がり、体に巻いていたタオルをゆっくりと脱ぎ去る。

今、プロデューサーの眼前に広がるっているのは、一糸纏わぬ、生まれたままの姿となった霧子の裸体だった。

(美しい……)

ヴィナスの誕生もかくやという程に美しく均整のとれた肉体、ギリシア彫刻を連想させるような傷一つシミ一つすらない白い肌。

霧子の裸体の美しさを描き出すならば、かのルノワールですら足りないだろう。

そんな霧子の美しさにプロデューサーは目を離せないでいた。

無理も無い。

プロデューサーは霧子に出会って以来、今の今まで彼女に見惚れ、心を奪われ続けているのだから。

ーーーされど。

『霧子の裸体を見てはいけない』

1ナノ程度に残っていた理性に命令されたプロデューサーは、那由多の彼方に放り出した意識を取り戻すやいなや、これ以上霧子の裸体を直視しないように目を瞑り、顔を手で覆い隠す。

この間、実に0.01秒である。

「ご、ごめん……!霧子!俺なんかが……」

「見てはいけないって、言うんですか……?」

「!!」

霧子の消え入りそうな、泣き出しそうな弱々しい声にプロデューサーは咄嗟に霧子霧子を見やる。

「どうして、そんな事、言うんですか……私、プロデューサーさんが思ってるような、天使さんじゃないのに……私だって、普通の、女の子なんですよ……?」

涙を浮かべて必死に訴える霧子。

(あ、あぁ……やめてくれ……泣かないでくれ…‥俺は、君にそんな顔をして欲しいわけじゃ‥…)

気づけば、プロデューサーは霧子を抱きしめていた。

霧子の体から伝わってくる確かな温もり、肌の感触、幽谷霧子が確かにここにいるという存在証明。

しかし、そんな事よりも霧子を安心させたい一心でプロデューサーはギュッと霧子を抱きしめる。

「ご、ごめん霧子!俺は、俺は……そんなんじゃなくて、君が……君が……」

必死に霧子を安心させようとするあまり、自分でも何を言ってるのか分からなくなるプロデューサー。

そんな普段とは違うプロデューサーの狼狽っぷりを見た霧子は、ふふっと微笑する。

「ごめんなさい、プロデューサーさん……プロデューサーさんを、困らせたいわけじゃなくて……わたしはプロデューサーさんになら……何をされても……いい、ですって、伝えたくて……」

「お、俺は……」

霧子は自身を抱きしめているプロデューサーを優しく抱きしめ返し、彼の耳元で囁くように語っていく。

「プロデューサーさん……私の体……もっと見てください、触ってください……私の唇も、胸も、あ、あそこも……ぜ、全部プロデューサーさんのものですから……」

それは天使からの悪魔の囁きだった。

それを聞いてはいけない、それをしてはいけない。

それを越えてしまえば、お前は霧子という楽園を失墜させてしまうのだ。

プロデューサーの理性は警告する。

しかし、それと同時にプロデューサーの中では霧子を汚す罪悪感以上に霧子の想いに応えてあげたいという心が広がりつつあった。

理性と本能、悪魔と天使、男と女。

それぞれの訴えに揺れ動かされ、プロデューサーは最後の決断を迫られる。

「そ、それに……!プロデューサーさんは、わたしのことを天使さんって、言いましたけど……その……ほ、ほら、天使さんは……お、お股に毛なんて、生えてないです、よね……?」

そう言うと霧子は顔を赤くしながら、プロデューサーの手を自らの秘所に持っていったかと思うと、プロデューサーの手に自身の大人の証を擦り付けた。

フワリ。

それは、天使であるはずの霧子には無いはずのもの。

穢れなき無垢なる存在にはあってはならないもの。

其れすなわち、霧子の秘所を覆う陰毛である。

「んっ、どうですか……プロデューサーさんっ……わたしの、あそこっ……んっ!」

プツリ。

プロデューサーの中で何かが千切れる音がした。

ーーー答えは出た。

「霧子!」

「は、はい!」

プロデューサーはまっすぐに霧子の瞳を見据える。

そのプロデューサーの顔は霧子には見覚えがあった。

それは、彼が何か重大な決断をする時、少し前に自身に告白をした時と同じ顔。

「ごめん、心配させて。でも、やっと決心がついたよ。すぅ……俺は霧子が好きだ!霧子の事、俺なんかがって思ってたけど……俺はやっぱり世界で一番霧子のことが大好きだ!それで、こんな俺でよかったら、その、いっぱいエッチなことを、霧子としたい!いっぱい、愛し合いたい!」

「は、はい……!はいっ……!わ、わたしも、プロデューサーさんのことが、大好きです……!だから、こんな私ですけど……いっぱい可愛がってくださいっ……!」

それは、初々しくも大人の階段を昇る二人の告白。

これから繰り広げられる愛欲の宴の開会宣言。

溢れ出るほどの想いも、たった一言には叶わない。

こうして、プロデューサーは本当の意味で愛する人と結ばれることができた。

もう霧子に天使や女神を重ねることはないだろう。

なぜなら、幽谷霧子はプロデューサーの隣を歩む普通の女の子なのだから。

これ以上は語るまでもないだろう。

この後の二人は、一生に一度の初めての体験をおっかなびっくり経験していくのだった。

しかしてそれは苦痛に満ちたものではなく、愛する人と結ばれた幸せに満ちた一夜であったという。


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