君の色と独占欲
背中に触れる素肌の感覚で目を覚ます。
自分を包むように逞しい腕の熱が伝わり、振り返れば宇宙を連想させる瞳は今は閉ざされており、穏やかに眠っている。
「……珍しいな」
普段、デイビットの方が先に起きて立香をじっと見つめていることがほとんどで、今思えばデイビットの寝顔を見ることは少ないのでは?
そう思うとなんだか得をした気分になって、どうにかがっちりホールドされた体を捩り、自由になった指で腕に浮き出た血管をなぞる。
「男の人、だ」
キリシュタリアやテスカトリポカ、他の男性サーヴァントと比べればデイビットはそこまで背は高くない。それでも立香と比べれば高身長なのだが。
その代わりと言っていいのかは分からないがとても筋肉質だ。がっしりしていて、逞しい。そんな男の人の体。
立香とて年頃の女性に比べればずっとしなやかで逞しいが腹筋も硬くないし、力こぶだってあるのか無いのか分からない。
腕も脚もデイビットの半分くらいと言っても過言ではないくらいにひ弱に見える。そんな男のデイビットが壊れ物を扱うように触れるのだ。
硬い手のひらで立香の頬を包んでじっと瞳を見つめる。性的な触れ合いの時も、普段のスキンシップの時もそれをするのだからデイビットは瞳を見つめるという行為が好きなのだろう。
「嫌じゃないけど……恥ずかしいし……」
昨夜だってそうだ。何回も見るなと言って隠そうとしたのに、軽々と手を押さえつけて容赦なく暴いた。それでも決して、傷付けるような一方的な行為はしないのだから大切にされているのが体で分かってしまう。
腕の血管をなぞる行為に飽きたのかデイビットと向き合うように体を動かして向き合えば、じっと、瞬きもせずにデイビットは立香を見つめている。
「!?!?!?」
「まだ夜中だ。声を上げることはおすすめしないな」
「ご、ごめんね起こしちゃったかな」
「……気にする事はない」
「どのくらい覚えている?」
「ミーティングとシュミレーターでの戦闘。あとは2人でお茶を飲んだし……そうだな昨夜の君はとても幸せ愛らしくてセクシーだった。全てを記憶出来ないのは残念だ」
「そんなの覚えてなくていいから!」
デイビットの頬を引っ張り怒るがこれもじゃれ合いに過ぎない。心地よい痛みを受け止めながら立香の瞳をじっと見つめる。
「……あれ、デイビット」
「どうした」
「目が……待って、電気付けるね」
テーブルの上に置いてある端末で電気を付ける。デイビットは急に明るくなった部屋にギュッと目を瞑って眉間に皺を寄せる。その仕草はどことなく子どもっぽくて思わず笑ってしまう。
「はーいデイビット、こっち向いて」
「ん」
「んーと……やっぱりそうだ、鏡……」
ほら、と差し出された鏡を見ればそこに映っていたのはデイビットの顔と、
「これ、は」
デイビットの愛する朝焼けのような夕焼けのような瞳。そこに宇宙はなく、彼女と同じ瞳がデイビットを見つめていた。
「色変わっているでしょ?大丈夫?ちゃんと見える?」
「……」
「デイビット?本当に大丈夫?今からメディカルチェックしに……」
「いや、大丈夫だ。不調はない」
「……本当に?」
「ああ。色が変わっただけだよ」
デイビットは立香を抱きしめてそのままベッドに寝転ぶ。彼にしては珍しく、本当に珍しく声を上げて笑っていた。
「デイビット?」
「おそろいだ」
何時ものように両の手のひらで立香の頬を包んで真っ直ぐに見詰める。そこに宇宙のような瞳はなく、見慣れた色が立香を見つめている。
「おそろいだ」
「……うん、おそろいだね」
立香は彼の吸い込まれてしまうような、宇宙を連想させる瞳が好きだったのだが、デイビットが本当に嬉しそうに笑うものだからなにも言えない。
「オレは愛する君の──特に瞳を愛している」
「それは何となく分かる」
「人の外観は気にしないが、このような関係になる前から君の瞳がオレの記憶から離れない」
「そ、それはありがとうなのかな?でもどうして急に目の色が」
「……魔術的な詳しい説明は省くが君の魔力がオレに残って、それが作用したのだろう」
「魔力……」
「よくある話だ。相手の髪の色や目の色が伝染る。それが今回、君の瞳の色だっただけだ。君とは何回も性行為をした。それの結果に過ぎない」
「……じゃあ私もそうなっちゃうの?」
「なるのかもしれないな。一時とはいえ君の瞳の色が失われるのは寂しいな」
あまりに真剣に寂しがるものだからおかしくて笑ってしまう。立香をムッとした表情で見るのだが、やはり何時もの色ではないため不思議な気分だ。
「私も現在進行形でデイビットの目の色が変わっちゃったから寂しいよ?」
「む……そうか」
「でもデイビットが嬉しそうだからいいけど。あとね」
「あと?」
「なんか変な言い方になっちゃうけど……君が、私のものになったみたい」
それは紛れもない独占欲だ。
誰にでも優しい、善い人からデイビットだけに見せた独占欲。思わずゾクリと背中に走った衝撃を深呼吸してやり過ごす。
「安心してくれ、立香。今のオレは、デイビットという男は紛れもなく君のものだ」
「見て見てデイビット!ほら!私の目の色も変わったよ!」
「ほう……」
「どうかな?」
「確かに……うん。オレのものみたいで悪くはない気分だ」