君の色

君の色



「お前、青色好きだったっけ?」


合同トレーニングの打ち合わせをしている時に同期のトレーナーに言われた。

そういえばと改めて自分の身に付けている物に目をやる。

この前買ったペンとネクタイ、バインダーはどれも青色…と言うより、み空色、薄花色、鴨跖草色、そして露草色といった色の物ばかりだ。

思い返してみれば、自宅にある小物も同じ色の物を揃えているような気がする。


「担当持つ前は黒とか地味な色の物ばっか持ってたのに、心境の変化ってやつか?」


確かに、トレーナーになる前から目立たない色の物を選んでいた筈なのに、エースを担当してから、いつの間にかこの色を優先的に選ぶようにしている、むしろ、無意識に探していると言ってもいい。

けど、それが何故かは理由は分からない。

同期には適当に誤魔化し興味を削がせ、打ち合わせを終わらせてトレーナー室へと向かった。

その道中、好みの色が変化した理由を考える。


(この色を何処かで見て、何か良い事があったとか?似たような色と言えば…)


この時期の空の色とか、応援しているスポーツ選手のユニフォームの色とか。


「ううん、どれも違う気がする……」

「トレーナーさーーーん!!」


聞き慣れた声が前方からした。

視線を向けると、担当バのカツラギエースが手を振りながらこちらに駆けて来ていた。


「廊下は走っちゃ駄目だよ」

「ごめんごめん!トレーナーさんを見つけたら体が動いちまったんだ!」


犬かな?


「あ、でもちゃんと用はあるんだぜ?さっき調理実習でクッキー作ってさ!トレーナーさんに分けてやろうと思って!」

「え、ありがとう!ちょうど小腹が空いてたんだよ」

「へへへ、いいってことよ!」


エースは見ていて飽きない。

表情豊かで、ちょっとした事でコロコロ変わる。

けど、今みたいに笑っている様が1番エースに似合っている。

今日のような、澄み切った秋の青空みたいに綺麗な瞳がキラキラ輝いて………。

……そう言えば、エースの瞳って綺麗な青色だったな。

いや、青というよりは俺が今身につけているネクタイやペンの色に近い……。


(……あ)

「?どうしたんだトレーナーさん、あたしの顔に何か付いてるのか?」

「…………」


嗚呼、そう言うことか。

俺がこの色を、エースの瞳と同じ色を探して、集めて、身に付けていたのは。

エースを身近に感じたいと思ったからなのか……。


「………ごめんエース、俺は駄目なトレーナー…いや、大人だ……」

「え!急にどうした!?」


我ながらストーカー気味の気色の悪いことをしていた事に嫌悪感と、エースに対して担当バ以上の感情を向けていた事に罪悪感が湧き、俺はその場に座り込んでしまった。



ーーーーーーー



トレーナーさんがあたしに謝りながら急に座り込んだ。

ここ廊下なんだけど、今は周りに誰もいないからいいけど、ハッキリ言って通行の邪魔になってんぞ。


「なぁ、とりあえず立ってトレーナー室に行かないか?」

「……ちょっと…しばらく立てないかも……」

「ええ…」


なんか落ち込んでる、あたしには言えない悩みでもあんのかな…。


(………あ)


トレーナーさんの手に持っているバインダーがあたしの視界に入る。

バインダーには新品のペンが付いていて、どちらも青っぽい、あたしの目の色と似た色をしていた。

担当契約してからしばらくの間、トレーナーさんは黒色の物を身に付けていて、大人っぽくてカッコいいなーって思ってた。

あたしは赤色が好きなんだけど、トレーナーさんとお揃いになるかなって、我ながら女々しい理由で黒っぽい小物をちょくちょく増やしていた。

でもいつの間にか、トレーナーさんは青色の物を身に付けるようになっていた。

急に色の趣味が変わって、内心驚いた。

もしかしてあたしの知らぬ間に彼女が出来て、ソイツの影響かと考えたことは少なくない。

けれどこの前、たまたまシービーと一緒に練習をしていた時、シービーがトレーナーさんを見ながら言ったんだ。


「エースのトレーナーってエースの事が大好きなんだね、あんなにエースの瞳の色と同じ物を身に付けてさ」


自分の目の色なんて気にした事ないし、そんな事気付ける訳ないだろ。

それに、もしかしたらシービーの勘違いかもしれない、トレーナーさんがあたしの事を好きだなんて。


……でも、もし、本当にそうだとしたら。


(ちょっとだけ、夢見てもいいかな、トレーナーさん)


あたしはしゃがんで、未だうんうん唸っているトレーナーさんを見つめながら、ほんの少しだけ思いを馳せるのだった。


終わり

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