君と始まる物語

君と始まる物語




―·········ここは、何処だろう?―



気がついたら、僕は森······ジャングルの中にいた。辺りは薄暗かったからきっと真夜中なんだろうと確信した。

僕の名前はインキュベーター、周りからは『失敗作』・『役立たず』と罵倒されある日とうとうしびれを切らしたオリジナルの手で別次元へと追放された。

······何で追い出されたのかって?

それは、僕が『感情』を持って生まれたから。本来ならオリジナル含めて一つの精神を共有してるハズなのに、僕だけは例外で『思いやり』・『優しさ』といった他者を慈しむ感情を保有していたんだ。

でも、オリジナルはそれが気に入らなかった。僕が何度も「他人を傷つけてまで目的を果たすなんて間違っている、こんな事はもうやめてほしい」と頼んでも「役立たずは口出しをするんじゃない」と一喝されてそれからは他の個体達からも『失敗作』とバカにされ、時には憂さ晴らしの如く暴力を振るわれる事もあった。

肩身が狭く、辛い思いしかなかった······だから、今はこうして追放された事がかえって良かったかもしれないと感じたよ。



―とりあえず、能力を使って姿を消そう。原地の生命体が獰猛だったら危険だ―



僕はステルス能力で姿を消し、休める場所を探してジャングルの中を彷徨った。しばらくして、何処からか何かが泣き喚く声が響いてきた·········



うわぁぁぁ〜〜んっ!怖いよー、じいちゃぁぁ〜んっ!!



―······今のは、人の声?それもまだ子供、何でこんな場所に―


気になった僕は声がする方まで走った、そこにはワンワン泣いて立ち尽くしている小さな男の子がいた。人間だ、他の個体が話してるのをこっそり聞いたから存在は知ってたけど初めて見た。見た目はまだ幼い、そもそも何故こんな場所に一人でいるのかも分からない。このまま放っておくワケにはいかない······


―声をかけるべきかな。でも、僕の姿を見たら余計に怖がるかもしれない······だけど―



·········大丈夫?



「グスッ、エグッ·········誰かいるのか?」

「初めまして、僕はインキュベーター。君の名前は?どうしてこんな所にいるの」

男の子は涙を拭いながら、『ルフィ』と名乗った。話を聞くと、ここには彼のお祖父さんが「強くなる為」だと称して無理矢理連れてこられたらしい。どういう理由があるかは知らないけど、こんな場所に小さな子を一人置き去りだなんて·········わけがわからないよ。

それでもルフィ君はお祖父さんのことが怖いけど大好きだと話してくれた、「この前は風船を身体に括り付けられて空の彼方へ飛ばされた」とか「谷に突き落とされた」と酷い事をされたにも関わらずに。何だか、僕に似ているな


「なあ、インキュベーターって名前は言いづらくないか?」

「······そうだね、ちょっと言い難いかな」

「じゃあさ、おれが新しい名前付けても良いか?」

「新しい、名前···?」

僕に新しい名前を付けたい、ルフィ君はそう言ってくれた。僕は一瞬嫌な事を思い出した、オリジナル達から『失敗作』・『役立たず』と罵倒された日々を。あの時は生きた心地がしなかったな、本当に辛かった·········



·········決めた!お前は今日からソラマルだ!!



「ソラ、マル······」

「お前の目、まん丸だろ?それに、青い色が青空とおんなじだ。おれ、海の青も好きだけど空の青も大好きだ!」

「·········」(涙が落ちる)

「どうしたんだよ?!ハッ!もしかして、気に入らなかったのか?」

「······違うよ、嬉しいんだ。僕の為に、一生懸命名前を考えてくれて、こんな素敵な名前を付けてくれて」

僕は嬉しくなった、今まで罵倒されたり暴力を振るわれたりと嫌な事しかされなかった僕は『名前』という初めてのプレゼントを貰った。ルフィ君はキョトンとしてたけど、僕が喜んでいるのを分かってからは嬉しそうに笑ってくれた。



それから僕達は寄り添いながら眠りについた、幸いにも朝がくるまでに凶暴な生き物が襲ってくる事は無かった。目を覚まし、お腹を空かせたルフィ君が「食べ物を探しに行こう」と僕に声をかけた。



君と僕の物語は、まだ始まったばかりだ·········



END


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