名前と約束

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「葵、葵の漢字はどう書くんだ」

漢字ドリルを開いた脹相が尋ねてくる。

受肉体の知識はあれども、生まれたばかりに等しい脹相は世間とズレている部分がある。その齟齬を少しでもなくすため人間の常識を身に着けようとしているようだが、小学生用の漢字ドリルから始めている辺りやはりズレている気がする。

それは流石に受肉体の知識で分かるんじゃないかという言葉を呑み込んだ東堂は脹相を包み込むように抱き締めるとノートの空いているスペースに『東堂葵』と名前を書き連ねた。

 

「東西南北の東に、堂は…大きな建物や神仏を祀る意味がある。葵は植物の名前だ」

「どんな植物なんだ?」

「そうだな……葵ってのはアオイ科の植物の総称だからな……。わかりやすいのだとヒマワリか?」

「ヒマワリ。受肉体の知識にはあるが見たことはないな。どんな植物なんだ?」

 

ヒマワリを知らないことに驚いた東堂だが考えてみれば脹相が受肉したのは多めに見積もっても秋頃だ。夏に盛りとなるその花はとうに枯れているだろう。

なんとなく勿体ない気がした東堂は少し考えたあと「見たいか」と聞き返した。

 

「ああ、見てみたいと思う」

「だったら一緒に見に行くぞ。京都にも幾つかスポットがある。夏になったらそこへ行こう」

「今では駄目なのか」

「夏に咲く花だからな」

 

髪や頬にキスを落としながら言えば、ふふ。と脹相が笑う。

くすぐったいのだろうかと思いつつ構わずキスをし続けていれば、楽しみだな。と頬をほんの少し紅潮させながら脹相が呟いた。

 

「先の楽しみができた。夏が待ち遠しいな」

 

花が綻ぶ笑顔とはこのことを言うのだろう。それはそれは嬉しそうに笑う脹相に思わず見惚れてしまった東堂は今すぐその唇に吸い付き貪るようなキスをくれてやり、腰がくだけた恋人をそのままベッドに運んで全身くまなく喰らってやりたい衝動を抑えると、花を愛でるように脹相の髪を撫でたのだった。

 

「夏だけと言わず色んなところへ出かけよう。お前が行きたい場所全てに行こう」

「葵と一緒ならどこでも楽しいだろうな」

 

撫でられるのが気持ち良いのか、目を細めた脹相は甘えるように東堂に寄りかかると「ありがとう」と礼を言った。

 

「お前のおかげで毎日が幸せだ」

 

そう言った脹相は触れるだけのキスをすると少し恥ずかしそうに笑う。そのいじらしい姿に今度こそ理性の緒が切れた東堂だが「勉強中だから今はやめろ」とすげなく拒否をされ、泣く泣くお預けを食らってしまったのだった。

 

また、余談だが小学生レベルの問題では勉強にならないだろうと適当なクイズを出せば「受肉体がアホなのかお前が天然なのとどっちだ?」と心配すれば良いのか可愛いと思えば良いのか悩む珍回答を自信満々に答えた脹相に「やっぱり可愛いが勝つな……」と東堂は謎の敗北をすることとなったのだった。

 

 




おまけの会話文(中の人ネタあり)

「ちなみにヒマワリは漢字だとこう書く」書き書き【向日葵】

「日…向かう……葵……ひむかいあおいか?」

「ヒマワリって言ったよな?書けなくても読めると思うんだが……」

「む、馬鹿にするな」

「なら幾つかクイズを出すか。これは?」書き書き【煎餅】

「フッ、簡単だな。まえもちだ!」

「……これは?」書き書き【粉骨砕身】

「ふんさいこっせつ、だな」ドヤァ…

「意味合いだけならあってる……のか……?じゃあこれは?呪術師なら分かると思うが」書き書き【魑魅魍魎】

「もみもみ」※大真面目

「……(審議中) っはぁ~~~かわいいなクソ…」もみもみ

「何故揉むんだ。結局合っているのか?揉むのをやめろ。葵?聞いてるのか?」

「これで我慢してやってんだから大人しく揉まれとけ。もみもみ言ったのお前だろうが」もみもみもみもみ

「それは答えを言っただけで……あっ、ちょっ……それ以上は……んっ……」

「(やっぱり今すぐベッド連れて行くか…?)」

〔完〕



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