名付ける、ということ。
あの明け方、平子が子供を拾ってからひと月が経った。あの子供は今日もその暗がりから出ることはなく、その無数の手を平子の髪に手を伸ばしている。
「俺の髪の毛触ることがそんなに楽しいんか?」
いつも平子の髪に手を伸ばしてくるその子供にため息をひとつ。彼にとっては自分の髪ひとつで子供が楽しそうにしてくれるなら、それはそれで楽でいいけれど。
ひと月、一緒に過ごして思ったことがある。
「やっぱ、名前があらんと不便やな」
そういうことである。坊やらガキやら呼んできたがやはり名前があった方が子供にとってもいいし、自分も呼ぶ名前が定まっていた方が楽である。という結論に至った。
なんと名付けるか少し考える。なるべく分かりやすくて呼びやすいのがいい。
「よし、ええか?今日からお前は…」
髪と戯れる子供をすくい上げ、考えた名を告げる。
すると、名を告げた瞬間流動体であった子供は瞬く間に人の姿に変わり2つ3つ程の幼児の姿へ変わった。
「おぉ、なんやそれっぽい姿になったやないか」
流石の平子も名付けた瞬間、姿の変わった子供には驚いたらしい。
片腕で子供を抱き直し、そうでは無い方の腕で子供の頭を撫でる。子供は名を付けられたことが嬉しいのかニコニコを笑っている。
平子がもう一度その名を呼ぶと、子供は返事をするように平子の髪を引っ張った。
「あー、嬉しいんか?良かったなぁ」
そう笑いかけると、髪を掴んでいる手の力が強まる。
「痛いわ!引っ張ったらアカンで!!」
平子は髪を掴んでいる手を外すと、掴まれた髪の根元を押えた。
子供は喜ばせすぎない方が吉、で事やな。そう平子は大きなため息をついた。