名もなき鉄の茨

名もなき鉄の茨



若干のホラー描写+死亡描写あります!!注意!!


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「・・・・おじいちゃん?まだ起きてるの?」



家中の廊下に、少女の呼びかけとドタドタと階段を駆け降りる音が鳴り響く。

だが、その声は老人の遠い耳には届かない。



「おじいちゃん!!聞こえてる?」


「・・・・・」



ガチャリ・・・と扉を開けて老人のいる部屋に入ってきたのは、金髪の10歳ほどの少女。

老人との年齢差からして、孫娘だろう。



「・・・・おお、ブライア・・・まだ起きてるのか・・・?」


「おじいちゃんこそ!!ずっと書斎に篭ってるから心配したんだよ?」



ブライアと呼ばれたその少女は、老人の注意を引くために服の裾を引っ張る。

周りを古臭い本や資料で囲まれたその部屋は、加齢臭と本の匂いが混じり合って異様な雰囲気を醸し出しているが、老人は気にも止めずに再び机に目をやった。



散乱した書類や定規、図鑑やよく分からない小物で埋め尽くされていた机であったが、その中央には数枚の絵が置いてある。



「・・・何それ?ポケモンのスケッチ?」



少女が老人の膝に跨りながらそう聞くと、老人は嬉しそうに答えた。



「ああ、昔見たポケモンのな。もうそろそろ私の脳にもガタが来ているからね・・・・今のうちに目に見える形で残しておかないと・・・」


「昔見たポケモンって、あの・・・・えっと・・・・えりあぜろ?ってところで見たってやつ?」



少女の問いかけに老人は大きく首を縦に振る。

まだまだ若かった頃に体験した、奇妙な洞窟での不思議な出来事が老人の脳裏に浮かぶが、そんな感傷に浸っている彼とは対照的に少女はケラケラと笑い出す。



「あはは!!あの本に書いてあったポケモンでしょ?もうブライア全部嘘だって知ってるもーん」



何を描いてるのかと思えばまたあの妄想か。

子供ながらにそう思った少女はからかうように笑い続ける。



「・・・・嘘ではないと言ってるだろう、私はこの目で見たんだ!この世のものとは思えない、恐ろしくて凶暴な・・・・!!」


「はいはい、おじいちゃんも凄いよね〜、この前は地面を歩くウルガモスを描いてて、その前は長ーい髪のムウマ、そのまた前は変な羽のボーマンダだっけ?発想がそんじょそこらの人とは段違いだよ〜!」



そのまま傍に置いてあった他のスケッチを手に取り眺める少女。

中には二足歩行するレアコイルのスケッチまであり、そのあまりの珍妙さに少女は笑いを抑えきれない。



「あはははは・・・・・で、今回のポケモンはどんなの?見せて見せてー!」



相変わらず自分の言葉を信じてもらえず不服そうな老人だが、しぶしぶ先ほどまで書いていたスケッチを少女に見せる。

そこには今までの野生的なイメージとは裏腹に、まるでロボットのようなポケモンが描いてあった。



「・・・・・んーとこれは・・・バンギラス?」


「ああ、バンギラスによく似ている。だが目元や身体の形が少し違うし、何よりこのボディだ。私も驚いたよ、こんな機械のようなポケモンがこの世に存在するなんて・・・・」



ペラペラと研究者らしく語りだす老人。

しかし、ブライアと呼ばれる少女はどことなくこのスケッチに惹かれていた。


今まで野生的なポケモンのスケッチばっかりで目新しかったのだろうか?

そうかもしれない。

たまたまデザインが気に入ったのだろうか?

そうかもしれない。


だが・・・・それよりも彼女が感じていたのは・・・・

何の根拠も理由もない、予感だった。


何か・・・・どういう形でかは分からないが・・・・

今後、自分がこのポケモンと大きく関わることになるような・・・・

そんな妙な予感を。




「・・・・・であり、おそらくはこの電力吸収システムが・・・・・・ブライア?」


「・・・・・・・・みたい」


「うん?」


「・・・・まるで・・・・鉄の茨みたい」



自分がどうしてそう思ったかも分からないまま、口に出したその言葉。

その時点で自分が呆けていたことに気づき、サッと老人の方を振り返る少女だったが・・・・・

今度は老人の方が固まっていた。



「・・・・・・・・・・」


「・・・・・えっと・・・おじいちゃん?」


「・・・・・テツノイバラ・・・・・・そうだ!!テツノイバラ!!!素晴らしい名前だ!!」


がばっ!!

「うわっ!?」




何やら琴線に触れたのか、大喜びで少女を抱きしめる老人。

その勢いで周囲の本がドタドタと床に落ちるが、老人は全く気にしない。



「流石は私の孫だ・・・!!!こんな完璧な名前を思いつくなんて・・・!!!そうだ!!忘れぬうちに書き記さなくては!!えーっと・・・ペンは・・・・どこだったかな・・・・?」



と、少女を抱きしめていたかと思えば即座に研究者モードへ切り替わる老人。

急激なテンションの変化についていけなくなった少女は、呆れるような様子で老人の膝から飛び降りた。


そして、そんなドタバタとペンを探し回る老人をよそに書斎を後にする。







・・・・・・・・窓の向こうから彼女を追う、奇妙な光にも気づかず。





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「ふう・・・・・全くおじいちゃんったら・・・何か閃くとすぐああなる・・・・」



書斎から脱出した後、庭へ飛び出してきた少女。

元はと言えば目が冴えて眠れなくて起きてきたので、夜風にあたってから寝ようと思ってのことだ。


この時期は月が明るい。

空を見上げればちらほらと鳥ポケモンが夜空を駆け回っており、木陰では虫ポケモンの合唱が聞こえる。








・・・・・・・ガシャン



「・・・・・・・・ん?」




不意に、聞こえるはずのない音が聞こえた。

この自然に溢れた庭から聞こえるはずのない、機械音。




・・・・・ガシャッ・・・ウィーン・・・・・


「・・・・・・???おじいちゃん?」



明らかに人工物の音。家の中からか?

そう思って振り返るも、稼働している機械らしきものはなにもない。




・・・・・ガシャッ・・・ガチャン・・・・ガコン・・!!ガコン・・・!!



そうこうしてるうちに音が一気に近づいてきた。



「・・・・・何が・・・・・・」



訳がわからない。

混乱したままもう一度庭の方に目を向ける少女。


だが・・・・・




『・・・・・・・』


「・・・・・え゛っ・・・」




・・・・・その振り向いた先では・・・・

異音の主が、彼女の目の前で佇んでいた。




それは、つい先ほど老人のスケッチで見たまんまのポケモン。

バンギラスのような見た目と、ロボットのような機械感が混じり合った、異形そのもの。



「・・・・・・え・・・・あ・・・・あ・・・・」



当然、彼女は驚愕していた。

祖父の言っていたことは本当なのだと分かったのだから。


だが・・・・・・それより先に彼女が感じた感情は・・・・恐怖だった。




目の前のポケモンから感じる、明確な殺意。

その冷たい視線に籠る、冷酷さと残酷さ。




・・・・・・殺される。死ぬ。




「・・・・・・・おじいちゃっ・・・・!!!!!」


グシャッ!!!!






・・・・・少女の最後の声は、老人の遠い耳には届かなかった。






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「・・・・・・ブライア?呼んだか?何か変な音がしたと思ったんだが・・・・」



何か異変を察知したのか、杖をつきながら庭へ歩いてきた老人。

そこでは、一人の少女が地面に蹲っていた。



「・・・・・ブライア・・・何してるんだこんなところで、はやく中に入りなさい、風邪引くぞ」



その不気味な様子に戸惑いつつも、孫の体調を心配して声をかける老人。





・・・・・・ウィーン・・・ガシャガシャッ・・・・



・・・・・・そんな彼女の身体から鳴る、人ならざる機械音は・・・・彼の弱り切った耳には入ってこなかった。




「・・・・・・・・・」


「・・・・・・ブライア?」


「『・・・・・・・・うン、おじイちゃん』」




次の瞬間、その存在は老人の方へ振り返った。

ブライアと呼ばれた少女と、全く同じ顔で。



「・・・・・・本当に大丈夫か?少し声が変な気が・・・・」


「・・・・だいじょウぶ・・・・うん・・・・もう問題ないよ、おじいちゃん」




その様子に少し違和感を感じた老人だったが、風邪気味なのだろうと自分を納得させる。




「そうか、ならいい・・・・」


「それよりおじいちゃん。さっきの、テツノイバラってポケモンの話、聞かせて。」


「え?」



だが違和感は続く。

先ほどまで自分の研究対象をからかっていた孫娘が、急に興味を示してきている。


明らかにおかしい。普通はそう思う。

だが・・・・・老人は先ほどまでのテンションのまま、ついに孫娘が自分のことを信用してくれたのだと歓喜してしまった。



「・・・・お・・おお、そうか!!もちろんだとも、たっぷり聞かせてやるぞ!さあ、身体が冷えるだろう、こっちへ来なさい」


「・・・・・うん」





そんな老人の様子を見て・・・・・・








『いっぱいお話し聞かせてね。おじいちゃん』





名もなき鉄の茨は、ぎこちない笑みを浮かべるのだった。


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