可哀想な正実モブ
“イチカっ!!”
「はぁーっ!はぁーーっ!……っ、はぁーっ!ふぅ、はぁっ……」
“イチカ……。”
「ごめんなさい先生。……はぁっ、もう、大丈夫っす」
制されてようやく拳を下ろしたイチカは「先生はそいつ見張っててください」とぐちゃぐちゃと鳴る手袋を捨て、拘束から解放された後輩の元へ歩み寄る。
「……あ、ぐすっ……イチカ先輩」
「もうだいじょ」
「ごめんなさい!ぐすっ……私!こんなっ、こんなみっともないところ……っ!ごめんなさい……私、本当は最低でぇっ、どうしようもなくてっ、痛いのが怖くて、逆らえなくって……ひっぐ、負けちゃって……。でも知られたくなくって……。私、ごめんなさい、こんな出来損ないの子で、失望させてしまって……」
涙が伝う頬に平手打ちが炸裂する。
「……どうして、どうしてっ!一人で抱え込むんすか!うちらがそんなことで失望するような、正義実現委員会が!その程度の組織だと!……本当にそんな風に思ってたんすか?」
「あ、う……違います。違うんですっ!私が弱いから、ツルギ先輩やイチカ先輩みたいに強くないから!全部私が悪いんです!」
「……っ!初めからっ!!……初めから強い人なんていないんすよ。それに、うちだってまだまだで、ツルギ先輩にだって一応弱点はあるんす。本当に無敵な人なんて、どこにもいなくて、そんなものを目指していたら壊れちゃうっすよ。……第一、強い人が1人いて何でもかんでも解決できるなら、正義実現委員会なんて必要ないじゃないっすか……。だから……」
啜り泣く後輩をその先輩は優しく抱きしめた。共に並び少し先の道を行く、苦楽を共にし思い出を共有する、それは先生ではなく先輩にしかできないことだ。
「だから、みんなのことも、うちのことも、少しは頼ってほしいっす。まだ未熟だけど、頼りないかもしれないけど……。あなたは悪くないっすよ。ごめんなさい、気づいてあげられなくて。
「あ、うぁ……ゔぅ、うぁ゛ぁ゛ん!あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……!!」