古き安息地:環境
春風『古き安息地』にて確認されている環境の概要を、大まかなエリアに分けここに記載する。
また、各エリアにおける『最強の存在』を便宜上『支配者』と呼称した上で付記。
※「推定ランク」は「仮に冒険者ギルドにて討伐対象として指定された場合に制定されるであろうランク」を意味する
※特に言及が無い限り、「生物」にはモンスターの類も含まれる。(単に「〜類」と表現される場合なども同様)
【沃土】
広大な面積を誇る肥沃な土地。その栄養を糧に、一面の草原や木々が広がっている。主に草食の生物が生息する他、『人間』の共同体が存在するのもこのエリア。
起伏も緩やかであり、環境も安定。安息地の中でも特に『弱い生物』が過ごしやすい平易な領域と言えるだろう。
人間が食用に出来るような植物も多く自生しており、暮らすにも困らないだろう。もしあなたがこの地に居を構えるつもりなら、ひとまずはこのエリアを目指すことをオススメする。
・支配者
呼称:『モノケロス・メガロス』
推定ランク:A+
概要:体高10mほどの一角獣。温厚な性格だが、悪心を持つ外敵に対しては『雷霆の如き速度』で襲い掛かる。その角は空間そのものに風穴を空けるとすら噂されている。10〜20頭ほどの群れを成す。
仮に群れの全てを同時に相手取るならば、そのランクはA+では済まないだろう。
【森林】
鬱蒼と木々が生い茂る森林。草食性の哺乳類、類人猿に似た生物、大型の昆虫類などが生息。
珍しい果実を付ける木々も多く存在し、特に『ナンビーラアップル』『ガイア』『メテオナッツ』などは外界においては絶滅した希少食材として知られている。
・支配者
呼称:『"エルダー"』
推定ランク:S
概要:森林の中央に聳える、全高200mほどの『意志持つ巨大樹』。森林の木々全てに繋がり、手足の如く自在に操る。この地が竜の庇護下に置かれる以前を知る生き字引とも言うべき存在だが、残念ながら彼は言葉を持たない。
【沼地】
半ば以上が水に沈んだ池沼地帯。大部分にマングローブが生い茂り、その根が『足場』を形成する箇所も見受けられる。全体的に水深が浅く、また不思議と粘性の高い泥に塗れているため舟などでの移動は困難。
湿潤かつ寒冷な気候の中、肉食性の爬虫類や両生類が主に暮らしている。少数ながら竜種の姿もあるようだ。その他有毒の小生物も多く、(敵対者にとっては)比較的危険なエリアと言える。
・支配者
推定呼称:『"異形の知者"ズィーダル』
ランク:S〜S+
概要:三対六本の脚、三本の尾、二つの頭と長い首を持つ巨大な鰐のような生物。見かけによらず高度な知性を有しており、マングローブ林の上に『住居』を構えて暮らしている。戦闘においては自ら開発した武器や道具、そして奇妙な術の類を巧みに使い分けるようだ。二足歩行もできる。
【熱砂】
乾燥した砂と岩ばかりが広がる広大な砂漠、及び荒地。強い日差しが照りつける過酷な環境に適応した、強靭な生物たちが闊歩する。
大型の爬虫類系生物を始め、亜竜や火属性・土属性の魔法生物、巨大昆虫など強力な生物が揃うこのエリアは『生存競争』が許される場の一つである。
エリアの境界の一部は高さ数百mに及ぶ断崖絶壁となっており、そこを陸路で越える道のりはある『奇妙な山』を通るルートのみ。その山からは溶岩が流れ出し、周囲の一角には少数ながら砂漠と異なる生態系が築かれているようだ。
・支配者
呼称:『"空上楼閣"ムルカルミス』
推定ランク:SS
概要:"全容を一目で見通せない"と称されるほどの長大な体躯を持つ生物。全身を堅固な甲殻に覆われ、身体の両脇には無数の脚を備えている。地中、あるいは空中を自在に"泳ぎ"移動する。主な攻撃手段はその質量を活かした突撃の他、脚から発射される"光弾"や俠角を備えた口から吐き出される"光のブレス"。普段は地中から甲殻の一部のみを表出させ眠っている。
【高山】
大陸の中央部を囲むように立ち並ぶ山脈。緑は薄く、無骨な岩肌がそこかしこに露出する険しい環境。最大標高7000mに及ぶこの山脈には、そのためか飛行能力を有する生物が多く生息している。
大型の鳥類や翼竜を始めとした恐竜たちの他、険しい岩肌に適応した比較的小型の哺乳類やヤギも棲息している。
外界において時に幻獣と称される『グリフィン』、『ワイバーン』などの強力な魔物も存在し、総じて厳しい環境であると言えるだろう。幸い彼らは賢く、友好的な訪問者であれば歯牙にかけることはない。
この山脈が断崖を挟み囲う内には、安息地の主が住まう『霊峰』が存在する。
・支配者
呼称:『プテロダクチル・オルトデウス』
推定ランク:S〜S+
概要:外界においては最大級のワイバーンとして知られる種であり、この地においては高山一帯の空を支配する『王者たち』。現代に残されている記録とはやや異なる生態も確認でき、より原始的な種、あるいはこの大陸の特殊な環境により異なる"進化"を遂げた種と予想される。詳細な調査が行われれば、独自の学名が与えられるかもしれない。
老齢の個体ともなれば翼開長30mに及ぶ巨体を持ち、それらが基本的に群れで固まって暮らしている。獰猛かつ勇敢な気質で、外敵と見做した存在には果敢に襲い掛かる一方、同胞(あるいはそれに準ずる者)と見做した存在のことは優しく慈しむという側面も併せ持つ。最高飛行速度は音速を超え、一度敵と見做されれば逃げるのは困難だろう。
【凍土】
雪と氷に覆われたエリア。河川や湖も凍りつき、生命の気配はまばら。
氷属性に適応した魔法生物達が闊歩する中、少数ながら厚い毛皮に覆われた哺乳類や厳しい冷気を好む亜竜の類も生息する。
『常氷魔晶』と呼ばれる鉱物が各所に露出し、それらが形を変えて一見『森』のような見かけを形成している一角も存在。さらには一面に降り積もる雪すらも高濃度の魔力を含有するなど、全体的に『魔力』に依る環境となっている。これはこの安息地に住まう、竜の友たる『魔女』の手によるもののようだ。
このエリアが断崖を挟み熱砂地帯と隣り合っているという事実が、この大陸が尋常の環境ではないということを如実に表していると言えるだろう。
・支配者
呼称:『"絶氷の巨像"』
推定ランク:S+
概要:凍土エリアの中心に佇む人型の巨像。その全身は特に高純度の常氷魔晶により形成されており、全高は40mほど。普段は静止したまま静かに凍土を見守っているが、外敵を察知すると動き出し苛烈な攻撃を仕掛ける。凍土内の"どこにいても"的確に氷魔法での攻撃を仕掛け、接近すればその巨体に似合わぬ機敏な動きで剣を振るう。さらにはダメージを受けても周囲の雪や魔晶を取り込むことで再生するため、戦闘により下すのは困難。凍土を闊歩する魔法生物達の頂点、冷徹なる守護者。
【菌床】
全域を"菌"に覆われた特異な湿地帯。草木の如く菌糸類が生い茂り、土の上には厚く胞子が降り積もる。果ては土壌の底に至るまで菌で満たされており、この地においては彼らこそが生態系の頂点である。
一般にイメージされる菌類の他、「手足を持ち歩く茸」「物理的攻撃能力を備えた胞子を射出する"砲台"を持つ菌嚢」「常人が目視可能なサイズのバクテリア」「植物や鉱物など、多様な特性を模倣する真菌類」など多様な種が確認されている。
この特異な環境は、ある竜の"趣味"によって造られたものであるという。故にこの地は「菌床」と呼ばれるのだ。
・支配者
呼称:『"碩学竜"ゲオウルネド』
推定ランク:S〜?
かつてあらゆる"知"に通じ、敬意を込めて"碩学"の名で呼ばれた古竜。彼の溢れる知性と興味の矛先は、いつからか"菌"に向けられるようになった。
彼は寝食すら忘れるほどに菌を研究し、育て、改良を繰り返し……果ては自らの肉体組織すら真菌に"差し替え"るに至る。言わば"菌糸竜"……あるいは"竜茸"とでも呼ぶべき存在に成り果てたのだ。とはいえその知性や精神にはまるで影響が無いらしく、今日も今日とて呑気に菌の研究に励んでいる。
肉体を置換したことで戦闘能力は大幅に低下したらしく、現時点では推定Sランク程度。
しかし彼は、こうも語っている──
『この菌床は、今や"私そのもの"なのだよ』
【荒野】
見渡す限り目立った生命の気配が無い、酷く荒廃したエリア。濃厚な"死"のマナで満たされており、尋常の生物であれば数時間も滞在すれば衰弱死に至る。しかし、そのような環境でこそ存在し得る住人もいるものだ。
死こそが自然であるこの地には、多種多様なアンデッド達が静かに佇んでいる。本来であれば何らかの渇望や怨念を元に活動する者たちだが、しかしこの地に在る彼らは何も求めない。故、もしあなたがこの地に踏み込むことを望んだとて意にも介さず受け入れることだろう。
ただし、この地からは決して何かを奪ってはいけない。恐ろしい"死神"が、あなたの全てを奪い返すから。
・支配者
呼称:『"死神たち"』
推定ランク:S+
荒野を徘徊する謎の存在。黒を基調とし、真紅の線が血管のように張り巡らされた禍々しい鎧に全身を包んでいる。不可視の馬に乗っているらしく、荒野に蹄のような足音と嘶きが聞こえたら『彼らが来た合図』であるという。
あらゆる"生きた"存在からの干渉を受け付けず、逆にそういった存在に対しては絶対的とも言える攻撃能力を持つ。その能力から、直接戦闘により撃破するのは現実的ではない。決して彼らの怒りを買わないことが"最も有為な対策"と言えるだろう。
荒野を征く死神の列。上記の推定危険度は、あくまで"単体"でのものである
【海洋】
安息地を囲う海域。そのうち、沿岸からおよそ20km圏内かつ水深5000mほどまでの範囲を指すエリア。
大まかに南北に分けられ、多種多様な海洋生物が暮らしている。
生態系にはさほど特筆することもなく、一般的な魚類や水棲哺乳類、元来穏やかな気質の魔物たちなどが静かに暮らしている。南海には『ビーフマグロ』『真珠イワシ』『ホタテ鳥』『電飾ウナギ』などを始めとした俗に言う「食材魔物」たちが実に360種以上棲息している。「食べられる」ことが生態レベルに組み込まれている特殊な種を選んで放流されているため、ここでは特別に"漁"が全面的に許されている。
ただし、北海では漁は固く禁じられているため注意しよう。北の海に住まうのは、小魚の一匹に至るまで全て「住民」なのだ。
・支配者
呼称:『"お喋り爺さん"サー・グンヴェール』
推定ランク:S
海洋エリアを悠々と回遊する大鯨。全長はおよそ400mほど。高度な知性に加え所謂"超能力"を有し、テレパシーによる会話も可能。
他愛のない会話を何よりの楽しみとしているため、もし出会うことがあれば話に付き合ってあげよう。
その気さくな性格と含蓄があったりなかったりするお話の様子から、安息地に住まう知性体たちには「お喋り爺さん」と呼ばれ親しまれている。
時折"かつては人であった"と零すことがあるようだが、その真偽は定かではない。
【深海】
海洋エリアの深み、水深5000m〜海底(およそ水深12000m)の範囲を指す名称。浅い海とは打って変わって昏く、冷たい領域が広がっている。
通常は光も届かぬ暗黒の世界であり、独特の進化を遂げた生物が多く生息している。
外界において「深海魚」と呼ばれるような種の他、海竜種やアンデッド、さらには全長数百メートルにも及ぶ巨大魚や「人型の巨大生物」といった奇妙な存在すらも見られる。しかしその多くはやはり「穏やかな気質」の者が多く、この領域もまた安息地の一部であるということを窺わせる。
あるいは、強者たる余裕の表れなのかもしれないが
・支配者
呼称:『"昏海の旅人"デカオクト』
推定ランク:SS
深き海の底をねぐらとする巨大な不定形生物。その名は古い言葉で「18」を意味するようだ。決して「デカいタコ」ではない。
その名の通り、18の腕を伸ばす姿を取っていることが多い。その正確な全長は不明……というより"不定"であり、その気になれば「海面まで腕を伸ばすこともできる」のだとか。
不明な言語らしき高周波音を発する他、思念を飛ばし、そして"読む"ことで種の違いや言語の有無を超越してコミュニケーションを取ることが可能。しかしその思考は難解であり、只人の尺度では「言葉は分かるが話は分からない」状態になりがちなのだとか。
この謎の生物は日頃から深海の底を蠢くばかりであり、その行動範囲は「世界」と比べればあまりにも狭い。だというのに、彼はこの地の主より確かに「旅人」と称されているのだ
彼の旅路たる"昏き海"とは、いったい何を指すのだろうか
【地底河】
小大陸の地下、六割ほどの面積に至るまで広がった地下洞穴。幾つかの大道に水が流れ、さながら河のような様相を呈している。大陸の至る所に侵入口が空いており、踏み込む"だけ"ならば容易である。
内部には、主に陽の光を嫌う種が棲まう。特に盲目の土竜型獣人や半竜人が多く、随所に彼らの集落が築かれている。そして皆一様に"竜"たるものを崇め奉っているようだ。決して緑豊かとは言えぬ地下において彼らは茸や苔を"栽培"することで暮らしており、時折【菌床】に遣いが赴くこともあるらしい。
また、地底故に多くの領域が暗闇に閉ざされているが、一部には発光する苔類などにより照らされた区画も存在する。こういった場には、不思議と視覚に頼る獣や魔物たちが暮らしているようだ。
・支配者
呼称:『"闇の皇子"ポポロディ』
推定ランク:S+
地底河に棲まう民と"蟲"たちとの友誼の証として預けられ、そしてこの領域の誰よりも強く育った多脚の蟲。六対の脚と堅固でありながら異様に滑らかな外殻を持ち、優れた感覚器で暗闇に閉ざされた地底においても周囲の全てを掌握することが可能。その屈強な肉体は、竜のそれを思わせる埒外の膂力を有している。
現在は地底河の下流域、全ての支流が辿り着く合流点をねぐらとしているようだ。なんでも、10m近くにまで成長した巨体では時折通れない箇所が出るのだとか。
彼は未だ幼く、故に知能はあまり高くない。しかし非常に人懐っこく温厚であり、近づく生命には実に友好的な興味を示す。本能的に力加減にも長けるらしく、安息地の生物たちはおろか只人の幼児とすら楽しく遊ぶことができるようだ。
この異様な蟲の姿に怯えず、その親愛に応えることができるのなら……の話だが
【巌窟殿】
地底河の終端、落差数千mにも及ぶ大瀑布の直上に設けられた神殿。この地の竜を崇める"信徒"たちのうち、特に"地の底の御方"に仕える一派が築いたもの。信徒たちが昼夜を問わず"底"に座す竜へ祈りと儀式を捧げている。地底河とは、この信徒たちにとっては巡礼の道でもあるのだ。
その性質上、内部には信徒──特に"御許で祈ることが許された"上級司祭が常駐しており、半竜半人や半竜半獣、中には亜竜にまで至った者たちがひしめき合う。万が一敵対者が迂闊にも踏み込めば、生きて出ることは困難だろう。
半身以上の竜体に至ったものだけがこの神殿に足を踏み入れることを許され、余生の大半をここで過ごす。そして、やがて朽ち果てる日には滝壺へと身を投げるのだ
それは地の底に棲む竜の言い付けであり、彼の者が忠実なる信徒に与える最期の褒美である
・支配者
呼称:『"翼無きもの"アーミカール』
推定ランク:S+
"地の底の御方"に仕える最高司祭であり、強大な力を秘めた"竜"。その様相は翼無き地竜のそれとして表れ、前脚で錫杖を保持している。多種多様な"竜言語"による術を操り、いくつかは"詩"の域に達している。
その名は「忠実なるしもべ」を意味し、最高司祭が代々受け継ぐ栄誉である。
当代のアーミカールはかつて神殺しとすら謳われた獣であり、無謀にも王に挑まんとしてこの地を訪れた。しかし王への拝謁すら叶わずに敗れ、その偉大さを知り信徒となったのだ。
やがて彼の真摯な祈りは、その姿を竜へと変えた
【竜の湖】
地底河の果てにある大瀑布。その底には広大な空洞があり、下部は"灰色の水"で満たされている。それはさながら湖の如き様相と言えるだろう。
灰の水は濃厚な竜の気に満たされており、尋常の生命であれば近づくだけで生命を蝕まれる。故にこの空洞には、"支配者"を除き生物の姿は無い。また、この灰の水は桁違いに比重が重く、この地に存在する大半の物質・生命が"浮く"のだという。
静謐なる空閑。一国の領土にすら匹敵する広大な洞に、しかし在るのはただ静かに揺れる灰色の湖だけ。
それもそのはずである。此処は、ただ彼のために用意された"私室"なのだから
・支配者
呼称:『"死灰竜"ゴルディヴォン』
推定ランク:SS以上
竜の湖と呼ばれる空間。その底を満たす"灰色の水"の正体は、太虚竜の友たる古竜の一。翼無き灰白の古竜、"そのもの"である。
湖を成す不定形の液体全てが彼の肉体であり、それらが一滴すら残さずに消滅しない限り滅ぶことはない。また触れる物を有機・無機……あるいは生死、存在の有無を問わず"喰らい"己の糧とすることができる。その際、喰われた魂は望むならば魂のまま竜の身に残ることを許されるようだ。
永い時の中、多くの大地を喰らい膨大な質量を得たこの竜は、やがて友が築いた安息地の底を掘り"私室"を拵えた
己にも、あるいは友にすらもその身が放つ竜気を抑えることは出来ず
しかし、"小さき生命"を慈しんだために
【蟲塚】
【母の褥】
【顕れし相反の座】
【静かなる友の座】
【爪痕】
王の棲まう霊峰の周囲を囲う断崖。その底は昏く、上方より見通すことはできない。このエリアの上空には特殊な結界が"下向きに"張られている。すなわち、"下方から上方への"移動を制限するものだ。
結界の"外"……つまり一定高度以下の範囲から谷底までは、この安息地において例外的に『安息が約束されない』。寛大なる王にすら半ば見捨てられた谷底には、奇妙な汚泥の如き存在が蠢いている。
彼らは、かつて確かに生命であり
しかしこの昏き谷底は、その尊厳を溶かし尽くす
・支配者
呼称:『"死骸"』
推定ランク:-
爪痕の底、何処かに遺棄された何者かの死骸。その正体は杳として知れず、何時から其処に在るのかも分からぬ"身元不明の死体"である。
"死骸"を目視することはできない。"死骸"の放つ臭いを嗅ぐことは出来ない。"死骸"は一切の音を発しない。"死骸"そのものも発した影響も味わうことは出来ない。"死骸"に触れることは出来ず、触れたとて何も感じない。
しかし、"死骸"は何処かに必ず在る。そう、確信させられる。そして爪痕における惨状、生命に発現する異常はこの"死骸"により齎された影響であると考えられている。根拠も無く、皆そう認識している。
爪痕に堕ちたものは皆須く"死骸"に怯えながら、しかし後ろ髪を引かれるようにこの昏き谷底を終の棲家と定めるようになる。そして、やがて彼らはその「素晴らしさ」を広めるため上方を目指し始めるようだ。
この谷底に在る者は、"死骸"に支配されている
王はこの地を『棄てられた地』と定め、決して安息が齎されぬ彼らを封じ込めるべく『空の天蓋』を降ろした。
だが、彼は決して"死骸"そのものを排しようとはしなかったのだ
【王の座】
【大海淵洞】
【追憶の揺籠、フォメロポリス】