口内炎(潔氷)
「何モゴモゴしてるん?」
「いや……口内炎出来ちゃったみたいなんだよ」
「あ〜そら気になるな。見してみ?」
言われるがまま、あ、と口を開けた潔。氷織が口内を覗き込んだ。確かに頬の内側に口内炎があって、痛そうやなあと氷織は思う。
「ほんまや。これは気になるな」
「だろ? つい意識しちゃうんだよな……んむ!?」
ふと思いついて、氷織は潔の頭を両手で固定すると噛み付くように口付ける。そして潔の口に舌を滑り込ませ、舌先で口内炎を突いた。潔は急なことに驚いて反応が遅れてしまった。突かれるたび、ビリビリとした痛みが走る。痛みで舌は引っ込んでしまって、氷織の舌を押し出すことも出来ない。潔は驚きで外れてしまっていた視線を氷織の方に戻し、氷織の目がじっと自分の顔を見ていることに気付く。痛みで潔の顔が強張るたび、氷織の顔は柔らかく綻んだ。
「ん、ぷは、ふふ、潔くん可愛い……」
「急になんだよ。痛いだろ」
「ちょーっと魔がさしてもうてん。許してくれる?」
こて、と首を傾げてみせて、氷織は潔を見下ろした。最近氷織はちょっと魔がさしたと言ってこうした悪戯をしてくることがある。それが氷織なりの甘えだと潔は気付いていたから、毎回なんとなく受け入れてしまっている。その都度反撃もしているが。
機嫌良く笑う氷織がもう一度唇を重ねてくる。今度は潔も遅れることなく反応できた。さっきまで頭を固定していた手は、いつの間にか潔を抱きしめるように回されている。どうやら悪戯の気分は終わったらしい。そうは言っても氷織の舌はまた口内炎を突こうとしてくるので、潔は舌を絡めることによって止める。
しばらく攻防を続けていると、氷織の呼吸が乱れてきていることに潔は気づいた。目も潤んできている。
「んぅ、ぁ……いさぎくん、ぅ」
氷織の舌先に潔が軽く歯を立てると氷織の体がふるりと震えた。形勢は完全に逆転した。動きの鈍った氷織の舌に舌を擦り合わせたりしながら、潔は氷織をさらに追い詰める。ずるずると膝を折った氷織は、下から潔を見上げる形になった。
「はあ……もう。潔くんには敵わんな」
「そう?」
「今日は僕が攻めたい気分やったんやけどな」
でも氷織って割と舌弱いし。そう言った潔に氷織はムッとした顔をしてみせた。それは顔立ちが可愛らしいせいでいまいち怖くはなかったが。ぐい、と流れた唾液を手荒く拭って、氷織が潔を呼ぶ。屈めと言うことらしい。
しゃがんだ潔の首に手を回して、氷織は体重をかける。つんのめって覆い被さってきた潔の耳元に氷織は口を寄せる。そしてひそひそと囁いた。
「僕をこんなんにしといて、このまま放っとくほど薄情ちゃうやろ、な、潔くん?」
潔が耳を抑えて身を離した。その顔はほんのり赤くなっている。
「もお……部屋行くか」
「運んでくれるん? ありがとお」
実を言うと足腰がガタガタになってしまって上手く歩けそうにない。潔の背中に負ぶさって、俺の方が氷織には敵わないよ、なんて声に氷織は笑う。
「潔くんに勝てる人なんておらんと思うよ」
現に自分がそうなのだから。