単発ss 前編
邂逅A:スランプ、お助けウマ娘
「わわっ、ちょっと持ちすぎた……バランスが……あっ!」
ある日のトレセン学園内、廊下。大量の荷物を抱え移動しようとしていた一人の生徒がいた。
彼女は高齢の教員が重そうに荷物を運ぶ姿を目にし、自分が教室まで運ぶと言い出したのだが――見積もりが甘かったらしく、足元がふらついていた。
そしてついに完全にバランスを崩し、転倒。このままでは危ない――そう誰もが思った瞬間。
「大丈夫ですかっ!」
助けの黒船が来航する――キタサンブラックである。
咄嗟に割って入った彼女は、荷物ごと倒れ込んだ生徒を抱き支えていた。
ありがとう、と言う生徒へ、彼女は返す。
「いえいえ、怪我がなくてよかったです!じゃあこのまま、荷運びも手伝いますね!」
にっこりと笑うキタサンブラック。しかし、次の瞬間――
「あれ、えっ!?」
彼女もまた、足を滑らせてしまったのだ。生徒と荷物の下敷きになるキタサンブラック。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……あたし、身体は丈夫ですから……」
腕を突き上げ、サムズアップのサインを送るキタサンブラック。
そんな彼女の姿を、遠巻きに見つめていた人影があった――
「と、いうわけなんです」
「確かに珍しいが……たまたまじゃないのか?」
そして少し経ち――話し込む男女の姿があった。
一人はサトノダイヤモンド。キタサンブラックの親友であり、ライバルであるウマ娘。
一人は浮世英寿――仮面ライダーギーツであり、キタサンブラックのトレーナー。そして――現、《神様》でもある男。
「それが、ここ最近どうにも空回りしてる感じなんですよね……必要以上に張り切ってる、というか」
ダイヤの話を聞き、英寿は考える。
思い当たる節がないわけではない。最近のキタサンブラックは、確かにどうも空元気のような雰囲気を感じる時があった。
だが体調そのものは良好、本人に問うてみても大丈夫ですと返され――何か確証があるでもないため追及しづらい状態であったのだ。
しかし、このまま続けば心身ともに支障をきたすのは明白だ。彼は意を決す。
「そうか。一度ちゃんと話してみるか……情報、ありがとな」
「いいえ、こちらこそお願いします」
「任せとけ」
ひらひらと手を振り、英寿はその場を後にする――
「なぁ、キタ」
「なんですか?」
そしてトレーナー室――向かい合わせに座って計画を練る最中、英寿が切り出した。
いつもと変わらぬような反応を返すキタサンブラックであったが、英寿は彼女の僅かな違いを感じ取っていた。そして問う――
「お助けキタちゃん……最近失敗続きなんだって?」
「ななな、何でそれを!?」
「当たり前だろ?俺はお前のトレーナーで、神様だぜ?」
少しいたずらな笑みを浮かべ、指で狐を形作る英寿。
そんな彼の言葉に、キタサンブラックは大きく息を漏らし――
「やっぱり、トレーナーさんに隠し事はできませんね……そうなんです。実は最近、悩んでて」
「悩み?」
「はい……あたしのお手伝いって、ただの独りよがりなんじゃないかって……」
「誰かにそう言われたのか?」
「あ、いえいえ。そうじゃないんですけど。ただ、ほんっとーに……ふと思っちゃって」
「それからズルズルと……か。何で相談しなかったんだ?」
「……だって、カッコ悪いところ見せたくなかったんです」
頬を膨らませ、不満げにぶーたれるキタサンブラック。そんな彼女へ暖かい目線をやりながら――英寿は言う。
「なら、お前の相談相手になれそうな奴が一人いるが……どうする?」
「え、いるんですか?」
「ああ」
椅子をがたっと揺らし、立ち上がるキタサンブラック。
果たして、その相手とは――?
「おーい英寿!」
「おっ、来てくれたか」
「あれは……五十嵐トレーナー?」
そして数刻後の中庭。遠方より手を振って駆け寄る一つの影あり――
仮面ライダーリバイこと、五十嵐一輝である。
「すまないな、急に呼び立てちまって」
「気にすんなって、俺と英寿の仲だろ?」
「流石は日本一のお節介、頼もしいぜ」
「……あっ!」
そんなトレーナー二名のやり取りに何かを察したキタサンブラックは、言葉を漏らす。
「察しの通りだ。お前の悩み、リバイに相談してみたらどうだ?こいつも昔、似たようなことで悩んでた時期があるらしいからな」
「参考になるかはわかんないけど……よろしくな!」
「……はい!お願いします!」
「……と、いうわけで」
そして五分ほどが経過したのち。一通り話を終えたキタサンブラック。
「そっか……なるほどな」
彼女の言葉に理解を示したのか、一輝は深く頷いた。
「自分のお節介が誰かにとって迷惑になってないかが怖い、ってことだよな?」
「そうなんです……」
耳をへにゃりと曲げ、落ち込んだ様子を見せるキタサンブラック。そんな彼女へ、一輝は少し間をおいて告げる。
「うーん……でもさ、そのままでいいんじゃないか?誰かを助けたい、っていう気持ちは君の本当の気持ちなんだろ?」
「でも、余計なお世話だって思われたら……」
「それでも、助けられずに後悔するよりよっぽどマシだと俺は思うな」
「そういうものなんですかね……?」
「そうそう!俺も昔、言われたことがあってさ。『お前は日本一のエゴイストだ』って。そりゃその時は悩んだけど……今は違う。助けが必要な人がいるなら、俺は迷わず手を伸ばす。例えお節介でも、見て見ぬ振りなんてできないから」
「だから君はそのままで……ありのままのキタサンブラックでいればいいんだ」
「五十嵐トレーナー……」
一輝の言葉に、何処か安心したような表情を見せるキタサンブラック。
「と言っても、俺の相棒の受け売りなんだけどさ。参考になった?」
「……はい!ありがとうございます!」
照れくさそうに笑う一輝に、力強く答えるキタサンブラック。
そんな二人のやり取りを眺めていた英寿が、口を開く。
「ある人が言ったらしいぜ?『優しさを失わないでくれ』……ってな」
「トレーナーさん?急にどうしたんですか?」
「昔聞いた言葉さ。お前さんたちの話を聞いてたら、ふと思い出してな」
「へぇ……誰の言葉なんだ?」
「いや、俺も人づてで聞いただけだ。偉大な先人の言葉らしい」
「それよりキタ。どうだ?何か掴めそうか?」
「はい!バッチリです!もううだうだと悩むのはやめにします!」
その表情はうって変わって明るいもので――嘘偽りがないことが見て取れた。
それを確認した英寿はフッ、と笑い、頷く。
「それにしてもトレーナーさん、そんな言葉を知ってるなら何で直接言ってくれなかったんですか?」
「照れくさいんだよ。ほら、英寿のやつキザなとこあるだろ?」
「リバイ!」
「ホントだ、照れてますねトレーナーさん」
「キタ……お前まで!あっ!この!待て!」
二人して逃げ出す一輝とキタサンを追い、駆け出す英寿。
「照れんなって英寿!」
「リバイ!こんの……スシロー奢らないぞ!?」
「あっ!それはズルいぞ英寿!」
「照れたトレーナーさん、けっこう可愛いと思いますよー!」
「クッ……この、お前らぁぁ―!」