(単発SS)(貢ぎ物の一部を整理するオフの兄ちゃ)
女王様と言えば真っ赤なルージュ。
そんなイメージがあるからか、冴にリップティントやリップバームをプレゼントしてくる者は夏場の蚊よりも多い。
普段使いする趣味は無いが、マゾ犬どもに褒美としてねだられればそれを唇に塗って白いシャツに赤い花を咲かせるくらいはしてやっている。
べっとりと衣服に残ったリップマークをマゾ犬どもは家宝にしますと喜び泣いて持ち帰り、本当に額縁やガラスケースに入れて飾ったりするので冴は密かにスペインの将来が心配になっていた。
「ルージュ・エルメス、クリスチャンルブタン、シャネル、イヴ・サンローラン、ディオール……」
高級ブランドの名前を読み上げながら貰い物の口紅を使用済み、未使用で選り分けていく。
使用済みの物は適当にしまっておいてまたマゾ犬がおねだりしてきた時に使うが、未使用のブランド被り物は実家に送って母親にでもあげる予定だ。
こんなもの部屋にいくつも置いておいたら予備で廊下まで埋まってしまう。キャバ嬢は客たちに誕生日プレゼントをねだる際同じブランドのバッグばかり要求しておいて、いざいくつもそれが手に入ったら1、2個を手元に残し後は売り捌くという。客たちの前ではその残しておいたバッグを「貴方からの貰い物よ」という顔で見せつけるのだ。冴も近いことをやっている。だってやらないと貢ぎ物で寝る場所も無くなるし。
「クレ・ド・ポーボーテ、ジルスチュアート……あ? 何だこれ」
紙袋から包装された化粧品やスキンケアライン以外の物が転がってきた。
箱に入ったそれを開けて見るとダイヤモンドの輝く指輪がある。目測5カラットは堅い。ダイヤの結婚指輪の平均的なカラット数が1に満たないことを考えると庶民としては相当に奮発しているだろう。
輪っかの内側には『A to S』と恐らく贈り主と冴のイニシャルが刻まれている。頭文字Aから始まるマゾ犬という条件だけではチーム外も含めると候補が100人を超えるため、残念ながらこのイニシャルだけでは誰からのプレゼントなのかもわからない。
とはいえこんな形で紛れ込ませるくらいなら、渡したいだけで実際に結婚したい訳でもない筈だ。そもそもこれより大きなダイヤモンドの指輪を「結婚して下さい」と片膝ついて贈られたこともある。これも実家に郵送しよう。