(記事はこの後取り下げさせた)
「こいつとの関係? そうだな、一緒に闇オークションで売られかけたりSM倶楽部のS役に誘われたりした仲だ。あと同じ豚野郎を2人で踏んだこともある」
いつだったか、糸師冴が平然とした顔で記者相手にそんなことを言ったものだから。
ミヒャエル・カイザーはその時から、世間様において『あの女王様』の類友で人を足蹴にしては高笑いするドSの麗人であり、そうなったキッカケは過去に人身売買の被害に遭う等の悲惨な幼少期を歩んできたからだ、という印象になった。
部分的にはだいぶ間違っていないのが尚のことタチの悪い風評被害だ。
「……また嘘と事実がごっちゃになったクソ不愉快な記事が出てやがる」
練習後のシャワー上がり、髪の毛をタオルで拭きながらスマホでニュースを確認していたカイザーは、検索エンジンのニュース欄に『ミヒャエル・カイザーと糸師冴、大富豪と夜の密会! 高級ホテルで枕営業か!?』なんてタイトルが載っているのを見て舌打ちした。
オフの日にフランスまでショッピングに行ったらたまたま同じ目的の冴とかち合い、予約していたレストランが偶然一緒だったという怒涛のミラクルから始まったあの1日のことだろう。
確かにレストランでは金を持ったフランスの老紳士に絡まれ……というか口説かれ、お高くとまった美青年を泣かせたい性癖の滲み出たそいつにフランスで最も値の張るホテルのスイートルームに強引に誘われた。
政界にも顔の利く権力者に見初められて体を狙われるという凄まじいアクシデントだが、幸か不幸か冴と共にいるとこういうイベントはよく起こる。そしてカイザーが巻き込まれる。いつものパターンだ。
断ると面倒だからついて行くぞ、また犬にするから問題ない、と真顔で耳打ちして来た冴の言葉に、カイザーもあいあいと返して大人しくベンツに乗り込んで。
連れて行かれた先の最高級ホテルの一室にて。気取った老紳士があられもないマゾ犬と成り果てるのと、冴がこういう時のために携帯している鞭を華麗に振り下ろすのを、ミネラルウォーターを飲みながらぼんやりと座り眺めていた。
全裸で様々な体液を撒き散らしたのはあの老紳士だけであり、冴もカイザーも上着さえ脱いでいない。事の真相はこうなのに、記事の文面では2人してベッドで老紳士に娼婦の真似事をしたような書かれ方をしている。