(単発SS)(冴に尽くしたがるマゾ犬どもと冷淡に受け入れる冴の日常風景)
偉い人間は上座につく。
偉くない人間は下座につく。
超偉い女王様は玉座に君臨する。
これがレ・アール下部組織の常識である。
マカボニーとベルベッドで作られたロココ調のアンティークチェア。
背もたれには王冠を模った彫り物や金のボタン留めが施されており、猫足といい白とピンクを基調にしたカラーリングといい、クイーンよりはプリンセスの趣があった。
冴の玉座の準備は希望したマゾ犬たちの持ち回り性で、今日はこの少女趣味に走った椅子がそうなる。
自分自身が玉座になるから尻を置いて欲しいと申し出ては冴に蹴り飛ばされるマゾ犬が定期的に湧くのも恒例行事だ。
「冴、お水をどうぞ」
「女王様。軽食のフルーツの盛り合わせです」
「靴をお磨きいたします。いやさせて下さい」
座り心地は最高だが趣味には合わない玉座に真顔で座ってミーティングの開始を待つ冴の周りには、命令しなくても女王様に奉仕したがるマゾ犬どもがわらわら群がってくる。
一本で千円以上するミネラルウォーターをバカラのグラスに注いで差し出してくる者、いかにも値の張りそうなシャインマスカットや大粒のイチゴを皿に盛って捧げてくる者、冴が履いてるスニーカーを本格的な靴磨きセットを持参して自主的に手入れしたがる者。
それら全てに冴は礼も言わず、水を一口だけ飲んだりフルーツの気に入ったものだけ食べたり靴磨き野郎に気を遣わず脚を組み替えたい時は自由に組み替えたりしている。
だっていちいち目を合わせたり礼を言ったりすると、こいつらは舞い上がって次からもっと凄い物を持って来るし凄い事をやろうとするのだ。
それが嫌ならクールにドライに接して放置プレイで勝手にゾクゾクさせておくのが1番マシである。昔これをミスしてまともに反応してしまった結果、もっと喜ばれたいとヒートアップして貢ぎ物を用意し続けたマゾ犬どもの中から数名の破産者が出てしまった。
飼った覚えは無くてもそれを自称する同じチームの犬が草臥れて死ぬのは流石に寝覚めが悪い。冴は女王様として、当社比あまり金持ちではないマゾ犬が貢ぎ物のために臓器を売ったり闇金融に手を出そうとすることだけは避けねばならない。
ただし部外者のマゾ犬は勝手に貢いで勝手に死んでも知るかのスタイルである。