卒業
――もう、いいのかな、全部投げ出したって。
――もう、いいのかな、諦めたって。
私がやってきたことなんて、所詮は誰かの真似事でしかなかった。
だれかの真似をしたって、どれだけ取り繕ったって、結局私は、ユメ先輩にも、"先生"になんてなれっこないんだから。
「せ……い!」
――あぁ、でも……あの子達を置いていくのは、無責任かな、"先生"、でも、私には……もう……。
「せん……!」
遠くから声が聞こえる気がする、誰だったっけ……。
「先輩! 何してるんですか!」
あぁ……セリカちゃんだ、この声色と調子、優しい子だったなぁ、私が、死なせちゃったけど。
「先輩? ボーっとしちゃって、どうしたんですか?」
だからこれは、私の現実逃避で、都合の良い、幻覚なんだ。
セリカちゃんは、きっと私を恨んでる、守るって約束したのに、大丈夫って言ったのに、最期まで痩せ我慢して、私が弱かったから……。
「先輩! ようやく見つけましたよ!」
あ……今度は……アヤネちゃんかな……。
私がもっとしっかりしていれば、助けられたはずだったのに……。
どうして私は……いつも……肝心な時に何も出来ないんだろう。
「……ホシノ、先輩、やっと追いついた」
……この声、きっと、おっきい方のシロコちゃんかな……私達を庇って……私がやるべきことだったのに……ごめんね……、私が、私が弱いから、また、辛い思いさせちゃったよね……。
「ホシノせんぱーい、またお昼寝ですか~?」
ノノミちゃん……ずっと、付いてきてくれたのに、結局私のせいで……ごめん……ごめんなさい……。
「先輩、早く起きて、みんな待ってるよ」
シロコちゃん……痛かったよね……ごめんね……私が……
「ホシノちゃん、顔を上げて」
"ホシノ、顔を上げて"
ユメ先輩……?先生……? なんで……? 私なんかが……二人に合わせる顔なんて無い……学校も、後輩も守れなくて、一人だけ逃げて……何も出来なくて……。
ごめんなさい……二人共、ごめんなさい……私は、二人が託してくれたものを何一つ守れなかった……。
全部全部、無くなっちゃった。
"ホシノ、違うよ"
「ん、痛かったけど、苦しくなかった、ちょっと怖かったけど、寂しくなかった、先輩がずっと守ってくれてた」
「ん……私も、辛くなんてなかった、今度こそ、先輩を守れたから」
「そうですよ~ホシノ先輩、私達は先輩を恨んでなんて居ないですし、私達のこと今でもず~っと、大切に想ってくれてるの、知ってますよ」
「そもそも言いつけ破って勝手に出ていっちゃったのが悪いんだし。謝るのは私の方ですよ、先輩」
みんな、そんな都合の良いこと、私なんかが許されて良い訳がない、何も守れなくて、全部取りこぼして、何一つ残せなくて。
「ホシノちゃんは誰よりも頑張ってくれてたの、知ってるよ」
ユメ先輩まで、違う、違う、こんなの、私が見てる都合の良い幻覚で、私は
"ホシノ、良く聞いてね"
先生……?
"ホシノが今まで受け継いできたものや、抱えてきた痛みは無駄なことじゃないんだよ"
でも……痛みなんて……みんなのほうが、先生達のほうがずっと痛くて苦しかったはずです……それに比べたら私が苦しいって思うことなんて……
"ホシノが今、苦しいと思って、私達を想って涙を流しているのは"
"私達を大切にしているからだよ"
"その優しさが、ホシノの一番の強さだと、私は思うよ"
先生、先生……! 私、ずっと、ずっと……みんなが私を恨んでるんじゃないかって、ユメ先輩も、先生も、みんながっ……!
ずっと、ずっと怖くて、ずっと苦しくて、少しでも先生に近づけるようにって思って……! 先生と同じになれるようにって……! でもっ……わかっちゃって……ただの真似事でしかないって、ユメ先輩のときと同じだって……! ごめんなさい……! ごめんなさい……!
「ホシノちゃん、ホシノちゃんが私達のことずっと、忘れないでいてくれてるの、知ってるから」
「ホシノちゃんが、ずっとずっと、私の為に必死だったこと、わかってるよ」
「そうですよ先輩! だから泣かないでください! ほら、私達の後輩だって、ホシノ先輩のおかげで元気になったじゃないですか!」
「間違いないですね、ホシノ先輩が頑張ったからみなさん、あんなに元気になったんだと思います」
「ん……先生と同じじゃなくたって、ホシノ先輩は、大人、だと思う」
「ホシノ先輩がみんなを笑顔にしようと頑張ってるの、知ってますからねっ☆」
「ん、先生は先生だし、ホシノ先輩はホシノ先輩」
"ホシノ、私達を大切に思うのと"
"それを理由に自分を責める事には"
"大きな違いがあるって、わかってるよね"
"もう、自分を傷つけなくても、いいんだよ、ホシノ"
「ホシノちゃんが痛いって思うのは、悪いことじゃないんだよ、泣いたって良いんだよ、ホシノちゃん」
先生……皆……ごめんなさい……! 私、自分勝手で! 皆のこと勝手に考えて、酷い風に勝手に思い詰めて……! 皆のこと信じるって、守るって、ユメ先輩の時みたいにしないって、誓ったのに守れなかった……! 嘘つきで……! 弱くて……! ごめんなさい……!」
"大丈夫だよ、ホシノ"
"ほら、顔を上げてごらん"
「あ……」
皆、怒ってると思ってた、恨んでると思ってた、けど全然、違ったんだ、みんな、私のこと……ずっと心配、してたんだ。
馬鹿だなぁ、バカだなぁ、私、あんなすぐ近くに居たのに、こんなにあったかかったのに、なんで、なんで忘れちゃってたんだろう。
私が勝手にユメ先輩の事で考えすぎちゃった時、必死になって手を伸ばしてくれた人たちなのに。
あぁ、どうしよう、嬉しくなってしまう、みんなが笑顔で居てくれる事に、みんなが待っていてくれることに。
でもどうしてだろう、手を差し伸べてもらわなくても、どうすればいいか、分かる気がする。
それは、"大人"になったからかな、それとも、みんながもう居ないって、わかってるからかな。
「うへ……うん、ごめんね、皆、私のわがままに付き合わせちゃって」
ちゃんと後輩たちには謝らないと、だよね、ずっと私の強がりを許してくれていた、優しい後輩たち、大切な大切な後輩たち。
ごめんね、大変な思いさせちゃって。
「……ユメ先輩、ずっと、謝りたかったんです、あの時のこと」
誰よりもお人好しで、誰よりも真剣にアビドスのことを考えていたのに、あの時の私は眼の前のことに真剣になりすぎて、ユメ先輩の事、ちゃんと見られてなかったな。
ごめんなさい、遊びだなんて言って、私のこと、誰よりも考えてくれていたのに。
「先生、ありがとう、また間違えちゃうとこでした」
ずっとずっと寄り添ってくれて、ずっと見守ってくれた、私のことも、後輩たちのことも。
今までは、先生の生徒だったから間違えても良かったけれど。
だからこそ、もう、先生に甘えて責任を取ってもらうだけじゃなくなったって、見てもらわなきゃね。
「みんな、ありがとう、みんなの痛みがあったから、私は諦めなかった」
「惰性で生きてるだけだって思ってたけど、違ったんだ」
「みんなが遺してくれたもの、先生が教えてくれたこと」
"今度は、私が伝えて遺していくから、まかせて"
大切な後輩たちと、ハイタッチ。
ユメ先輩と、おっきい方のシロコちゃんと、優しいハグを。
"これからの生徒たちのことを、よろしくお願いします、先生"
"うん、まかせて、「先生」"
先生から、カードを受け取って。
私は
私は、やっと自分で自分を呪うことから、"卒業"できた。
"いってきます"
「「「「「「"いってらっしゃい、ホシノ先生"」」」」」」
"大人のカードを出す"