千代の都に黄金の落葉・魔剣邂逅

千代の都に黄金の落葉・魔剣邂逅


これは、あり得ざる邂逅ーーー

本来交えざる2つの聖杯戦争。異なる時、異なる場所で行われた戦いが、此処に重なり合う刹那

既に幕を下ろした筈の者達が、二つの聖杯によって今再び集う

少年の前に降り立った一騎のサーヴァント。少年は目の前の事象にただ驚愕する他はなかった

「主……私は、何故?」

「ら、ライダー!?」

一体何故、最早聖杯戦争は終わった筈なのにーーー

彼らの戦いは既に終結した。少年は己がサーヴァントと別れ、己の道を進む筈だった。それがこうして、二度と会うことのない筈の相棒とこうして再会を果たす事となったのだ

喜びもあったが、それよりも困惑と疑問が埋め尽くす。しかし、その疑問を口にするよりも速く、自身の相棒が腰の得物に手を掛けた

「ーーー何奴!」

少年のサーヴァント、ライダーは少年が反応するよりも一手疾く、その側を風のように駆け抜ける。夜の闇、その奥に感じ取った気配へ目掛け迷う事なく太刀を抜き放つ

「ーーー」

闇の奥、薄らと見える人型の輪郭、その首筋へと刃が迫る。サーヴァントの、その更に速度に優れたライダーの剣閃は鋭く、闇に潜む何者かが誰であれ、その太刀筋に反応するには余りにもライダーは素早かった。戦の天才と謳われたライダーは相手の都合、間など何も考えない。悉くが己の間と呼吸を押し付けるのみ

そんなものに対応出来る物など、この時代に生きる人にとても居るわけではない


「ーーーぬぅっ!?」

故に、対応する物はこの時代に生きる物ではなく、異なる時代を生きた存在だろう。ライダーの放った斬撃。相手の不意をつくかのような颯の一刀は火花と共に弾かれる

ライダーは弾かれた勢いを殺さず、逆に利用するように体勢を反転させ流れるように太刀を返す。しかし、その攻撃も再び弾かれ、闇の中で煌めく様な紅軌跡がライダーの太刀を押し返した

「っ!」

重いーーー

ライダーが感じた印象はそれだ。闇から繰り出された反撃は剣による物で間違いない。恐らく、思わぬ再会を果たした自身の主には、紅い光芒が閃いたようにしか見えなかっただろうが、天才たる自分の目には、それが西洋の長剣に類するものである事は見て取れた

更に、自身の剣を弾かれたときの手応え。余りにも強烈な衝撃が太刀を通して腕を駆け抜けていったーーー

これ程の衝撃は以前対峙したあのセイバー。邪竜殺しの大英雄のそれを、ともすれば超えているやもしれない。そう感じるほどに強烈なものである

弾かれた勢いで地面を削りながら後退し、足元には足の幅で真っ直ぐに闇の奥から此処まで退がった痕跡が砂煙と共に刻まれている

「ライダー!」

後ろから主の声と共に彼がやって来た。それを手で制し、言の葉を投げかける

「主、折角の再会ですが、下がっていてください」

ライダー……」

サーヴァントである自身の攻撃に対応するばかりか、こうして弾き飛ばせるような存在など、それこそサーヴァントしか居ないだろう。原因は不明ながら、自身がこうして再び現界を果たした以上、対峙している敵手も同じサーヴァントである事は間違いないと判断した

であれば、何らかの原因で聖杯戦争が再び始まろうとしているのか。それともーーー

「姿を見せろ!」

闇の奥、此方の攻撃を防ぎつつも最低限の反撃しかせずに、闇から出てこない相手に声を掛ける

闇に紛れているとはいえ、アサシンにしては気配がはっきりと感じ取れる。そもそも己の武芸、暗殺者如きに容易く防げる程軽いものではない

「ーーー成程」

闇から聞こえて来たのは男の声。ライダーと、彼が主人と呼ぶ少年ーーー神永隼人にもはっきりと聞こえた

「どうやら、聖杯戦争そのものが歪められたと言う事か……」

暗闇から此方は近づく足音がする。そして、足元から徐々にはっきりと浮かび上がる2人の輪郭

当然か。サーヴァントがある以上はその存在を繋ぎ止め、主従の約を結ぶマスターが存在するのは必定。このライダーに主がいるように、向こうにもマスターが居るのは当たり前である

先に姿を現したのは、画面の男。背丈にして凡そ180近い、紅の剣を握る戦士然とした存在。ライダーと刃を交えたのもこの男だろう

そしてもう1人、仮面の男のやや後ろから姿を現したのは黒いコート姿の青年。背丈はセイバーよりも若干高く、濡れ羽色の髪をしていた

「八騎目のサーヴァントとマスター。やはり、聖杯の異常と関係がありそうだな」

「マスター。では……」

「ああ」

現れた一組の主従。それは知らないサーヴァントとマスター。嘗て神永隼人が戦った聖杯戦争では存在しなかった彼ら

一体、何が起きているのか全く持って不明。未知と不思議の中で何が起きているのか訳がわからない事が多過ぎるものの、わかる事も一つだけ存在する

「主」

「…….ああ」

これが聖杯戦争だと言うのなら、戦わなければ生き残れないと言うことだけは、嫌というほど味わって来たのだから

「あっちもやる気みたいだからな。頼む、ライダー!」

「おまかせを!」

太刀を構えるライダーと自身。それに対して相手はあくまで自然体のまま

「始めようセイバー。相手が誰であれ、状況がなんであれ。俺達は勝つ」

「委細承知、魔剣起動!」

画面のサーヴァント、セイバーが構えるとその手にした剣ーーー魔剣と呼ばれた紅剣から膨大な魔力が迸る。その魔力だけでも思わず圧倒されてしまう。相手は、あのジークフリートに劣らない存在

それを肝に銘じて、覚悟を決める

「行くぞ、ライダー!」

「やれ、セイバー」

ここ、千年の都に再び、沌なりし交わりの戦いが始まった

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