包帯ぐるぐるの死にかけのおれとどこまでもやさしい隊長殿SS
・おれだよ
・おれ
・隊長と軽いキスをするおれがいます
・おれは隊長に惚れています
「貴様は、お前は……っ、何を言ってるんだ……!」
任務を無事完了したと報告しながらベッドに横たわるおれは、なぜかドレーク隊長に抱き留められていて、そのまま天井を眺めている。この図体のでかい男は案外繊細な人の扱いを心得ていて、穴だらけの身体が壊れないように優しく抱いた。
あの夜みたいだった。
「隊長殿は、おれのことが好きなんですか」
包帯だらけの死に体のままに、わかりきった馬鹿げた問いを投げかける。おれは隊長と肉体関係を持っている。それは泣きついて勝ち取った関係で、そこに愛とかそんなもんはないことは、学のないおれでもわかることだった。
でも、許されるのならばを願ってしまうし、おれは欲深い思想から抜け出せなくなる。
「今はそういう話じゃないだろう!?」
「答えてください。どうなんですか」
おれが強く問いただせば、隊長殿は目を泳がせて、口籠もってから答える。
「……おれは、軍の人間で、貴様の隊長だ。それ以上でもそれ以下でもない……」
「わかっています。わかっていますよ、それくらい」
そんな正確で慎重な返事をおれは無碍にしてしまう。こんな生意気な部下、殴り抜けばいいのに、貴方は切なげにおれを見据えることしかしない。いつもの凛々しい隊長殿は、どこか弱々しく見えた。
「嘘だっていいんです。それがわからないくらい馬鹿じゃありません。ただ一言、あなたに好きと言われたいだけなのに……!」
形のいい眉が下がる。違うんだよ、おれは貴方を困らせたいわけじゃないんだ。
「おれは、断りきれなくて他の隊員とも関係を持った、爛れた人間だ。そう、求められるほどの者ではない。貴様たちの原担ぎに付き合うことはいくらでもしてやれるが、それ以上のことは……」
珍しく言葉尻を濁す隊長をよそに、おれは空に唇をとがらせた。
「原担ぎに付き合うっていうのなら、こういうこともしてくれますか?」
半笑いにそう吐き捨てると、隊長殿は困った顔をして、その後何か察したように目を見開いた。そわそわと誰もいない遮光カーテンの中を見渡す。
唇をツンと尖らせたままでいると、隊長は観念したかのようにため息を吐く。
そして、マスクに指を差し込んで、そのまま外した。
おれの鼓動はドクリと高鳴った。素顔も見せないそっけないキスを、片手間の作業みたいにしてくれればよかったものを、こんなに丁寧に面倒を見るものかと驚かされる。恐ろしいくらい貴方には人を誑し込む妙があった。
想像以上の出来事に心を落ち着かせる間もなく、不意に唇が触れて、そのまま離れた。
「た、隊長……」
堕落した兵卒一人相手に、貴方は何をしてるんだ。
こんな美しい人間に、おれは何をやってんだ。
何か罪悪感のようなものが立ち上り、呻くおれの口を、優しく指で塞ぐ。その指を、痛々しく張り付いた血濡れのガーゼまで撫で下ろす。
「お前の命を使うために、お前を愛すというのは……。それはとても寂しいことだろう?」
今にも消え入りそうな声色に、失恋の宣告を溶かして、貴方は病室を出た。
おれは貴方のそういう正直で清廉な所が好きなんですよと、今日も枕を濡らす。