勇者の奇襲
アビドスと三大校との全面戦争の火蓋が切って落とされてから既に数日。最初こそ勢いに乗る連合軍によって大きく押し込まれたアビドスだが、防衛戦に慣れた現在では戦線は膠着状態にある。
(この調子なら、私たちの優位は揺るがないでしょうね)
(そもそもアビドスの砂漠は防衛側に有利な立地…どこまで足掻けるか期待してますよ♡)
そう、戦いはアビドス優勢に進むはずだった。彼女の想定外の事象が起こらなければ…
緊急連絡用の端末が鳴り響く。
「こちら本部です♡どうしました?」
「監視視点A24、未知の敵影を発見しました!あれは…シャーレの先生と複数人の生徒です!」
「シャーレの先生!?」
浦和ハナコにしてはありえないミスだった。彼女は戦争中にシャーレが介入してくる可能性を、全く想定していなかったのだ。その存在を本当に忘れていたのか、それとも知っていながら目を逸らし続けていたのか…彼女自身にもわからなかった。
「軍勢には救護騎士団の蒼森ミネや七囚人の狐坂ワカモも…グハッ」
通信が途切れる。とにかく来てしまったものは対処しなければ。口に塩飴を放り込んだハナコは冷静に対応を考える。
「全軍通達!左翼方面にシャーレの軍勢が出現!「私が対応するよ」ホシノさん!?」
無線に割り込んできたホシノはすぐに切ると駆け出していった。呆気に取られたハナコだが、すぐに切り替え指示を継続する。
(シャーレの戦力は不明、いくらアビドスの単体最高戦力のホシノさんといえど複数の実力者が先生の指示の元動けば押されかねない…今空いてる人物は)「ヒナさん!今すぐ左翼に回ってホシノさんの援護をお願いします!」
「分かったわ」
「私と親衛隊A班も準備次第そちらに向かいます!私は外してる間の指揮はハレさん、お願いします!」
「えっ私!?」
「それ以外の全軍は今の配置を維持してください!それでは!」
第三勢力の参入によって戦場は大きくうねりを見せる。それがもたらすのは平和か?混沌か?それは今はまだ、わからない。