加筆まとめ⑪
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虚夜宮・第五の塔近辺
あちこちが抉れ、凍り、亀裂が走る壁上——戦闘の痕跡が目立つそこに勝利を祝う声が上がった。
「やったな、カワキ!」
『ああ。朽木さんのお陰だ。ありがとう』
「何を言う。これは私たち二人の勝利だ」
笑い掛ける友人にカワキは少し雰囲気を緩めて頷いた。
そして、勝利を祝うのもそこそこに塔の内部でぶつかり合う霊圧を探る。
どうにもウルキオラ以外にも敵と思しき霊圧が増えているが、味方も到着しているらしい。
『上は……石田くんが加勢に行ったのか。なら、まだ大丈夫だな。先にこっちの掃除を終わらせようか』
「うむ。あの砂の巨人は先程の……。恋次たちは苦戦しておるようだな。まったく、仕方のない奴らだ」
壁の上から眼下に広がる砂漠を見下ろすと、虚夜宮への道中で遭遇した番人とやらの姿が見えた。
水を弱点とするらしい番人に対して、下で戦う二人——恋次と茶渡は有効打となる手段を持たない。
二人は壁を飛び降り、加勢に向かった。
「たわけ! 何をやっているのだ、お前達は!」
「ルキア! カワキ! 何だよ、そっちはもう片付いたってのか!?」
『援護するよ』
「……ああ、頼む」
ルキアと恋次、カワキと茶渡がそれぞれに言葉を交わして戦闘に入った。
数こそ多いものの大半はただの虚、破面たちとは天地ほどの差がある雑魚だ。
冷淡な表情で戦力を見極めたカワキは、無駄な消耗を避けて援護に徹する。
暫くそうして雑兵を相手取っていた時、頭上から破壊音が聞こえて、カワキは空を見上げた。
塔の先端——晴れた青空に、一箇所だけ夜が垣間見える。
「あれは……」
『やっぱりあの青空が天井だったのか……だけど、一体何が——』
何事かと空を見上げた矢先、夜空から海のように濃く重い霊圧がのしかかった。
「な……なんだ、この霊圧は……!」
『————! 一護の命が危ない。加勢に行ってくる』
これは一護が勝てる相手ではない。
カワキは即座にそう判断すると、返答も待たずに空へと駆け出した。
◇◇◇
虚夜宮・天蓋外
わき目も振らず天蓋の外へ飛び出すと、カワキの耳にウルキオラの声が届いた。
「……反射的に月牙を出したか……賢明な判断だ。そうしていなければ、今頃、貴様の首は俺の足許にあった」
カワキが声がした方向に視線を動かす。
そこには、兜のような仮面、白い装束、背中から蝙蝠にも似た黒い翼を生やした男——ウルキオラが立っていた。
手には霊子で出来た槍が握られている。
「……虚化とやらの能力は増大している。仮面を出していられる時間も増した。……だが、こうも容易く割れるとはな」
ウルキオラの視線を辿ると、仮面を半分ほど割られて血を流す一護の姿。
まだ息はある。傷も大したことはない。
「残念だ」
そう思った矢先、光が視界を横切った。ウルキオラが投擲した槍だ。
霊子で形作られた槍は一護の肩を掠め、その身体ごと彼方へ吹き飛ばした。
追撃に動くウルキオラを阻止するようにカワキが引き金を引く。
「……志島カワキ。生きていたか」
再び霊子の槍を作り出し、難なく攻撃を防いだウルキオラが追撃を止めてカワキを振り返った。
「ノイトラにやられた傷は癒えたのか?」
『とっくに』
カワキは銃口を向けたまま、一歩、また一歩と、慎重に一護が吹き飛ばされた方角とウルキオラの間に入る位置へと動く。
『……それが君の刀剣解放か。素晴らしい力だ。下まで霊圧が伝わってきたよ』
「お前こそ以前より霊圧が増したようだ。だが……それが全力ではないだろう」
ウルキオラはある種の確信を持ってそう口にした。
目の前に居る女は、十分この場に立つに相応しい力を有している。
だがそれでも、女の力は底が見えない。
————志島カワキは自分と同類だ。
「お前は一体、何を隠している?」
何とも勘の良い男だ。いいや……自分が間諜として未熟なだけか。
確信を持った問い掛けを受け、カワキが押し黙った。ややあって、はぐらかすような返答をする。
『————……これが今の私が出せる力の全てだよ。嘘偽りのない“全力”だ』
「…………明かすつもりはない、という事か。いいだろう。貴様の全て……この場で引きずり出してやる」
「待てよ……! てめえの相手は俺だろうが!」
一触即発の空気を裂くような声。
吹き飛ばされた一護が割れた仮面を修復して戦場へと戻ってきたのだ。
ウルキオラから目を離さず、カワキは声だけで一護に訊ねる。
『一護、傷は?』
「こんくらい大したケガじゃねえよ」
言葉通り、一護の霊圧は壮健であることを示している。
声にも闘志が満ちていて、未だ戦えるのだと伝わった。
であるのならば————
『……わかった。私は後ろで見ているよ』
「おう」
あっさりと引き下がったカワキ。
表情こそ変わらないものの、ウルキオラがどことなく怪訝そうに問い掛けた。
「……良いのか? せっかくの数の有利を捨てて。俺は二対一でも構わんが」
「てめえを倒すのは俺だ。ウルキオラ」
『……だそうだ。私は観戦させてもらう』
「…………。……成程。いいだろう、そこで見ていろ」
——これはバレているな。
カワキが加勢をやめて観戦を決めたのは何も、一護の決意を慮った為ではない。
一護が戦える間にウルキオラの手の内を観察して勝ち目を作り出す為だ。
それだけウルキオラは警戒に値する敵だとカワキは認識していた。
そして、ウルキオラにもカワキの思惑は透けて見えるようだった。
——なぜなら、逆の立場にいたなら自分もカワキと同じことをするから。
斯くして一護とウルキオラの激闘はここに幕を開けた。