加筆まとめ⑧

加筆まとめ⑧

滅却師らしく

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浦原商店


 カワキは一護と共に、夜の空座町を浦原商店に向かって歩く。

 一見すると私服に見える恰好の至る所に銀筒やゼーレシュナイダーを仕込み、戦闘準備は万全だ。


「――いらっしゃい」


 半ばまでシャッターが降りた店の前で、煙管をふかせた浦原が二人を出迎えた。

 二人の来訪を予想して待ち構えていたかのようなタイミングだ。

 実際そうだったのだろう。答え合わせのように浦原が言葉を紡ぐ。


「来る頃だと思ってましたよ、黒崎サン、カワキサン」

「……どうしてそう思った?」

「アタシなら知ってるかもしれない、と思ったんでしょ、“虚圏に行く方法”」

『話が早くて助かるよ。出迎えまでしてくれたんだ。用意は出来ているんだろう?』


 浦原は店に向かって歩きながら、カワキの言葉に振り返って笑みを返した。


「ご明答っス……用意……できてますよ」


◇◇◇

地下勉強部屋


 崖を飛び降りながら、浦原は語った。


「……アタシは、藍染に井上サンの能力が狙われることを恐れて、今回、彼女を戦線から外しました」


 危なげなく着地し、カワキと一護は浦原の話の続きに耳を傾ける。


「だが遅かった」


 浦原の声色から彼が後悔しているということがヒシヒシと伝わった。

 カワキの脳裏に、浦原が井上を戦線から外すと言った日のことが蘇る。


⦅あぁ、あの時の違和感はそういう……⦆


 あの日の浦原の様子はどこか引っ掛かるものがあった。語られた理由に、違和感の正体を掴んでカワキは納得した。

 浦原は思い詰めた顔で自分を責めるように言葉を続ける。


「彼女の気持ちを考えて外しあぐねて後手に回ったアタシのミスです」


 浦原の表情からは、自責の念が強く感じ取れた。

 早く言ってくれれば――そう思う気持ちが無いとは言わないが今となっては過ぎたことだ。

 黙って浦原の言葉を聞いていたカワキは浦原が言葉を続ける前に口を開いた。


『今更、浦原さんを責めはしないよ。もう過去のことだ。自分を責めるより今出来ることを話そう……その方がずっと良い』


 カワキの言葉に、浦原が何か言いかけるように口を開き、すぐに言葉を飲み込む。

 少し間を開けて、再び口を開いた。


「……はい。アタシにできることはすべてお手伝いするつもりっス」

「……いいのか? 尸魂界の判断には背くことになるんだぜ」


 浦原の身を案じるような一護の言葉に、少し先を歩いていた浦原が悪戯っぽい笑みを浮かべて振り返った。


「……元々あれこれ背いて現世(こっち)に居るもんで」


 変わり映えしない景色の中を暫く歩いていると、近くの岩壁から聞き覚えのある声が掛けられた。


「随分と辛気臭い顔をしてるな、黒崎!」

「!」


 見慣れた白の装束――石田が、崖上で足を組んでこちらを見下ろしている。

 石田を見上げながらカワキはすぐに霊圧を確認した。


⦅――滅却師最終形態で失われた筈の霊力が戻っている……。それが出来るとすれば――……石田竜弦か⦆


 処置を実行可能な技術力、そして動機を兼ね備えた人物など他に心当たりは無い。

 しかし誰が対処したにせよ、石田の進退などカワキには関係が無い話だ。

 大した感慨も無く、事実確認をするようにカワキは淡々と言葉を紡いだ。


『力を取り戻したんだね、石田くん』


 その隣で、思いもよらぬ登場人物に面を喰らったような顔で言葉を失っていた一護が我に返った。

 あんぐりと開いた口を閉じて、再び口を開けると困惑を浮かべて石田に訊ねる。


「石田……! お前……何でここに……」

「……決まってる。虚圏へ行く為だ一護」


 一護の問い掛けに答えたのは、石田ではなかった。

 声の主を振り返った視線の先、岩陰から大柄な人影が歩み寄る。


「チャド……!」


 驚愕に染まった表情で呟く一護。

 カワキは機械音声のように落ち着いた声で協力要請を受け入れた。


『そうか。それは助かるな。戦力は多いに越したことはない』

「ああ。……浦原さんから、話は聞いてる。……俺達も行く」


 カワキの言葉に頷いて、同行を申し出た茶渡が一護を見遣った。

 その視線の先で、一護が湧き上がる感情を抑えられずに顔を歪める。

 泣き出しそうにも見える表情で、一護が言葉を絞り出した。


「……ダメだ。気持ちはありがてえけど、チャド、石田、オマエらの力じゃ……」

「――一護」


 一護の名前を呼ぶと同時に、茶渡が拳を振り上げた。

 瞬間。攻撃の気配に気付いたカワキが、回避の為に岩壁の上に移動する。


『!』


 あの程度の攻撃なら護衛せずとも問題は無いと判断しての行動だった。

 カワキの予想通りに、一護が斬魄刀の腹で拳を受け止めている姿が視界に入る。


『茶渡くん……そうまでして……』


 ――そうまでして破面と戦いたいのか。

 言うまでも無いことか、と最後の一文は胸に留め、カワキは石田の隣で二人の諍いの行く末を見守る。

 腰掛けた石田は、一護と茶渡を心配する様子も無く、隣に立つカワキを見上げると呆れたような声色で訊ねた。


「カワキさん、君、また私服なのかい?」


 目だけでチラリと石田を伺って、カワキが問い掛けに答える。


『? ああ。何か不都合でも?』

「不都合というか……それじゃ防御に不安があるだろう?」


 石田はカワキの服が見えざる帝国で特殊な加工が施された特注の装備品であることを知らない。

 装備は重要だ、疑問に思うのも頷けるとカワキは思い至った。


『あぁ……いや、私はこれでいいんだ』


 カワキを案じるように眉を寄せた石田に何と答えたものかと、カワキは生返事しか返せない。

 石田はその様子を、滅却師の誇りや伝統を軽視するカワキが面倒がってのことだと受け取って、説教がましく言葉を続けた。


「君は武器だって弓じゃなくて銃だし……せめて衣装くらい滅却師らしくしたらどうなんだい?」

『……機会があればね』


 ――滅却師らしく、か。

 カワキが着慣れた“滅却師らしい衣装”は星十字騎士団の支給品である軍服だ。

 軍服を着て彼らの前に出ることがあるとするなら、それは侵攻が始まってからか、或いは――


『――石田くんなら、“滅却師らしい”私を見る機会があるかもしれないね』


 珍しく淡い微笑を浮かべたカワキが語る言葉に石田がきょとんとした顔で訊ねる。


「? どういう意味だい?」

『言葉通りの意味だよ。……君は私と同じ滅却師だから』

「それは――」


 石田が何か言い掛けて口を開くも、その先の言葉が紡がれる前に、ぱんぱんと手を打つ音が辺りに響く。

 見ると、一護と茶渡の話し合いは決着がついたようだった。浦原が手を打ち鳴らしながら、軽い声を上げる。


「はいはーーい、準備はいいっスかー?」


 カワキが話を切り上げて、軽やかに岩壁を飛び降りていく。

 石田も相槌を打ってそれに続いた。


『さて、行こうか』

「あ、ああ」


 気になる発言だが、これから向かう先は虚圏、雑談は終わりだと頭を切り替える。

 凛々しい顔つきで並ぶ四人の姿に、浦原がしたり顔で笑って言った。


「……漸く出来たみたいっスね――準備」


***

カワキ…チャドを話の通じる狂戦士、石田を友達想いな復讐者だと思っている。石田が力を取り戻したことにあまり関心がないので対処法自体は知っていたと思われる。


石田…何か気になること言われたけど、今から虚圏ツアーなのでとりあえず流した。千年血戦篇でロングパスが回ってくるとも知らずに……。会話のデッドボール。


一護&チャド…カワキと石田が「身嗜みは大事」って話をしている間に感動的シーンをやってた。上が地獄のロングパスしてる最中に青春してる。


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