加筆まとめ⑥

加筆まとめ⑥

団員達との接触2

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見えざる帝国


 カワキ達が廊下の途中で話し込んでいると、長身の男――エス・ノトがおずおずと会話に加わった。

 カワキと関わることを避けているエス・ノトが、自ら話しかけるのは珍しい。


「次から次へと何なワケ? 普段は殿下に近付きもしないくせにさぁ……」


 カワキを誘いにやって来た筈が、後から来た者を優先されて叶わずにいるジジ。

 不機嫌さを隠すこともなく、憎々しげにエス・ノトを睨みつけた。


「オ前ニハ関係無ヰダロう。僕ハ殿下ニ話ヲ伺イタヰト言ッテイルンだ」

「はあ?」

「今はオイの番らろ」


 集まった者達がカワキを中央に置いて、口々に己の主張を訴える。

 カワキは争いを嫌っているわけではないが、好ましいとも思っていない。特に、己に得るものが無い争いに巻き込まれるなど煩わしい以外に何と言おうか。

 カワキは目の前で始まった口論に、凍るような蒼い双眸に酷薄な色を乗せて言葉を発した。


『――何度言えば解るんだ。雑談なら他所でやれと言った筈だ』


 淡々とした、けれど、ズシリとした威圧感を感じさせる声に、ざわめきがピタリと止まった。

 カワキの様子に、ユーハバッハの面影を見たエス・ノトがビクリと震える。カワキの双眸がエス・ノトを捉えた。


『……それで、君はどの話を?』

「……僕ハ朽木白哉ノ話ガ訊キタい。殿下ガ何度カ戦ッて、生死ノ境ヲ彷徨ッタッテ聞イた」

『ああ、構わない』


 カワキはエス・ノトを一瞥すると、要望通りに言葉を紡いだ。


『彼も強かった。斬術は勿論、鬼道や歩法も高水準、純粋に隙が少ない。強いて言うなら……息の根を止めたことを確認しないところが隙かな』


 お陰で二度も命拾いしたと、カワキは心の中で呟いて、更に言葉を続ける。


『千本桜は攻防どちらにも優れた良い斬魄刀だった。あれと閉所や一本道で戦ったら的にされる』


 カワキは実体験を基にそう語った。

 エス・ノトが何かを探るような目をして慎重にカワキに問い掛ける。


「其レは……静血装デ防ヰデも?」


 関わりが少ないカワキは、エス・ノトの様子が常とは異なることに気付けない。

 淡々と問いに答えた。


『生半可な強度ならそうなるだろうね』

「…………」


 カワキの返答にエス・ノトが求めた答えは無かった。何と言ってソレを引き出そうかと、エス・ノトが口籠もる。

 しかしそれは、怪訝そうな顔をしたジジの何気ない問い掛けで解決した。


「じゃあ、殿下が大怪我するっておかしくない? 殿下の静血装で防げないんじゃ、ボクら全滅しちゃうでしょー?」

『血装は使わなかったからね。お陰で自分の驕りに気付けたよ。為になった』


 一同が驚愕に目を見開いた。

 カワキは現世に派遣されるにあたって、その能力の幾許かをユーハバッハに預け、血装の使用に制限がついた。

 その話は団員の間で噂になったが、どこまでが真実かは不明瞭な噂話だったのだ。


「……陛下ガ……殿下ニ血装ヲ使ワナヰデ戦ウヨウ命ジタッて本当ナンだ……」


 噂は真実であると知ったエス・ノトが、茫然と呟く。

 尸魂界に侵入しておいて、血装を封じて戦うなんて正気の沙汰では無いと、カワキを除いた全員の意見が一致した。


「隊長格相手にホントにやったのーッ? うわァ……」

「殿下の命知らじゅには驚きらろ……」


 理解不能だという様子で唖然とするジジとニャンゾル。

 エス・ノトは顔を強張らせて、どこか焦燥に駆り立てられるように、上擦った声で問いを重ねる。


「如何シテ陛下ニ何モ言ワナイの? 殿下ハ死ヌトコロダッタノに?」


 カワキはやっとエス・ノトの様子が妙だと気付いて小さく首を傾げた。

 少しして合点が入ったように口を開く。


『……あぁ、君は陛下から私と同じ命令を受ける可能性に怯えているのか。……それなら、私から贈る言葉は一つだ』


 一呼吸置いて、カワキが言った。


『――陛下の命は絶対だ』


 カワキは自明の理を語るように、機械的に言葉を紡いでいく。


『侵攻前に手の内は晒せない。それなら、命令違反と血装無しでの戦闘……どちらが危険か、言わないと解らないか?』

「!」


 それは星十字騎士団であれば、誰しもが知っていることだった。命令に従わない者に待つ結末は一つだ。

 カワキの言葉に反論の余地は無かった。


『君に私と同じ命令が下るかどうかは陛下がお決めになること……その時が来たら、後悔の無い選択をすることだ』


 その言葉を最後に、場が静まり返った。

 カワキは集まった者達を順に見回す。誰も言葉を発さない様子を確認して言った。


『話は終わりだ。私は部屋に戻る』

「あっ! 殿下、待ってってば!」


 今度こそ用は済んだと、踵を返して自室に戻ろうとするカワキを、ハッと我に返ったジジが慌てて追いかけた。


「殿下さーどうせ部屋に戻ってもお酒呑むだけでしょ? あの量はヤバいって。お酒よりボクらとお喋りした方が楽しいよー」

『煙草もある』

「余計悪くない?」


 廊下に話し声が木霊する。

 遠ざかる背中に怯えた目を向けるエス・ノト。興醒めした様子のニャンゾル。

 二人を残して、カワキはそのまま去って行った。


***

カワキ…陛下の命は絶対とか言ってるけど状況次第では多分普通に進言もする。陛下に従うというよりも自分の心に従う鋼鉄のメンタル。


エス・ノト…勇気出してカワキに話を聞きに行ったのに、余計不安になることばかり言われた。


ジジ…カワキの酒の呑み方ヤバいよねーと思って口先では止めるも、全く効果がないようだ……。結局、バンビーズの集いにもカワキは呼べなかったと思われる。


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