加筆まとめ③

加筆まとめ③

ガンジュ&花太郎と合流

 鍵を探すために塔から立ち去る途中、人の気配に身を隠したカワキ。物陰から注意深く様子を伺う。


「…さて…。いよいよこの扉一枚か…」


 いつでも撃てるよう引き金に指をかけたカワキの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んでくる。敵かと思われた気配の正体は、ガンジュと花太郎だった。

 見知らぬ死神と行動を共にするガンジュの姿に少しばかり逡巡する。


⦅死神と一緒に行動するなんて、どういうつもりかな……? 何にせよ、ここは一本道…出るしかないか⦆


 手には銃を握ったまま、自分の存在を伝えるように足音を立て、カワキは物陰から姿を現した。


「先に着いてたのか! 無事だったんだな」

『ああ、ついさっきね。そちらも無事で何よりだ。……そちらの彼は? 死神のようだけど?』


 ガンジュは変わらずカワキを味方だと思っているらしい。反応からそれを読み取って花太郎を見る。目だけを動かして、その頭から爪先まで順に確認した。


「おお! こいつは花太郎ってんだ! 道中色々あってよ、例のルキアって死神を助けたいってオレやあいつの治療もしてくれたんだぜ」

「やっ、山田花太郎です…! よ…よろしくお願いします…」

『…へえ…そうか。…私は志島カワキ。一護を治してくれて助かったよ。……ここへは二人だけで?』


 新しい友達を紹介するように、これまでの出来事を語るガンジュ。少し怯えた様子の花太郎を交えて、バラバラに行動していた間のことを話した。


***


「…そうか…そんなことが……」

『そちらも大変だったようだね。……ところで、君たちも牢へ向かうようだけど鍵は? 今から探しに行こうと思ってたんだけど』


 先程の京楽との戦いの顛末を知って沈痛な面持ちのガンジュに、話は終わりだとでも言うようにカワキが話題を切り替える。


「…あっ…!…大丈夫です…」

「あん?」


 弾かれたように顔を上げた花太郎に視線が集まった。気にすることなく、ごそごそと懐をまさぐる。

 武器を取り出す可能性を警戒し、カワキは何食わぬ顔で話を聞きながら引き金に指をかけた。


「昨夜のうちに地下水道の牢錠保管庫から…予備の鍵を拝借してきましたから…」


 花太郎が懐から取り出したのは鍵だった。ガンジュが面食らったような顔をする。カワキはひとまず銃の引き金にかけた指を外して花太郎を見た。


「お…おいおい、大丈夫かよオマエ! そんなことして!?」

「大丈夫じゃないでしょうね…」

『…そこまでして朽木さんを助けたいんだね』

「…はい…。…昨夜、思ったんです…」


 花太郎は薄く笑って目を逸らした。その意識が昨日の出来事へと向かい、心情を吐露する。


「一護さんがあんなに傷だらけになって戦ってるのに…ぼくはただ、いつもいつも逃げ回ってるだけなんて…かっこわるいじゃないかって…」


 たとえ罰を受けても、ルキアを助けるためにできるだけのことはすると語る花太郎。カワキには理解できない話に軽く首を傾げる。

 重い空気を散らすように苦笑いした花太郎。


「…って言っても、ぼくじゃせいぜい こうやって鍵を盗んでくるくらいしかできないんですけど…」


 花太郎は謙遜するように話しながらガチャガチャと鍵を開ける。カワキは理解できないなりに、鍵を運搬したことに対する労いの言葉をかけた。ガンジュも真面目な顔で続ける。


『……私にはよくわからないけど、君が鍵を持ってきてくれて助かったよ。君のお陰で朽木さんを外へ連れ出せる』

「充分なんじゃねえか。…それでよ」


 花太郎は二人の言葉に、少し照れたように口を閉じた。ガンジュがシャッター型の扉をガラガラと開ける。カワキは最後に入室した。


⦅出入り口はここだけ。遮蔽物は無し。当然だけど小窓は通り抜けられる大きさじゃないな……⦆


 カワキは順繰りに室内を見渡して検める。開いた扉に肩を寄せ、もたれかかる。

 その間にも、先に入室したガンジュとルキアが揉めていた。カワキはつまらないドラマを流し見するように、その様子を眺めている。


⦅家族の仇、ね…。そんなに引き摺るものかな?⦆


 ルキアは兄を殺した死神だと掴みかかるガンジュ。止めようとする花太郎。目の前の喧騒が、カワキには現実味のない芝居のように映った。


「好きにしろ。お前になら…私は殺されても文句は言うまい」

⦅……ここで彼女が死んだら一護は大人しく帰るだろうか。……なんとも言えないな⦆


 その言葉を聞きながらカワキは思案する。ルキアがガンジュに殺された場合、一護がどう動くかカワキには読めなかった。


『それなら私が文句を言おう。復讐は彼女を一度 助けてから、日を改めてもらえないかな』


 カワキは任務達成のために不確定要素の発生を避けるべく、揉める二人に声をかけて仲裁に入る。花太郎が悲鳴を上げそうな顔でカワキを見た。


「カ…カワキさんっ! そんな冗談言ってる場合じゃ…」

『――!』


 カワキは反射的に振り返った。いつか戦った覚えのある重い霊圧。扉の向こうを鋭く見据える。

 カワキを怪訝そうな顔で見る花太郎。揉めていたルキアとガンジュ。三人も霊圧に当てられてすぐに事態に気がついた。


『この前の5倍か……』


 小さく呟いたカワキの視線の先には、廊下を歩む白い羽織りの死神――朽木白哉の姿があった。


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