劇場版リブロマンサー wishフゥリ またはヴィサス=スタフロスト 〜海底王国ペルレイノを救え!〜

劇場版リブロマンサー wishフゥリ またはヴィサス=スタフロスト 〜海底王国ペルレイノを救え!〜



空も海も濃い赤に染める夕暮れ時。同じく赤く染まった砂浜に一組の若い男女が影を落とす

少し幼さの残る顔つきの少年は砂浜に体を横たえ眠り、少女は自分の膝を少年に貸してその顔を眺めている。 周囲からギークボーイとあだ名される少年とここからは遥か遠い日本からやってきたフゥリと言う名の少女だった

彼らは数刻前まで闘いの最中に居た。 彼らの共通の友人であるマジガールとあだ名される少女が発見した人魚姫伝説の本をキッカケとして本物の人魚達との出会い。 事件性を察知して現れた知り合いであるエージェントとの合流。 人魚達を拘束し苦しめる暴君との対峙。 唐突に現れた不思議な雰囲気のイケメン、ヴィサス=スタフロストとの共同戦線による暴君の打倒と人魚達の解放。 言うなれば劇場版リブロマンサー wishフゥリ またはヴィサス=スタフロスト とでも言う様な大冒険を終えた直後であった

激闘は制したものの力を使い果たして疲労困憊だったギークは助けた人魚達や共に戦ったヴィサスと別れ地上に戻ってきた直後に気を失ってしまった為、比較的消耗が少なかったフゥリが側についたのだ

寝息を立てるギークを労る様な優しい瞳で見つめるフゥリは闘いの最中のことを思い出す。 闘っている時にふと見えた彼の横顔は今静かに眠っている少年と同一人物とは思えないほど勇ましく暴君への怒りを宿していた。 しかし目に宿った強い意思と他人を思いやる優しさは普段の彼と何も変わらない。 フゥリ自身もそんなギークの持つ優しさと強い意志により救われた経験を持っており、その時以来彼に対して明確な恋心を胸に秘めていた

暴君によって傷ついたギークの左頬に手を伸ばす。 先端に刃が付いた鞭を回避した際に付いた切り傷だった。 傷口はまだ熱を持っており触れた指先からは体温が感じられる

「ん、ん…っ?」

痛みが走ったのだろうか。 ギークは少し呻いて薄く目を開く

「あっ、ゴメン…起こしちゃった?」

しまった、と言う表情をするフゥリ

「えっと、フゥリさん…だよね?ここは…」

「ここはウチの近くの砂浜。 海底の国から帰ってきたトコだよ」

「みんなは…?」

「みんな無事。 ガールは怪我がほぼ無かったからファイアが家まで送ってる。 エージェントの方は組織への報告と、あとギーク君用の壊れたメガネの代わりを持ってくるって」

ギークが倒れてからの状況を報告するフゥリ。 彼女の言う通り、普段なら彼がかけているメガネは今はない。 闘いの最中でダメージを受け、地上で倒れた際に完全に破損してしまったのだ

「そっか…なら良かった」

安堵するギーク。 メガネの無い彼の視力は極めて弱い。 裸眼では何もかもが滲んだ光景となりほぼ見えない程と言っても良い。 それこそ、手を伸ばせば届く距離のフゥリの顔さえも

「とりあえずエージェントが戻ってくるまで私達はゆっくりしとこ。 ギーク君もまだ疲れてるだろうしそのままで良いよ」

こんなオイシイ状況を逃す手はない。 フゥリはにっこり笑いながら自分が膝枕されていると気付かないギークへと無理に動かない様に伝える


そのまま他愛無い会話を続けて気を逸らされたギークが自分の状態に気付いて慌てて起き上がるのは10分ほど経ってからだった



「もう… フゥリさんってば…」

ギークは照れながら上体を起こして砂浜に座って居た。 オタク少年の彼にとって身近な少女の膝枕は中々刺激が強かった様だ

「ウフフ。 寝顔とか可愛かったよ?」

左隣に座ったフゥリはニコニコしていた。 本人が気付いてなかったとはいえ自分に身体を預けて甘えるギークの姿を堪能できて上機嫌である

「可愛いなんて言われてもなぁ」

「可愛いって言われるの嫌?」

「そりゃ、どうせなら格好良いの方が嬉しいよ」

「ん? 言って欲しい? カッコ良かったよ?」

「えぇ… 取ってつけた感丸出し…」

フゥリの言葉を本音と思わなかったギークは露骨にガッカリしている

「ううん。 本心」

フゥリの方は少し声色を落としてギークの顔を見つめる

普段より細めてる瞳の奥の意思の強さ。 巨悪へ立ち向かう勇気。 困った人に手を伸ばせる優しさ。 ギークの持つ善性はフゥリの心へ焼き付いている

「闘ってた時、すっごく、カッコ良かったんだから」

想い人を正面から見据えて本心を伝えるフゥリ。 視界の効いていないギークでも自分の顔を見つめられている事は想像に難くなかった

「ま、まぁ闘ってる時はホラアレだし! ファイアと合体してるし! 本物のヒーローと合体してるならそりゃ僕みたいなギークボーイでも格好良くもなるよねーって!」

流石に恥ずかしくなったギークは慌てて言い訳の様な事を言いながら顔を逸らして正面を向く。 目の前の光景は赤一色。 西日と海が境界無く混ざった景色

「痛っ…!」

唐突な痛みに思わず声をあげるギーク。 照れ臭くて頭や頬を無意識で掻いて頬の傷口に触れてしまったのだ

「あー… やっちゃった」

かさぶたが剥がれ少量の血が流れ出ているのを感じるギークは指でその血を拭おうとした

「ちょっと待って」

しかしその前にフゥリからストップが掛かり拭おうとした手をフゥリに握り止められる

「ん…」

もしかしてハンカチかティッシュでも持っているのだろうか、とギークが思っているとフゥリの吐息と同時に何か暖かく柔らかい感触が左頬の傷口辺りを包む様に感じる。 他にもさっきより自分の近くに隣のフゥリが更に寄って来ている気配。 それこそ、自分の顔の直ぐ隣、ぶつかっていてもおかしくない距離だ

それが何を意味しているかも理解できないで居ると次に感じたのは少しの痛み。 柔らかく湿った何かが流れる血と傷口をなぞる感覚

「……えっ?」

頬の感覚はそう、まるで、舌で舐められているかの様な触感だった。 そのことに気付いたギークは困惑の声を出す

すると舌の様な何かは傷口から離れ、続けて傷口近くに当たっていない柔らかい感触も頬から離れた。 外気に晒された頬と傷口は少し濡れており吹いてきた風を冷感と共に過敏に感じ取る。 ギークはなんとなくこの風は口から吐き出された息である様な気がしてならない

そして何か小さな、気のせいかと思う様なとても小さな声が聞こえた気がした

「えっ….あっ…えっと…」

ギークはしどろもどろになりながら自分の言いたい言葉を探す。 体温が上がり自分の顔が赤くなってるのが見えてなくても明確にわかる

「その…な、何、したの?」

ようやく見つけて出した言葉は混乱した頭でも酷く間抜けに感じられた

「フフ…ひーみつ!」

イタズラっぽく返すフゥリ。 夕日に照らされた2人の顔は太陽と同じ様に真っ赤だった











「……出て行き辛い」

そんな青春真っ盛りの2人からは見えないところで、仕事を終えて破損したメガネの予備を用意して戻ってきたエージェントは所在なさげに呟いていた…












私の直ぐ目の前にギーク君の顔がある。 日頃から彼の事を見つめていたけどこんな近くで見るのは初めてだ

触れている唇から伝わるギーク君の頬の柔らかさと体温。 頬の傷はさっき指で触れた時と同じ様に他の部分よりも熱い

血の味が私の舌を伝って流れてくる。 こればっかりは、誰でも同じ鉄の様な味。 そう思っているのに少なくとも自分の血より美味しい気がする

心臓が今まで聞いたことのない速さと大きさで鳴っている。 顔も熱くて、私はきっと耳まで真っ赤になってるだろう。 音も体温も唇越しに頬から彼に伝わっている気すらしてくる程だ

熱くて、ドキドキして胸も何もかも苦しいけど、なんで言うかとっても幸せって感じがする。 世の中の恋人達はいつもこんな気持ちを味わってるのかな? だとしたら人の居るところでも構わずキスする人の気持ちも少しは分かっちゃう

ギーク君は困惑した声を呟いた。 多分状況を飲み込み始めてるんだろう。 見えてないって言ってもこれだけ近付いて色々してたら何されてるかなんてそりゃ察しはつくよね

私はギーク君の頬から唇を離す。 思わずと言うか、勢いと言うか、若さ故の暴走的な感じでやっちゃったけどこの後どうしよう。 やっぱり誤魔化しちゃう…かな、うん。 恥ずかしいし

でも、今のこの気持ちを伝えたいとも思ってしまう。 私の感じてる事。 何もかもを隠さない私の本心

でも答えを聞くのはまだ怖い。 だからちょっとズルい方法を取っちゃおう

小さな、本当に小さな声で心の底から溢れる私の気持ちを呟く

この声が彼に届きません様に

この想いが彼に届きます様に






「大好き」







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