創世神性輪廻 神様なんてぶっ飛ばせ!!スーパーインド大戦2

創世神性輪廻 神様なんてぶっ飛ばせ!!スーパーインド大戦2



レイシフトでたどり着いたのは灰色の街だった。色彩が、薄い、鮮やかな色が多いインドの中で際立った色を見つけられない世界だった。建物の色は白、行き交う人々の服も白い。皮膚の発色も少しぼやけている。街の外は荒野であった。緑も色彩がない。カルデアから来たものだけが色鮮やかで異物であった。人々はこちらを見ることもない。ただ行き交い、生活の真似事をしているようだった。

『聞こえるかい?立香くん。』

「ダ・ヴィンチちゃん、聞こえるよ。」

街中であることを考慮して声だけを通信で聞いている状態だ。この街の人々は、生きているのに、どこかプログラムされたAIのようだった。決まった行動しかしない、RPGのNPCのようなものであった。

『ユダナの反応は、街の中央の上部っぽいんだけど、何か見えるかい?』

「あからさまに怪しそうな丘と塔がある。」

「住民の敵意は感じられない。あまり時間をかけない方いいだろう。いつ本当のドゥリーヨダナじゃないとバレるかわからないからな。」

「兄上、嫌な予感がします。」

「兄さん、嫌な気配がする。」

ドゥフシャーサナとヴィカルナが同時に声をあげる。

「俺たちがいない世界線なら、誰が人を減らしたのか。どう思う、立香、マシュ。」

秩序しかない街であれば、それを支配するものも秩序の僕である。すなわち正しいことを義務付けられた半神がいておかしくないと言うことだ。

「偽王さんのように、ユディシュティラさん率いるパーンダヴァの方達としか、この街を見る以上考えられません。」

「アルジュナ・オルタ、的な?」

善なるものを残し、悪を断つ世界、神々を全て丸呑みしてただ一人で世界を正しく導こうとして擦り切れたアルジュナのいた異聞帯のことはアーカイブで皆に共通されている。何よりも強かった。このカルデアの第一の戦力でもある。

「・・・神性特攻を盛れば、なんとか、なるか?」

「我が夫の別側面ながら強いぞ。」

『こちらでも神性の反応を5つ確認している。』

「アルジュナ・オルタが、5人?!」

「その時はマスターを連れていったんカルデアに戻るぞ。いいな、ダ・ヴィンチ。」

『できる限り緊急レイシフトできるように努力はしよう。だが戻ってきた場合、次にレイシフトできるかわからない。それくらいこの世界はいつ崩れてもおかしくないんだ。覚悟しておいてくれたまえ。』

その言葉を最後に通信が途切れた。進めばパーンダヴァの英雄との戦闘、戻ればユダナの存在保証ができなくなる。このお人好しのマスターの結論など、誰も聞かずともわかっていた。

「行こう。」

「はい、先輩。ユダナさんが待っています。」

灰色の街を一行は足早に進む。そこまでの時間をかけずに、街の中央、灰がかった芝生の先にその塔はあった。予想通りに二人の半神がいた。

「待っていました。カルデア。私はサハデーヴァ、彼はナクラ。私たちはあなた方と敵対関係にある者ではありません。」

その姿は偽王と対峙した時にであった双子の姿と同じ年頃であるはずなのに、何かに制限されているように立香には見えた。スヨーダナが立香を守るように前に出る。ドゥフシャーサナ、ヴィカルナが両隣で固め、背後にマシュとチトラーンガダーついている。

「私には占星術、わかりやすく言うと千里眼と言った方がいいでしょうか。あなた方が来ることはわかっていました。カルデアのマスター藤丸立香、ファーストサーヴァントマシュ・キリエライト、私たちと友好関係を結ぶことができた数少ないカウラヴァの長、スヨーダナ。百王子のドゥフシャーサナ、ヴィカルナ、そしてあなたが兄アルジュナの妻、チトラーンガダーですね。」

笑顔は自然なものだが疲れているように見える。

「わかっていると言うことは、俺たちの目的もわかっていると言うことだな。」

「お前たちの目的のものはここから上に登ったところにいるだろう。」

「そんなに簡単に通してくれるの?」

「僕たちは僕たちに害をなす者は通さない。お前達は僕たちと戦闘をしにきたわけではないだろう。ただ仲間を取り戻しにきただけだろう。そうであれば特に問題はない。」

「・・・結果的にお前達は消えることになるが?」

カルデアの目的はユダナの奪還だが、特異点が消えないようにドゥリーヨダナを取り込もうとした結果がこの事態なのだ。終末の一因を担うことに変わりはない。

「街を、見ただろう。かつての都はもっと華やかで美しかった。人々も美しかった。街の機能として存在した僕たちから見ても美しい街だったとも。秩序のため、大地のため、人を選別した結果が、これだ。」

似た光景をカルデアは知っていた。キャメロットでの選伐のように、大地の女神の負担を減らすべく秩序を重んじる人々のみを、それ以外を排除したのだろう。

「あなた方でよかった。どうか、この世界を終わらせてしまってください。この世界は袋小路。行き着く先がない行き止まり。異聞帯にもなる体力もない世界なのです。」

「ナクラ、サハデーヴァ、そこまでわかっていて、お前達では駄目だったのか。」

「私たちは、秩序を守る役割を与えられました。それを超えることはできなかったのです。私も、兄達も。あなた達が来る日を待っていました。」

「さっさと行け。アルジュナとビーマは、僕たち以上に擦り切れている。ユディシュティラは限界を超えている。」

「・・・兄の姿を見て、驚かないでください。私たちは機能として存在することしか許されませんでした。誰も私たちと生きることはできませんでした。」

塔の扉がゆっくりと開く。内部は外見よりも広く明るい。ただここでも色彩はぼやけていた。

「俺たちと一緒に行くことはできないのかな。」

「いいえ、私たちは秩序に縛られている。私たちは地上の駒に過ぎないのです。」

ナクラは無表情で、サハデーヴァは困ったように笑っていた。

「さようなら、カルデア、私たちのあったはずの従兄弟、義姉様。あなた方の旅路に星の導きが有らんことを。」

 

 

 

塔の階段を登る。不思議と塔の中も明るいものの、目に映るものは色褪せている。外から見た塔の大きさに反して開けた空間に、アルジュナがいた。カルデアにいるアルジュナに似ているが、どこかくたびれている印象を受ける。目には光がない。

「ナクラとサハデーヴァが通しましたか。敵対する意思はない、そう言うことですね。」

アルジュナの手は弓にかかっている。双子と違い抗戦態勢であった。

「俺たちは仲間を取り戻しにきただけで、アルジュナと戦うためにきたんじゃない。」

「そうですか、諦めなさい。」

「それはできない。」

「そうですか、ではここで死んでください。」

アルジュナの矢が真っ直ぐに立香へ向かう。その矢を叩き落としたのはチトラーンガダーだった。

「マスター、先にいけ!!ここは私だけでいい。」

「でも、アルジュナは、」

「立香、チトラーンガダーの意思を無駄にするな。」

「ここは私の出番だろう?他に適任はいない。」

「待ちなさい、私であれば、あなた方を無為に苦しめることはありません。悪いことは言いません。ここで終わっておきなさい。」

二本目の矢を番え、まるで慈悲のように殲滅を宣言する姿はカルデアのアルジュナに似ていた。

「いい子ちゃんのアルジュナだな。」

「もうちょっと気が利いたらアルジュナ・オルタになれただろうに。半神が傀儡になるとか道化か。」

「あれも行き着いた先だ、言ってやるな。なまじなんでもできると壊れてしまう典型例だからな。」

「わかりました、殺します。」

矢が百王子に向けて放たれるが挑発により軌道が単純で誰にも当たることはなかった。

「冗談もわからんとは面白みもなくなったか。」

「煽り耐性ゼロとかww」

「ビーマならもっと乗ってくるな。」

「ランサーのビーマにはするなよ。殺されるぞ、特にドゥフシャーサナ。」

「俺まで退去することになるから絶対にするなよ。やるならセイバーのビーマに代行させろ。」

「面白そうだな、今度やろうぜ。」

矢の雨を避けながら軽口を叩く百王子は踊っているようだった。矢の雨を受けているのは百王子だけであったことにアルジュナが気がついた時、すでに立香、マシュは上階に向かう階段のそばまで移動していた。

「アルジュナ。私を見ろ。」

百王子の後ろに控えていたチトラーンガダーの眼がアルジュナを見る。どこか懐かしいその姿にアルジュナの動きが一瞬止まる。その隙に百王子は立香、マシュとともに上階へ行ってしまった。

「・・・私であれば一撃で仕留たというのに。この上で死ぬよりは優しい死に方です。」

「そうであればとっくの昔に私たちは死んでいたのだろう?」

百王子の戯れなど、アルジュナの本気であればすぐにどうにかできていたはずである。百王子はわかっていてアルジュナを挑発しわかりやすくアルジュナも乗ったのだ。

「そうかもしれません。今の私には、この弓は重い。」

マハーバーラタにおいて最優の男は晩年衰えのため弓を引けなくなった。それでも組み込まれた駒としての動きはしなくてはいけないのであれば、それを実行する男であることはチトラーンダガーがよく分かっていた。

「私はチトラーンガダー。マニプルの王女にして戦士、お前のことはよく知っている。」

強く正しい男、戦士として生きる自分と国の存続のための役割を果たさなければならない自分の折り合いがつかない中で惹かれあった。その強さも、決して見せることがなかった弱さも、今のチトラーンダガーは分かっている。

「お前は間違いなく強いとも。」

だからこそ、チトラーンガダーはアルジュナと戦わなければいけない。今ここに誰もいないということは、誰もこの男と向き合ってこなかったということなのだから。

「私は今、負けるわけにはいかなくなった。」

ここに森はなく、マニプル国の民もいない。目の前のアルジュナは己の夫でもない。だからこそ戦士といての矜持を見せなければならない。お互いに弓を番える。

「これより顕るるは梵天の怒り。私はアルジュナの妻、チトラーンガダー!刮目せよ『梵天よ、我が手に宿れ(ディグレーデッド・ブラフマーストラ)』!」

「漲れ、我がガーンディーヴァ!」

チトラーンガダーのブラフマーストラはアルジュナが扱うものよりも劣る。しかし今のアルジュナの弓では彼女の宝具を受け切ることはできなかった。アルジュナの弓は腕ごと飛ばされていた。

「・・・どうしたのです?先に行ったものを追いかけるべきでしょう。」

「いや、私は今のお前と、アルジュナと少し話してみたくなった。」

「時間の無駄でしょう。」

「それでも、それでもだ。」

「・・・少しの時間でよければ。」

アルジュナが笑う。その笑顔はサハデーヴァと似た全てを受け入れた顔だった。

 

 

余談

プリテンダードゥリーヨダナ(ユユツ)は長いのでユダナと仮名しておきます。

兄上:ドゥフシャーサナ→アーユス

兄さん:ヴィカルナ→アーユス

 


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