剣闘士

朝、起きると股下から誰のものとも知らない精液が垂れ流しになっていた。なんて事はないいつもの事、昨日は確か3人ほど相手にしたはずだ。顔も名前もよく覚えていないが、執拗に私の腹を撫で回し、乳首に吸い付いてきたのを覚えている─とは言え、彼らが顕著だったというわけでもないが
精液と汗で汚れた体を清める為、公衆浴場のようなところへと向かう。この石の牢獄─コロッセオで見せ物となっている剣闘士達が使用するこのテルマエ(風呂場)は元々男所帯という事もあり、当然私以外には男しかおらず、ここを利用するたびに男達の下衆な視線を集めることになる
たいして綺麗でもない水を体にかけ、特に股の部分を念入りに洗う。しかし、洗いにくい
臨月を迎え、もういつ産まれてもおかしくない私の孕み腹は、私の股の状況を見させてはくれない。その為手探りでやるしかないのだが、1年近く性を刺激され続けた私は以前に比べ敏感になっており、上手く洗えずモジモジとする様は余計に風呂場の男達を煽る事になり…
「おい、朝からそんな声出してお前は本当に犯されたがりだな」
風呂は浸かっていたはずの1人の男が私を押し倒すと、思いっきり腹の上に乗っかってきた
「ゔご゙ぁ゙ぁ゙」
その衝撃で、肺の中の空気が全て抜け、一時的な酸欠となってしまった。腹の子へ酸素を送るために必死に呼吸をするが、突然の衝撃に混乱している体はか細い呼吸しかできない
「俺様は綺麗好きだからな、だから洗いやすいところを使ってやるよ」
そういうと男は私の乳房で己の肉棒を挟むと、乳房を乱雑に掴みに肉棒にこすりつけ始めた
出産のために母乳を溜め込んでいる私の乳房は男にとっては強い快感のようで、1分とたたないのち私の顔に精液をぶち撒けると満足したようにその場を去っていた
解放された私は、すぐにお腹の子を確認する。手のひらから感じる鼓動は腹の子が生きている証拠であった
とりあえずの無事を確認し、安堵する私だったが、立ちあがろうとした瞬間、今まで感じていなかった鋭い腹の痛みに襲われた。思わず、腹を庇いながら四つ足になってしまう
痛みをなんとか受け流しながら、私の脳はこの時代を正しく判断していた
私は産気づいていた

コロシアムは今日も大観衆で大賑わい。あちらこちらから怒号と歓声が飛び交い、興奮しすぎて喧嘩をしている者達もいる。賭けに勝ったものは顔を綻ばせ、負けたものは苦虫を噛み潰したような表情で人や物にあたり、それが原因でまた争いが発生する
そんな狂気と欲望渦巻くコロッセオに私は今日も立っていた
ローマに負けたあの日以来、私は皇帝ネロの皇命でこのコロシアムで戦うことになっていた。解放条件は500連勝すること。勿論負ければ最初からやり直しだ
元々腕っぷしにはある程度の自信があったが、このコロッセオにいるのは腕は悪くともガタイのいい男達ばかりだ。数センチの体格差で女は男には対抗できなくなる。だから多くの人は私が負けるものとして試合を見ている
だが、私は負けなかった。勝って勝って勝ち続けて、今現在その連勝数は490を超えた。あと少し、あと少しで解放される。だから負けるわけにはいかないのだ
しかし、現実はそう簡単にはことを運ばせてはくれそうもない。先ほどから感じている腹の痛み、おそらくこれは陣痛だ
先ほどの男にされた馬乗りパイズリのせいで腹の子が驚いたのだろう、私の体は赤ちゃんを産み落とす準備をしていた
この子の父親は誰かはわからない。初めの頃順調に勝利を重ねる私を恨めしく思った男達に集団強姦された事がある。あれ以降、男達に襲われては幾度となく胎に男どもの汚れた精を受け止め続けきた
そんな事をしていては当然、いつかは受精してしまうもので、コロッセオで戦い始めてから数ヶ月後のある日、突然の吐き気と腹の違和感で私は自身の妊娠を悟った
あの時は、気が狂いそうで腹を掻っ捌いて死んでやろうかとも考えた。だがしかし、どんなに望まぬ子であったとしても、私の元へときてくれた子だ。せめて母親らしくこの世に生を与えてあげたい。そんな思いで今日まで守り続けていた
そんな子が今まさに産まれようとしている。まだ陣痛の感覚には間があるが、それでもお産に油断は禁物だ。それに何より、私は初産ではなくこの子で3回目の出産なのだ。ある程度産むことに慣れている胎さ容易く赤子を産み落としてしまうに違いない。とにかく、破水だけはしないように立ち回らなければならない。そう思い、剣の柄を握り直す
「はぁ…はぁ……」
酸素を取り込むため、必死に肩を上下させた息を吸う。それでも早鐘を打つ鼓動は大人しくなる気配はなく、額からは球のような汗が流れ落ちる
今日の試合開始からすでに数時間が経過していた
今日は普通の試合ではなく、トーナメントのようなもので、普段ならば一日で勝利数を稼ぐいい機会なのだが、こと産気づいている今だけは地獄よりも過酷な試練となって私に襲いかかってきていた
すでに私の連勝数は498、目の前の敵を倒せば499、あと1人でこの地獄から抜け出せる
「どーしたブーディカ?さっきからゼェゼェ辛そうだなぁ?もしかして子供でも産まれそうなのか?」
戦斧を持った男は心底バカにしたように私を嘲る。しかし、それに言い返す気力もなかった
男の言う通り、もう産まれそうなのだ。陣痛の感覚はほとんど無くなり、執念で耐えている羊膜が破水していないのが奇跡と言っていいレベルだった
「アンタには…関係…ないでしょう…ハァハァ……かかって来なさいよ」
陣痛でまともに動けそうもない私は、相手を煽り、攻撃を誘う。しかし、ここまで勝ち上がって来た相手だ。有象無象の奴らとは違い多少の頭はあるようで、煽りには反応せず、ただニタニタと苦しむ私を嘲笑していた
「どれ、優しい俺様が少し手伝ってやろう」
そういうと、男は足を天高くあげ思いっきり地面を鳴らした
その衝撃は凄まじく、石造りのコロッセオ全体が震えるほどだ。そしてそれは私にも直撃していて
パシャッ
嫌な水音と共に、またから温かいものが流れるのを感じた
破水した

「ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙…やばい…産まれる…ぅ゙ぅ゙ぅ゙!!」
こうなっては、もはやお産を止める手段はない。溢れた羊水を潤滑剤として、胎児がどんどん降りてくるのがわかった
破水に合わせ、陣痛はほとんど休みなか襲ってくるようになる。なんとかいきみたい衝動を逃がそうとするが、本能には逆らえず大衆の面前で獣のような声を上げることをやめられない
お産の痛みに耐えかね、よろけると足元にできた羊水の水溜りがピチャピチャと音を立て、この状況の惨めさを私に何倍も増しで伝えるのだった
「どうだ?降参でもしたらどうだ?そうすりゃ俺がお前の赤ん坊を取り上げてやるぜ?」
「誰がアンタに降参なんか…んん゙っ゙!゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ゙っ゙!゙」
もう限界であった。産みたい、赤ちゃんを産みたい、産んで楽になりたい。頭の中がそれ一色になり、母としての本能が戦いへの理性を削っていく
剣を支えに尻を突き出す形で秘所から液体を垂れ流しにする私を愉しもうと、男がにじりよってくる
男の手が私に触れるその瞬間、鈍い鉄の塊が翻る
コロッセオの空に男の首がアーチを描いて飛んでゆく
最後の力を振り絞った渾身の反撃は見事に相手の首を切り飛ばし、私は499連勝目を上げた

ほっと一息ついた体は、隙を見せた瞬間にお産を進め始め、一気に胎児の頭が体外へと露出してしまった
「あ゙ぁ゙っ゙!゙や゙ば゙い゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙赤゙ぢゃ゙ん゙の゙頭゙出゙る゙っ゙」
いきなりのことに驚いてしまったが、戦いが終わった以上、あとは産んであげるだけだ
肩を出すために腰布の紐を取ろうとしたその時であった
コロッセオの向かい側、入場口から新たな男が現れたのだ。私は状況を飲み込めず、ただ無意識に腹を庇うような体制をとる
実況は決勝戦だのなんだの言っているが、私のままにはうまく入らない。ただ産んでいる最中という最悪のタイミングで敵が現れた、その事実だけが私を支配した
震える手で剣を取る。胎児がこれ以上出ないように内股の状態で剣を構える
陣痛の痛みと地獄のような状況に何も考えられなくなった私は、獣のような怒声をあげ、敵へと切り掛かるのだった