前戯
☆
祈本里香の姿を認めた瞬間、乙骨憂太の脳内に溢れ出す里香との愛しき記憶。その全てが、魂が、目の前の存在を『祈本里香』だと認識する。
「リカちゃん」
一寸も意識を逸らさずその口から漏れるのは隣に佇む最愛の名。折本里香は死んだ。そして確実に成仏した。故に確認を取る。何よりも誰よりも『祈本里香』を知る『リカ』へと。
『これ、里香だよぉ゛』
偽物。変身の術式。考えられた可能性は、『リカ』の言葉によって否定される。
「憂太。里香だよ、憂太」
その声が。微笑みが。全て祈本里香だとなお訴えかけてくる。
「ち、違う...だって、里香ちゃんは...!里香ちゃんは...!!」
乙骨は頭を抱えて尻餅をついてしまう。絶え間ない冷や汗。焦点の合わない目。いまの彼の様子を見て、誰が特級術師と見てくれるだろう。それ程に彼は憔悴し焦燥する。そんな彼に、里香はそっと近寄り膝の上に跨る。
「憂太。リカを信じて」
その言葉に、乙骨は顔を上げ、里香と同じ位置まで視線の高さが揃う。
「り...里香ちゃん...」
乙骨の視界が滲み始める。容姿だけではない。匂いも。重さも。触り心地も。なにより。
「んっ...」
僅かに添えられた唇から伝わる感触も。
五感で感じる全てがかつての『祈本里香』そのままだ。
ここまでして、ようやく目の前の少女が『祈本里香』であることに魂が納得することが出来た。
「憂太。いっぱい抱きしめてほしいな」
「うん...うん...!」
乙骨は里香の腰を強く抱きしめ、その存在を確かめる。
その体温を。存在を。全てを愛おしむように。
「憂太...」
里香は憂太の頬に手を添えると、顔を引き寄せ、二度目の接吻をする。
「んっ……」
今度は里香から。僅かに開いた唇から舌をねじ込ませ、彼の口の中を蹂躙する。
「はーっ♡はっー♡」
里香の吐息は熱く甘い。それに当てられた乙骨の息もまた荒くなり始める。舌と舌が絡み合い、互いの唾液が混ざり合う。
『あ、あうあうあう...』
そんな2人の濃厚な絡み合いを、リカはおろおろと狼狽えながら見ることしかできない。もしもこれが他の女子なら即座に離れろと割り込むことができるだろう。しかし、今の憂太とキスをしているのは紛れもなく『祈本里香』即ち自分。ずっとこうしていたいという自分の欲望そのもの。故に嫉妬も憎悪も湧かず、ただただ二人を見ていることしかできなかった。
しばらく二人の『愛』を確かめあったあと、里香が口を離すと二人の間に透明な橋が架かる。そしてゆっくりと顔を離すと、里香は少し口の端を吊り上げて悪戯っぽく笑う。
「憂太、おっきくなってるよ?」
「あっ」
そこでようやく、乙骨はズボンの下から存在を主張する怒張に気づく。里香とのキスで興奮してしまったのである。
『わ、ァ...♡』
「え、あ、ち、違くて!これはその...」
「いーんだよ。憂太も大人になったんだねぇ」
「うぅ...」
乙骨は気恥ずかしさで顔を赤らめる。いまの乙骨は高校1年生。草食系男子の彼でも性欲が身についてくる頃合いだ。
いくら幼いとはいえ愛している相手に密着し濃厚なキスをされれば当然反応してしまう。
「見せて見せてー♩」
「だ、ダメだよ...こんなところで...」
「えー?」
里香は駄々をこねるように口を尖らせ、しかし乙骨が拒否すればそれ以上は手を出さず。
「あっ、そうだ」
ふと里香は何かを思いついたかのように立ち上がると、乙骨の手を引きあげる。
「憂太こっちきて」
「り、里香ちゃん?」
里香の手を引く先は男子トイレだ。乙骨は戸惑いながらも里香に連れられるまま個室トイレの中へと入る。
「な、なんでここ……?」
「ここなら恥ずかしくないと思って...だって」
里香は便座に跨りながら、妖艶に囁く。
「ここにいる間の里香は憂太のおトイレになるから」
「え……?」
里香の言葉の意味を理解できない乙骨はぽかんとした顔になる。しかし、里香は構わず続ける。
「トイレの前におちんちんを出すのは当たり前でしょ?だからぁ、憂太はこれから里香でスッキリしちゃうんです」
すりすりと媚びるようにズボンに頬擦りをする里香に言いようのない怖気を抱く。
(り、里香ちゃんはこんなこと言わない!)
咄嗟に個室から出ようとする乙骨。しかし、彼が外に出る前にカチャリと音が鳴り防がれる。鍵をかけられた。かけた犯人はーーー『リカ』。
「リカちゃん!?」
乙骨の表情が驚愕に染まる。リカの行動は基本的に乙骨が主導となる。そのため、個室のドアを開けさせようと思えば容易いことだ。しかしそれ以前に。リカが自主的に逃げ道を塞いだことに驚きを隠さなかった。
『...憂太ァ゛』
いつもの勇ましさはどこへやら。縮こまるような声でリカは声を漏らす。
『里香はリカで、リカは里香なんだよ゛』
「ーーーっ!」
乙骨は思わず息を呑む。リカが認めている以上、目の前の存在は間違いなく祈本里香だ。その彼女が自発的にやりたいことは、間違いなく祈本里香がやりたいことなのだ。
ーーードクン
それを自覚した途端、乙骨は下腹部に熱を帯びていくのを実感する。擦られる頬を押し除けるようにズボンが張っていく。そんな膨張に里香は艶めかしく微笑み、チャックを口で開ける。
乙骨は抵抗しなかった。
ボロン、とチャックから雄の象徴が飛び出るのを遮ることもしなかった。
突きつけられる熱気に里香の頬が赤くなり、それを見ているリカも息が荒くなる。
「元気いっぱいだね。里香をおトイレに出来て嬉しい?」
里香は乙骨の怒張を優しく握ると、愛おしそうに頬擦りをする。
「いっぱい出そうだね。里香(おトイレ)でいっぱい出して...ね♡」
里香は舌を伸ばし、唾液を溜めるとそれを亀頭に垂らす。生暖かい感覚が乙骨の背筋を走り抜ける。
「はっ♡はッ♡」
漏れ出る吐息が大きくなるにつれ、鈴口からは透明な先走りが滲み出す。それを見た里香は再び喉を鳴らすと、先走りを舌で掬い取り先端をチロチロと刺激する。
「ぅ、あっ」
(里香ちゃんが僕のを...)
乙骨は無意識のうちに里香の頭に手を添えると、髪を撫でる。里香もそれが心地良いのか目を細める。
「いいよ、いまの里香は憂太専用おトイレだから。憂太をたくさん気持ちよくしてあげるね♡」
里香は口を大きく開けると、乙骨のモノをゆっくりと口に含んでいく。唾液が潤滑油となり、乙骨のモノに吸い付くようにスライドしていく。その心地よい感覚は乙骨から抵抗を奪うには充分だった。
「ふぅっ♡はっ、ちゅっ」
里香の舌使いが徐々に激しくなる。頰で圧迫し、じゅぽっと音を立てて吸い上げる。その度に里香の口から涎が垂れ落ちるが気にせず続ける。
(あ、あぁ……)
乙骨は自分の鼓動が早くなるのを自覚する。
自分でも信じられなかった。大好きな里香が、専用トイレを自称して。体は名を表すという諺に倣うように奉仕を始めて。そんな少し変態チックな行為にどこか興奮している自分がいるだなんて。
「ひゅうひゃ、ひもひいい?」
「う、うん」
乙骨は素直に答える。その答えに里香は嬉しそうに微笑むと、ますます口淫の速度を上げる。じゅぷ♡じゅぷ♡といやらしい水音がトイレの中に響き渡る。
(ダメだ……出ちゃう……!)
目を瞑り、射精の前兆を感じたその時だ。
「憂太ー、ここにいる?」
ノックと共に呼びかける声がひとつ。五条悟だ。