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「そう…シャンクスは最後に…」

ルフィから父シャンクスたちの最後を教えてもらったウタは溢れそうになる涙を誤魔化すようにグラスの酒を煽った。


あの後様子がおかしい二人にサンジとウソップが質問をしルフィとウタは辿々しくお互いの関係を話した。

それを聞いた二人は空気を察し気を遣って二人で話をするように言って用事を思い出したと店長に伝えルフィの分も含めたお代を払って店から出ていった。

ウタはルフィからいろんなことを聞いた。

村から出ていった後の冒険の話を

秘密結社と闘い国を守った話を

空に浮かぶ島の話を

兄を守れなかった話を…

ルフィはこんな場所で夢を誓い合った幼馴染と再開した空気を誤魔化すように話せるだけ話した。


会話を途切れさせたくなかった。


「えっと…そういやお前はあの航海の後どうしてたんだ?…あっいや⁉︎嫌なら無理して話さなくてと…」

どうしてもウタが12年前に別れてから今まで何があったが気になったルフィはウタに聞こうとしたが親子の問題だと深入りしないと決めた以上聞く資格はないと思いしどろもどろになる。

「気にしなくて良いよ…アンタばかり話しても不公平だしね。」

そう言うとウタは再び酒を煽り自分の12年間を話し出した。

滅んだ島にシャンクスたちに置き去りにされたこと…

12年間生き残りのゴードンに育てられながらただただ音楽のレッスンをし続けたこと…

いつの間にか新しい時代が到来しシャンクスとルフィのことを知ったこと…

色々あって島から出て夢を追おうとしたが現実に打ちのめされたこと…

盗人になるか娼婦になるか追い込まれた時にここの店長に拾われたこと…

淡々と話すウタの話をルフィは冷や汗をかきながらも黙って聞いていた。ルフィは信じられなかった。シャンクスに嘘をつかれていたこと。ウタがそんな状況で暮らしていたこと。そんなことを知らずに生きてきた自分に…

真相を知ろうにもシャンクスはすでにこの世にいない。感情に任せてウタの言い分を否定するほどルフィはもう子供ではなかった。

「飲みなよ?私の奢りだから。」

そう言われてルフィは頭の中のモヤモヤを振り払うようにグラスに入ったウイスキーを流し込んだ。顔が赤くなり頭は少しクラクラする。やはり酒は好きになれない。

そんな様子を見てウタは子供のように笑った。


ウタは羨ましかった。

そして妬ましかった…

自分が12年もの間監獄のような島で暮らしている間に自分の知らない仲間たちと自由に冒険していたルフィが。シャンクスの想いを託されたルフィが…

ウタは考えそして決断した。

「ねぇルフィ?もっと話を聞きたいな?私の家近くだからそこ行かない?」

「えっ?でもお前…」

「シャンクスの話をもっと聞きたいの…!」

突然家に来るよう言われて酔ったこともあり一旦帰ろうと考えていたルフィは意味がわからず困惑したがシャンクスの名を出されて思わずOKしてしまった。

「よし決まりね待ってて!…ママ!今日の仕事上がるけどいいかな?」

「おっほっほほホオーウホッホアアー!!!あらあらそういうこと!大丈夫よ!がんばってね〜!」

何を頑張るのか?その意味が理解できないままルフィは腕をウタに引っ張られながら店を後にした。(会計はウタが私の奢りだからと代わりに済ませてくれた)

ウタに案内されるまま集合住宅の階段を登り部屋の扉を開けて家に案内された。掃除はまめにしているようで多少散らかってはいるが自分の部屋よりは綺麗に整理整頓されていた。テーブルには音楽は趣味で続けてるのか書きかけの五線譜が置かれておりベッドにはたくさんのぬいぐるみが積まれていた。

「私ちょっとシャワー浴びてくるから…そこのベッドで休んでて。」

ウタからミネラルウォーターの瓶を貰い言われるまま腰をかける。

シャワーの水音がする間ルフィは未だにショックから抜けきれてなかった。

夢を誓い合った幼馴染がなんであんなところで働いてるのか?

シャンクスたちは何をやってたんだ?

酔った頭の中が疑問で埋め尽くされ気を紛らわすようにミネラルウォーターを一気飲みした後部屋を見渡すとベッドの頭の方の棚に見覚えがあるものがあった。


水色の小さめのヘッドフォン


それは間違いなく12年前のあの頃付けてたものだ。今でも大事にとっていたのかとルフィは手に取って思い出に浸る。

ブツッ!

突然電気が消えた。

ブレーカーが落ちたのか⁉︎

ルフィが慌てていると誰かが近づいてくる音がする。

目を凝らすと目の前にウタがいた。


何も着ず生まれたままの姿で


「なッ⁉︎ウタ!お前何やっ…」

ルフィが言い切る前にウタにベッドに押し倒された。振り解こうにも酔っていたルフィは思うように振り解けない。

ルフィの左腕を掴んでたウタはそれを自分の胸に押し当てる。その柔らかさと温もりにハッとしたルフィは思わず彼女の身体を見る。まだ汚れを知らぬ身体に酔いが回った意識が吸い込まれそうになる。


「ウ…タ…」

「ごめんねルフィ…もう引き返せない…」


ウタは決断していた。

歴史に名を残したルフィと何も残せなかった自分…

ならせめて…

あなた(歴史)に私の歌を刻んでやると…


その晩ウタは獲物を狙った獣の目をしながら舌なめずりをして彼を食らった。彼に自分という存在を刻むように…


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