初夜に失敗したルローの話
ルフィとローは、今無人島にいる。
理由はそう、セックスのためだ。
どうしてこうなった。
前提として、ルフィとローは恋人である。
詳しい経緯は割愛するが、麦わらの一味とハートの海賊団を巻き込んだ騒動があり、ふたりは収まるところに収まった。一連の騒動についてサンジとウソップは、げっそりとした顔で思い出したくもないと語る。
ちなみに、ワノ国を経て同盟は既に解除したのでれっきとした敵戦の船長同士だ。今後海賊として戦うことがあれば殺し合うのはお互いに承知の上である。
普段は別の船に乗っているので恋人とはいえ顔を合わせるのは稀で、ルフィはそもああいう性格なのでふたりの関係は遅々として進まなかった。
手を繋いで街中を食べ歩きをしたり、触れ合うだけのキスをしたり。
いや、それだって楽しいしふわふわとした気持ちになって好きだが、おままごとみたいなデートだけでいつまでも満足できるほどローは子供ではない。
そういうわけで痺れを切らしたローは、電電虫越しにルフィに、次に会う時にセックスするぞ、と告げた。
それを聞いたルフィはおう!と元気に返した。
どういう感情だ、それ。だがまあ肯定の返事はもらえたので問題はないだろうと、ローは気を取り直した。
それなりに栄えた島で麦わらの一味と合流したローは、約束を果たすためにルフィを連れ出した。そうして適当に歩いて、煌びやかではないが壁が厚く、掃除な行き届いたこじんまりとした宿を選んだ。ささやかだが宿の中で一番良い部屋を取る。
さて。
ローは海賊歴10年になる成人男性なので当然性交の経験はあるが、流石に億越えの化け物と交わったことはない。ついでに言うと男との経験もなかった。
そしてルフィはというと、海賊で19歳、通常なら性に興味津々ヤりたい盛りのはずだが、ピッカピカの童貞だ。モテないからではない。ルフィが行く先々で出会う女達から好意を寄せられているのをローはよく知っている(なんせその1人はあの海賊女帝だ)。しかし、ルフィはというと好意は勿論、一度きりの夜のお誘いだって素気無くお断りする。理由は興味ねえしメシ食って冒険してるほうが楽しい!だそうだ。訳がわからない。
とにかく、そうした二人が恋人になり、おもに歳上のローが主導して初夜に挑もうとしてーーー。
まあ、失敗した。
実のところ、ローは恋人ができるのは初めてだ。経験ゼロのルフィも、初めての恋人との、初めての性交となるローも余裕がなかった。
ベッドにもつれ込み相手の服を脱がせようと手が絡み合い、気づいた時にはベッドは木っ端微塵になり宿は床が抜けて吹き抜けになっていた。どうしてこうなった。
カンカンになった宿の主人だが、ヘルプに呼んだフランキーとペンギン、シャチと何人かが元よりも丈夫でピカピカに直したのでなんとか怒りをおさめてくれた。詫びと口止め料にと、ローはついでにいい酒もくれてやった。
そしてこの結末に予定外の出費を強いられた、麦わらの一味の財布を握るナミはキレた。
そうして放り出されたのが無人島である。
街中だと騒ぎになるから二人きりでしてきてちょうだい。これはそういうことである。
無人島にはちょこんと小屋が立っていた。痛み切って中が雨晒しとなっていたそれをクルーがトンテンカンと屋根と床板を貼り直して埃をはらい、ベッドとマットレスとシーツをセッティングした。
ローは無言でそれを見ていた。
ルフィはというと、サニー号でフランキーとブルック、それからチョッパーに囲まれて何やらふんふんと話をしていた。
今ローはルフィと二人で無人島の小屋のベッドの上に座っている。
ルフィとローをここに放り出したクルーたちは、隣の島で補給を兼ねて滞在するとのことだ。次に戻ってくるのは1週間後。
小屋の中にはサンジの持たせてくれたお弁当、水に食料。それからコンドームとローションが置かれていた。
「………………」
完璧にお膳立てされている。有り難いがこれを用意したのが自分達を慕うクルーだと思うとなんだか居た堪れなくて、ローは俯いた。
「…トラ男」
恐る恐る、と言った風にローの名前が呼ばれた。あ?と顔を上げると、ルフィはしょぼんとした顔をしていた。
「悪い、怒ってるか?」
予想外の言葉が飲み込めなくて、ローはルフィを見つめた。
そういえば、セックスの失敗から宿半壊の後はドタバタと事後処理に追われてろくにルフィの顔も見れていなかった。
「トラ男がセックスするぞ、なんて言うからどきどきしておれ我慢できなくて」
宿だって壊すつもりなんてなかったのに、と俯いたルフィを見て、ローの胸が高鳴る。
正直なところ、目の前の少年はローとのセックスにあまり興味が無いと思っていた。今回のセックスはローからの願いだったし、受け入れた後もルフィが本当に行為の意味を知っているかさえ怪しいと踏んでいた。その上初夜に失敗して、ローは少し気落ちしていた。クルーの怒涛のお膳立てに突っ込みも出来ずに流されるくらいには。
それなのに、ルフィはローとのセックスにどきどきして、無我夢中になっていたのだという。
ローの中で先ほどまで焦りと恥とが溶けていく。冷たかった指先に血が通い出す。
「麦わら屋」
名前を呼んで、そっと唇を重ねた。いつもの軽く触れるだけのキスよりも少しだけ長く。
ルフィはいつになく柔らかいローの笑顔を見て、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「別に怒ってねえよ…ただ、今度はちゃんと最後まで抱いてくれ」
あいつらのおかげで時間はたっぷりあるしな。吐息がかかる近さで告げられて、ルフィの顔が真っ赤になる。
そんなルフィを見てローは今度こそ声を上げて笑った。
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※入れる場所がなかったので補足しますが、ルフィ船長はフランキーとブルックに宿半壊事件で恋人に恥をかかせてしまったことについて苦言をもらってます。
チョッパーは男同士のセックスについての医学的な観点からのアドバイス。コンドームとかローションの使い方もレクチャーしてます。お医者さんなので。
ローはセックスするぞ!からの失敗。だいぶテンパっていたので自覚は無いけど周りから見ると結構緊張と気負いでガチガチだったし落ち込んでました。
それを見てルフィも凹んでました。初夜失敗は堪える。
ルフィはローからセックスするぞ、と言われた時はよく分かってなかったけど、その後男部屋で助言とかもらってローと合流するまでどきどきした夜を過ごしてました。
いざローを目の前にすると想像していたよりもずっと興奮して加減が出来ずにああなってしまった。
普段ならあそこまでふたりの事情に踏み込まないクルーが強引にお膳立てしてくれたのは、船長ふたりのためです。
この後1週間、いちゃいちゃしたり無人島を冒険したりいちゃいちゃしたり魚を釣ったりいちゃいちゃしたりします。