端切れ話(初めての炭酸水)
地球降下編
列車移動の旅の合間。食事を済ませたエラン達は、この後の列車移動中にも何か飲み物があった方が良いだろうと、駅構内にある店に入った。
ずらりと並べられる中身入りのビン、パック、ペットボトル。色も形も様々な飲み物に、目移りしてしまいそうだ。
「いっぱいありますね」
「そうだね」
とりあえずアルコール類は除外して、スレッタが飲めそうなものはベリージュースや清涼飲料水、水、紅茶くらいだろうか。
それを説明すると、悩んでいるスレッタを尻目に、エランはさっさとミネラルウォーターを手に取ってカゴに入れた。
あまり甘いものが好きではないエランにとって、この辺りの飲料は甘すぎる時がある。紅茶にも砂糖が入っていないことが多いが、今回は水が飲みたい気分だった。
それを見たスレッタも、少し悩んだ仕草をしたあと同じ商品をカゴに入れてた。
「他にも色々種類があるけど、いいの?」
「最近甘いものばっかり飲んでいたので、たまにはさっぱりしたものが飲みたくて」
「さっぱり…ああ、じゃあちょうどいいね」
「はい、お水はさっぱりしますから」
さっそく買い物を済ませると、また2人は手を繋いで駅構内を歩いていった。
列車での移動中。少し喉が渇いたエランは、さっそく買ったペットボトルを呷って水分補給をした。あまり飲みすぎるとトイレが近くなるので、あくまで口を湿らせるための1口だけに留める。
それを見たスレッタも自分の分のペットボトルの蓋を開けて、同じようにコクンと飲んだ。
とたんにケホッとむせてしまう。気管にでも入ったのだろうか。
「スカーレット、大丈夫?」
「けほっ、は、はい。あの…これ、水…ですよね?」
「そうだけど」
「な、何だかシュワシュワします。それに苦くて…酸っぱいです」
そこまで聞いて、エランはあっと思いついた。
「もしかして、炭酸水を飲んだことがない?」
「炭酸…あ、これが…」
宇宙では無限に泡が膨張し続けてしまうので、基本的に無重力空間では炭酸飲料は置いていない。
フロントのような安定した重力の元では普通に飲まれているが、彼女が住んでいた水星では物資の乏しさもあり置いていなかったのだろう。
「学園なら炭酸飲料も色々売ってたと思うけど、それは飲んだ事ある?」
「いいえ、興味はありましたけど、ほとんどお水やスポーツドリンクで済ませてました。食事や水分補給にはそれで十分なので」
炭酸水どころか炭酸飲料そのものが初めてだったらしい。それは驚いたはずだ。
「この辺りのミネラルウォーターはガス入りのものが多いんだ。苦くて酸っぱく感じるのは硬水だからだね。砂糖入りの炭酸飲料ならもっと飲みやすいだろうけど…」
すでに列車は動き出している。エランは申し訳なさそうにスレッタを見つめた。
「い、いえ。ちょっとビックリしましたけど。次からは大丈夫です。さっぱりは…しそうですし」
「一応言っておくと体にはいいよ。疲労回復や代謝の促進にもなるし。でも無理はしなくていい」
「だ、大丈夫です。こくっ、ん、こくっ、ぷは」
言った端から無理をしている。頑張ってコクコクと飲んでいるスレッタを止めた方がいいかと迷っていると、その内に、けぷん、と可愛らしい音が聞こえて来た。
「………」
「あ、あれ?…けぷっ」
「……炭酸水はガスが溶け込んでるから、お腹に溜まった分を逃がそうとしてるんだよ」
「ひ、ひえぇえ…ッ!…っけぷ」
「あの、ごめんねスレ、……スカーレット」
顔を真っ赤にして涙目になっているスレッタに、エランはやっぱり早めに止めた方がよかったな、と反省しながら思ったのだった。
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