初めてのクリスマス
※二人で暮らし始めて間もない頃の話
※クリスマス要素薄め
「最近やけに外が照明で明るいね。何かあるのかな?」
「クリスマスだからだろ」
電飾をあしらった家や街路樹たちが夜を明るく照らしているのを見てキャメルが疑問に思ったことをそのまま口にすると、弟から答えが返ってきた。
「クリスマス」
キャメルは聞き慣れない言葉を繰り返した。
「クロはもの知りだなぁ。クリスマスだから外を明るくするの?」
「アニキがものを知らなすぎるだけだ。別にそれがメインじゃない。家族でケーキとか肉とか食うんだとよ」
「ふぅん」
兄は興味がないことへの知識はとことん無い。クロコダイルが自分だってよく知りもしないクリスマスとやらの説明をしたところで、兄の記憶には明日まで残るかさえ怪しいだろう。クロコダイルはもちろんそれを分かっていたが、自分の見聞きした情報からクリスマスがどんなものであるか兄に話した。最近はクリスマスとやらに浮かれた連中が多いから、よく耳に入るのだ。
「ねぇ、私たちもやろっか。クリスマス」
窓の外を眺めていた兄が振り返って目尻を下げた。
どうやら兄の興味をそそる何かがあったらしい。
「まずはケーキを買いに行こう」
今度は二人でだよ、と兄が言う。
ケーキは一度だけクロコダイルの誕生日に食べたことがある。その日は何やらコソコソしていた兄がケーキを一切れ買ってきたのだ。なんでも誕生日にはこれを食べるものなんだと、どこから仕入れてきた情報なのかそんなことを嬉々として喋っていた。
「ほら、クロのために買ってきたんだ。食べて食べて」と何がそんなに嬉しいのか、いつも以上に顔を緩ませた兄がフォークを渡してきた。
そんなに見られていては食いにくい、とクロコダイルは大きく掬った一口目を兄の口につっこんでやった。
兄は初め目を丸くしていたが、モゴモゴと口を動かすうちにその目をだんだん輝かせていった。
少し前に気づいたことだが、兄は甘いものが好きなんだろう。
この前もチョコレートを二人で食べた。クロコダイルは別に好きでも嫌いでもないが、兄がそれはそれは嬉しそうに食べるものだから付き合ってやっているのだ。
「あぁ、チョコレートケーキだろ」
「うん!」
普段よりはしゃいだ様子で外出の準備を始めた兄を見ながら、なるほどクリスマスってのも悪くないなとクロコダイルは密かに笑みをこぼした。